2年の約束
大阪に統合が決まった時、私は母に大阪に行きたいと話した。
母は、事務職の仕事で転勤というのは考えられない、地元で就職し、その就職先がなくなるのであれば別のところを探さないと……という考えだった。
わざわざ事務職のあなたが大阪まで行かなくても……と言われた。
私はやりがいを見つけたばかりで、自分がどこまでできるかを試してみたい、今ここで辞めると後悔するし、今、目の前にある仕事が落ち着くまで行かせて欲しいと、何度も言って説得し、2年という期間を許してもらった。
2年でやれる事をやって地元に帰る。
もちろん自分だけの事じゃなく、2年後、自分が抜ける事もちゃんと考えてその為の準備もやらなきゃいけない。
仕事漬けの日々になっても構わない。
私は覚悟して大阪に行った。
大阪での2年間はあっという間。
忙しくても充実していた。
毎日が楽しかった。
退社の意向も先輩に早めに打ち明け、退社前の引き継ぎにも迷惑がかからない様にしてもらった。
あれから宮坂さんとは会っていない。
事務所に電話がかかる事もあったみたいだけど、偶然にも私じゃなく他の先輩が対応していたりして直接話す事は今までなかった。
営業さんから宮坂さんや宮坂さんの会社の話を聞いて、あーー、元気にしてるんだなぁって思っていた。
最後まで宮坂さんと付き合っていた事は誰にも気付かれずにいたので、みんな、宮坂さんの話を私にしてくれた。
最終日にはたくさんの人が惜しんでくれた。
工場から内線をかけてくれて、最後の挨拶をしてくれた人もいた。
たくさんのメールももらった。
営業所も工場もお客様も、私を『こむちゃん』と呼んでくれる程、自分をアピールでき、仕事に打ち込んだ2年間だった。
「こむちゃん、辞めちゃうの!? 居なよー!」
と、言ってくれる事だけでありがたい。
その言葉だけで充分。
この会社に入社してよかった、2年前、辞めなくてよかった、あの選択は間違いじゃなかったと思える。
送別会はまた後日にしてくれるみたいで、私はアパートを引き払ってしまうのでまた大阪へ泊まりで行く事になる。
先輩たちはそれが狙いで、送別会含めオールで遊ぶつもりらしい。
粋な事をしてくれる頼りになるいい先輩たち。
大好きだ。
最終日を終えてアパートに帰ってゆっくりしていると携帯が鳴った。
宮坂さんだ。
「もしもし?」
「こむちゃん、久しぶり。 元気? 聞いたよ、辞めるって」
うちの営業さんから少し前に私の退社の事を聞いたらしく、今日が最終日という事も聞いていたらしい。
宮坂さんに2年前の本当の事を話した。
宮坂さんは、私はずっと大阪だと思っていたからびっくりしてたけど、私の覚悟を理解してくれた。
久しぶりに聞く宮坂さんの声は懐かしくて変わらず優しかった。
久しぶり過ぎて結構長い時間話した。
「また帰ったら会おう。 あ、普通にね!」
「うん。 電話してくれてありがとう。 嬉しかったよ」
「気を付けて帰ってきてね」
私の覚悟した2年間が終わる。
帰ったら仕事探さなきゃ!




