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オトナ

作者: 星野紗奈
掲載日:2022/01/23

どうも、星野紗奈です。


フォルダを整理していたら、まだ投稿していなかった作品を見つけました。

2018年に書いていたらしいです。

大掃除の時くらいに審査通知を見返してこの作品の名前を思い出したのですが、内容はさっぱり忘れてました……。

無事見つかって良かったです。

とりあえず保存用で投稿します。


それでは、どうぞ↓

 騒々しい駅の待ち合わせ広場。そこに、十五歳くらいの一人の少女がいた。

 彼女は、誰かと約束をして待っているわけではない。ただ、奇跡が起きることを心待ちにしていた。

 彼女は一週間ほど、同じ事を繰り返している。無意味なことだとわかっていても、それに頼らずにはいられないのだ。

 そして、奇跡は訪れる。

 少女の前を通り過ぎようとしたのは、彼女より顔二つ分ほど背が高い、男。

 年は、三十代後半くらいだろうか。

 顔に大きな傷があって、ジーンズをはいていて、左腕には鳥の形をした入れ墨が。

 とても、普通の人だとは思えない。

 しかし、彼女は恐れることなく男に声をかけた。

「ねぇ、おじさん。コウノトリって知ってる?」

 すると、男は目線は前を向いたまま、こう答えた。

「それは鳥について聞いているのか、それとも他のことか」

 彼女は期待通りの反応に目を輝かせる。

「もちろん、鳥じゃないほうのやつだよ」

「俺のことか」

「おじさんが困っている女の子をオトナにしてくれるって聞いたから、来ちゃった」

 彼女は大男を目の前にしているというのに、平気で笑ってみせる。

 この男にとって、珍しいタイプの人物かもしれない。

「来て、後悔するなよ」

「するわけないじゃん」

 男はじっと少女を睨み付けたが、彼女はにんまりと笑っている。

 男は少女の頼みを了承したのか、ぶっきらぼうに言った。

「ついてこい」

 男はそれ以上話さず、彼女もこれ以上踏み込むことはなかった。

「へぇ、案外普通の部屋に住んでるんだね」

「一体どんな部屋だと思っていたんだ」

「こう、ヤクザの拠点、みたいな」

「ひでえ話だ」

 男が連れてきたのは、彼の部屋だった。いたって普通のマンションの一室。

 見た目は普通でも室内は何かしらあるのではないかと思っていた彼女は、中にはいってすぐに落胆した。

 男の部屋で少女が見つけたのは、机のはしで伏せられたままの写真たて。

 彼女はためらわずにそれを手にとって見た。

 幼稚園などで作ったのだろうか。フレームは貝殻で可愛らしく飾られていて、中に入っている写真には、人物の近くに名前が書かれていた。

『しん さら まなえ』

 これはおそらく、家族写真。

 面白いものを見つけたと、彼女は再び目を輝かせる。

「この写真は?」

「お前さんみたいなコドモが気にすることじゃねえよ」

 男はどうやら、それを見つけられたくなかったらしい。あからさまに嫌な表情をした。

「別にいいじゃん」

 彼女はそんな男のことを気にする素振りも見せない。

「聞いて気持ちのいい話じゃねえぞ。いいのか」

 男は少女に目線を合わせて、そう言った。本来なら踏み込まれることのないはずの場所に、彼女が土足で踏み込もうとしているのだから、その対応は当然だ。

 すると彼女は、素っ気なく答えた。

「私がその話を聞いて、おじさんのこと心配すると思う?」

 男はそれを聞いて即答する。

「思わねえな」

 男は多分、呆れている。これだけずかずかと人の触れられたくない事を聞く人物は、大抵同情なんてする奴じゃないとわかっているから。

「じゃあ聞かせてよ」

「仕方ねえな」

 そして男は、彼女の態度に諦めたように話し始めた。

「その写真に写ってるのは、俺の嫁さんと娘だ。まあ、ちょっともめてな。喧嘩した時に娘連れて、車で家を出て行っちまったんだ」

 男はまだ抵抗があるのか、ためらいながら話している。

 対して彼女は遠慮を知らない。

「それ、おじさんが悪いんじゃないの」

「確かにあれは俺も悪かった」

「『俺も』じゃなくて『俺が』ね」

 予想以上に頑固な彼女に、男はため息をもらす。

「それはどうでもいいだろ。肝心なのはその後だ。嫁さんと娘が乗った車は、事故に遭った」

 少女は、男の瞳が揺れたのを確かに見た。しかし、知らないふりをして話を続ける。

「それから?」

「死んだ」

「ふうん」

 彼女は興味が無さそうにそう言った。男はまた呆れた。

「人にしつこく話すように頼んでおいて、反応はそれだけか」

「だって、特別言えることなんて、私にはないもん。私は今奥さんの立場なわけだし」

「そういうもんか」

「そういうもんだね」

 暫く、何も話さなかった。決して、嫌な雰囲気が流れているわけではない。ただ、やはり前の話を聞いたあとでは、どう切り出せば正解なのか、お互いにわからなかった。

 先に静寂を切り裂いたのは、少女だった。

「ねえ、おじさん。私が死んだら、家族は泣いてくれると思う?」

 少女は目をふせている。男も、そっぽを向いて答える。

「さあな。俺の知ることじゃねえよ」

 すると彼女は、最初と似たように笑った。

「ひどいなあ。そこは嘘でも『うん』って言うところでしょ」

「俺がそう言うと思って聞いたのか?」

「いいや。そんなわけないけど」

 彼女が満足そうに口角をあげたのを、男はちゃんと知っている。

 数秒間の沈黙の後、少女は言った。

「ねえ、おじさん。私、誰かに愛されたかっただけなの」

「へえ」

 男はつまらなさそうに相づちをうつ。その反応を無視して少女は続ける。

「家族は、私がいなくても心配なんてしてくれないし。正直、私は生まれてこなくても良かったんだなって」

「そうかい」

「事故で亡くなったのに同情するつもりはないけど、おじさんに大切にされてるってことはわかるから、すごく羨ましい」

「まあな」

「ねえ、おじさんは、私を忘れないでいてくれる?」

 少女は、コドモの目をしていた。まるで、母に何かをねだるような。きっと、彼女は男に期待しているのだ。他の誰でもない、彼に。

 それを察したのか、男はクローゼットの中から一冊のノートを持ってきた。

「何これ?」

「全員、俺のところに来た奴だ。お前さんもここに名前書け」

 目線ははずしながら、男は不器用にノートを渡す。

「いいの?私なんかが」

 そう言いながらも、彼女はノートを受け取ってしまった。ゆっくりページをめくってみると、沢山の名前が書かれていた。既に、ノートの半分くらいのページまで真っ黒に埋め尽くされている。

「俺のところに来るのは、何かしら抱えてきた奴なんだ。俺が忘れちまったら、きっとそいつらは消えちまう」

 重たい雰囲気を壊すように、彼女は言う。

「おじさんって、もしかして自意識過剰タイプ?」

 すると男はこう答えた。

「お前さんがそう思うんならそれでもいいさ。でも、俺はここにいる奴らのことは忘れねえよ」

 彼女はまた、満足そうに口角を上げた。

「変な人だね」

「よく言われるからもう慣れたよ」

 男は、鼻で笑いながら彼女にそう言う。

 どうしても動じない男に、彼女は揺さぶることを諦めた。

「あっ、そ」

 そして彼女の目は再びふせられた。

 何も話さない時間というのは、普通の人にとって度々苦痛になる。しかし、男と少女の間にそのような感情はなかった。

「おじさん」

「なんだ」

 何かを決心したような、真面目なトーンの声に、男は耳を傾ける。

「私、やっぱり戻るよ、私の家に」

 少女の瞳は、まっすぐ前を向いている。

「好きにすればいい」

 男はそれほど興味がないのか、素っ気なくそれだけ返した。

 彼女はそれを気にする様子も見せず、芯の通った声で話を続ける。

「おじさんが、覚えててくれるっていうから。忘れないって言ったから。信じるよ」

「ああ、男に二言はねえよ」

 二人は目線を合わせ、しっかりと意思を確認しあった。それで納得したのか、彼女は最初のようにまたへらへらと笑いながら言った。

「今度会った時は、ジュースの一本でも出してもてなしてよね」

「そりゃあお前さん次第だな」

「女は顔ってこと?」

「好きなようにとればいい」

 少しの間談笑して、少女は意外にもあっさり立ち上がった。名残惜しくはないようだ。そんな少女を玄関先まで見送ってくれるのは、男の優しさなのだろう。

「またね」

 少女は清々しい顔で男の部屋から出ていった。

 静まり返った部屋で、男は安堵のため息をつく。すると突然、軽快なメロディが室内に響き渡り、男はすぐに携帯を開いた。

「もしもし、って、さらか。また母ちゃんの携帯でいたずらしたのか。あとでちゃんと話は聞いてやるから、母ちゃんにかわってくれ。ああ、まなえ。もうすぐ帰るよ。また家でな」

最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'▽')

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