U3-A「スペシャリスト」「例外」「医師」
──2474年秋
とある都市の病院で……
私はこれまで何人もの人を殺してきた。私はスペシャリストアーキテクチャの中で医者の能力を持つ、外科医師のアンドロイドだ。アンドロイドなのに人を殺せる。人を殺すアンドロイドは処分されるはずなのに、私は処分されること無く生きている。それは医者である特権とでも呼ぶべきだろうか。
最近、私は疲れていた。先日、患者を救えなかった私が患者の家族に死亡を告げると「あなたは酷く冷たい先生ですね」と患者の家族に言われた。冷たい、ということは何かのお芝居で見たような、人が死んだら泣きなさい、悲しみなさい、慟哭しなさいということなのだろうか?
私にはそんな感情は無い。私は目の前の患者を救うために100%の力で働き続ける。そんな私は欠陥品なのだろうか?
朝、コーヒーを飲んで病院へ行く支度をする。自分で処方した抗うつ薬を飲んで仕事に向かう。鬱の薬はアンドロイドの電脳に作用するように電気刺激を与える。
アンドロイドなのに鬱になるなんておかしいと思うだろう。しかし、人間の脳を模倣した全脳アーキテクチャとリジェネレーションボディ、いわゆる自己再生する体を持っている私は、ほとんど生身の人間と同じと言っても過言ではない。目も近眼でメガネをかけなければ周りが見えない。
患者にも同じくリジェネボディのアンドロイドがいる。科学が進んで人工臓器が多用されるようになっても生体の臓器は何かしら病気《故障》を起こす。
病気知らずの体になるには身体を全てロボット化してしまえばいいと言うのに、なぜか創造主の人間は自分達の欠点まで完全再現してしまった。創造主の欠点を治す仕事が私の仕事なのだから何ともおかしな話だ。
──今日の患者は子供のアンドロイドだった。
「先生、この子をよろしくお願いします」
中年の両親が人間で、子供がアンドロイド。最近では普通の家庭環境になってきている。
「まだお若い、お子さんは何歳ですか?」
中年の夫が答える。彼の妻は疲れ切っている様子だ。酷く落ち込んでいる。
「まだ4歳です……内科で検査をしてもらったら人工臓器に影が……あると言われました」
「顔がやつれているね、栄養状態がよろしくない。再生体が上手く機能していない。確実にこれは進行ガンですね」
「先生、こんなことを言うのはおかしいのかわかりませんが……アンドロイドがガンになることはあり得るのですか?」
「人間の体の機能を人工的に再現したボディが人工体です。傷も自分で治すことができるし、ロボットボディとの一番の違いは成長できること、老化すること。それが、ガンにもつながってくる」
「そんな……」
「あなた方はこの子を家に迎え入れる時に説明を受けたはずですが……大量の冊子、規約には目を通さない人がほとんどですが」
話を聞くとこの中年夫婦は不妊治療の末、成長するアンドロイドを迎え入れたのだという。再生体アンドロイドの一番のメリット、人と同じく歳を取り、成長し老いて死んでゆく……それを選んだ。それを選んだはずなのに、彼らは突然襲った幼い我が子の進行ガンを受け入れることができない。
「方法はあります。電脳以外の全てのパーツを機械に置き換える。ただし、見た目の成長は機械ですのでそこで止まったままです。しかも、あなた達より確実に長く生きることでしょう。ということは、次の所有者候補を決めて頂くなど様々な手続きが必要になります」
中年夫婦は顔を見合わせ、子供の頭を撫でる。
「少し、考えさせて下さい」
「決断はお早めにお願いします。処置はなるべく早いほうが良いので、身体の衰弱が電脳に影響し機能停止の場合もあり得ますので」
「はい……」
──3日後、中年夫婦が決断をしたようで、私の所にやってきた。
「私達の子供の機能を停止してください」
まただ、この言葉を何度きいたことか。持ったペンが軋む。私はきっと怒っていたのだろう。はらわたが煮えくり返っていたのだろう。きっと鬼のような顔をしたかったのだろう。
人間は勝手な生きものだ。自分の子供が長生きして他人の手に渡ってでも生かす選択をしない。
「そうですか。それではそうさせていただきます」
「あっさりとしているんですね、先生」
「私はあなた達の願いそのままを行うだけですから」
私は、この子供を今から殺す。
処置室に入る。抗うつ薬を飲む。
「坊や、痛くはないから、この注射をするだけで楽になるから」
「……痛くないの?」
「そうだよ、おじさんはほら、プロフェッショナルの外科医だから、安心して」
「お父さん、お母さんは?」
「きっとまた、すぐに会えるよ」
スリープモードになった子供を抱え手術台のある部屋に入る。手術台の上にはロボットのボディ、頭の部分は開いている。
子供の電脳を素早く取り出し、ロボットの身体に換装する。あとはダミーの電脳を子供の元の身体に入れて両親に返す段取りだ。
「また、人を殺したな……」
処置室からストレッチャーに子供を載せ運び出す。ぐったりとしたボディの子供を両親にみせると両親は当たり前のようにシクシクと泣き始めた。
「手術完了です」
「ありがとうございました……」
子供のロボットが病院の廊下の角から両親をみている。身体が成長しないロボットの子供は要らないという理由で人生を失いかけた子供。
私はその子の両親が帰った後、ロボットの身体をもった子供に話しかける。
「今日から君はうちの子だ、ほかに仲間もいる。独り立ちできるようになったら、私の孤児院を出れば良い」
「……うん」
「つらいな、親に捨てられるのは、でも、もう大丈夫」
私はメガネを外して目から出るモノを拭う。
「おじさん……おじさんは今どうして泣いているの?」
「僕は、悲しい時じゃなくて、何故かうれしいときに涙が出るんだ。どこか壊れているのかもしれないね」
このやり口で救えるアンドロイドはあとどのくらいいるのだろうか?おそらく近いうちに私の違法行為もバレることだろう。でも、生きていける可能性のある人間やアンドロイドは家族がどんな決断をしようと救いたい。
スペシャリストは少しおかしなアンドロイドが多いらしいが、自分もそうだと思わざるを得ない。




