グランデーデの道
「何か」を探して 彷徨い歩く
そこは 一本道
「さて 今宵は何が出るだろう」
旅人風の男は 静かにぽつりとつぶやいた。
※※※
「はぁ、やっと出られた。」
銀色の髪をもつ冷たい美貌の女はあたりを確認すると、疲れた様子で、
目の前の男を見据え、尋ねた。
「失礼そこの方、ここはどこだろうか。」
男は答えた。
「.....。すまない、海底街へはどうやってゆけばよろしいか。」
男は丁寧に道のりを説明すると、女はげんなりした様子で礼を言った。
柔らかい琥珀糖のような瞳が印象に残った。
※※※
金色の梟の鳴き声が闇に染み渡る時間。
「はぁ…久方の外じゃ。ようやっと、出られた。」
長身の黒ずくめの男は、怜悧な表情を歪めて、少し長めの黒い前髪をかきあげた。
汗をしたたらせながら、あたりを確認すると、先の女と同じく目の前の男を見据え、
疲れた様子で、少し口調を改めて尋ねた。
「…すまぬが、そこの方、ここはどこだろうか?…もしや、虚無の森か?」
男は否と答えた。
そして昔誰かが名付けたこのあたりの地名を教えた。
真っ黒な男は弱った様子で何事かを呟いていたが、
しばらくして、道のりを尋ねると、男に礼を言い、今にも過労で死にそうな顔で去っていった。
男はその方角へ目を向けながら、色欲と快楽に品を与えるとあのような形になるのだろうかと失礼な事を考えていた。
※※※
木陰の妖精が昼寝をする時間。
何かが落ちた音がした。ふと目の前をみると、一冊の本が道にあった。
男はそれを手に取った。珍しいこともあるものだと思いながら。
本の表紙は小さな可愛い花の絵で埋め尽くされていた。
裏表紙も見た。そちらは小さな花の絵が一輪だけ。
もう一度、本の表紙を見る。
表紙には題名がなかった。
ふと気になって背表紙を確認すると、そこにあった。
本の題名は『静かな眠り』
男はしばらくその題名を眺めていた。
※※※
寝起きの太陽が月にからかわれる時間。
男は少し目を閉じてみた。
その日は何も
現れなかった。
※※※
コツ コツ コツ
誰かの足音がした。
「これじゃ、すね毛も剃れねぇ!!」
酒焼けした男の大声があたり一帯にひびいた。
うっすら目をあけると、靴を履いた足があった。
文字通り足だけだった。
「ああああ、これから嬢ちゃんと一緒にお出かけだってのに!!
うらあああああ、ふざけんな!!!俺の身体どこ行った!!」
男の大声とは対照的に靴の音はコツコツと可愛らしい控えめな音で、男は思わず笑ってしまった。
「おい!!そこの兄ちゃん!!教えてくれ!!ここはどこだ!!」
見たところ高価そうな革靴を履いた足首だけだが、不思議と視覚はあるようで、忙しなくコツコツと二足の靴を鳴らしている。
男は靴に答えた。
「なんだ、ずいぶん近いじゃねぇか!!良かった!!急げば間に合う!!」
二足の靴は男に礼を言うと、待ってろ、嬢ちゃん!!と叫びながら、慌ただしく去っていった。
いつか見た象を彷彿とさせる大きな足だった。
男は空を見上げた。
星の女神が夜の散歩をする時間だった。
※※※
どこかで誰かが私の名前を口にした。
※※※
※※※
氷の女王が命に悪戯を仕掛ける季節
その日も、男は一本道を歩いていた。すると、
びちょびちょびちゃ
どさり
何かの液体が落ちる音と大きな音がした。
目の前には幾人かが道に寝転がっていた。
よくよく見ると、腐敗した様子の者と骨だけの者ばかりで、息のある者はいなかった。
その中で男は見つけた。
腐乱した遺体、ほぼ液体に近しい者のおそらく手だ。
そのあたりに、「指」をみつけた。人差し指だ。
悪臭を放つ液体の海にそれだけが美しいまま生きていた。
男は笑った。
「ああ、やっと見つけた。」
男はほつれたマントを翻し、自分の右の手を見つめた。
そこには、人差し指がなかった。
男は鼻唄をうたいながら、たった今見つけた自分の人差し指をくっつけた。
「お前今までどこにあったんだい。ずいぶんと探したよ。
ああでも、これで5本揃ったよ。物を掴むのに障りがなくなる。素晴らしいことだ。」
男は上機嫌な様子で、自分の手をにぎにぎとしながら、いつものように目の前にある一本道を歩いていった。
「さて、今宵は何が出るだろう。」
男は今日も、彷徨い歩く。
「何か」を探しながら、今日も歩く。
※※※
〇〇〇〇の一部を管理する者へ
力のある者は名を口にしてはいけない。
真っ暗な落とし穴に出遭ったら避けてはいけない。
真っ黒な壁に出遭っても避けてはいけない。
力のない者は後ろを振り返るといい。
闇夜からの招待状に応えてはいけない。
応える者は死神の餌になる。
力のある者は自分と近しい気配を目指せばいい。
道が現れたらそこにいる者に尋ねるといい。
ただし名前を尋ねてはいけない。
近しい気配でもそれは天災であるから。
その道はその者の檻である。
113年 忘却の川にて
ナートウーラより
最近、掃除をしていて、途中で放り投げたプロットがいくつか出てきました。そのうちの一つですが、最後まで書いてみました。これで、紙類処分できる。すっきり。