状況整理
__異世界でも、元の世界でも、快適に暮らすには何が大切か。
難しく考えがちだが、答えは到ってシンプル。
そう《衣食住》である。
……なんて言ってみたが、正直三つ全部そんなに困っていないんだよね!
転生してから、早いもので数か月。
恐る恐る森を探索してみると、ある事が分かった。
この森には全く強者がいないのである。
私より強い強者が。
これには異世界転生者の私もにっこり。
初っ端ハードモードとか勘弁して……って思ってたから、めちゃくちゃ嬉しかったよね!まぁ最初は当然苦労したけど。
目が見えないから触手と聴覚だけを頼りに、何日もかけて森の中を探索した。
その甲斐あって、割と楽にレベル上げが出来たのだ。
そもそもこの世界では、《レベル》と《スキル》が一番大切らしい。
ゲームや物語の中では当然と言えばそうなのだが、正直この世界に来たての私には、すぐに受け入れられる事では無かった。
だって私がいた世界ではレベルも、ましてやスキルもない。
物語や空想上の話、ただそれだけ。
それなのに電車で轢かれて、目を覚ましたら異世界!
しかも植物系のモンスターになってる!
事実は小説よりも奇なり……とはこういう事を言うのだろう。
まぁ今はそんな事考えても仕方ないんだけど。
ここまで来ると最早諦めだよ、諦め。
最初こそ「ここには邪魔をしたり、悪意を持って来る奴はいない!」なんて喜んでたけど、孤独が続くと気がね、狂いそうになるんだわ。
人間って、コミュニケーション取れる生き物が傍にいないと、本当に気が狂うんだなぁって……。今は植物型モンスターだけど、例外じゃない。
私がなぜこんなに気が狂いそうになっているかというと、ひとえに身の回りに意思の疎通ができる人間所か、モンスターすらいないからなのだ。
モチのロン、私と同じと思われる植物型モンスターはいるよ?でも……。
私の体に伸びて来た触手を、容赦なく叩き落とす。
叩き落としても、次から次へと伸ばされる触手に、ついため息が零れた。
もうあんまりにもしつこ過ぎて、一回共食いしそうになったよ。
えー、あんまりこういう事を大声で言いたくないんだけど……。
こいつ等食う事と寝る事、それに交配する事しか考えて無いんだよ!!!!
ん゛ん゛ん゛三大欲求に忠実!!
それ自体が駄目って訳じゃないけどさぁ~?
本能的な物だし、私達の種族的には正しい。
そもそも、私の種は単純な構造をしている。
いや、難しく言うのは止めよう。
直球で言うと、くっっっそ弱い。
それはもう悲しいくらいに弱いのだ。
某ポッケに入るモンスターの、世界一弱いモンスター並みに。
だけどその反面、繁殖能力が高く、そして驚く程しぶとい。
苦手な火属性魔法を食らっても、HP1残るくらいには。
環境破壊モンスターと言っても過言じゃ無いな。
実際にこの森には私達の種と、額に角が生えた兎?のモンスターしか住んでいない。真っ直ぐ突っ込んで来られた時は死を覚悟したよね。
人が立ち入らない程森の奥深く……という事もあり得るが、如何せんこの森のから出た事がないので分からない。安全地帯万歳!!
時々狼?の鳴き声がするから、森の外には強いモンスターがいる可能性は高い。
ま、この生活に飽きない限り、この森から出る事なんて早々あり得ないけど!
先ずは目が見えるようになりたいよね。
あぁ、誰か魔法とか教えてくれて、尚且つ会話らしい会話出来る生物、この近くにいないかなー……。って、それは望み過ぎか。
__この時、私は気付かなかった。
遠い木の陰からジッと私を見つめる視線に。
その瞳には期待と希望、そして僅かな怪訝が含まれている事に。
私は何も、知らなかった。
「!あれはモーリュ種の……」




