《見上げた空》
廉と菜砂さんの結婚が決まり、俺は廉と一緒に菜砂さんの実家を訪問する事となった。
廉の車の助手席。
廉は迷いなく菜砂さんの家まで車を走らせる。
通い慣れてたのがわかる。
不思議だな……、知り得なかったさえの家に息子に連れてってもらう日が来るとは……。
菜砂さんと菜砂さんのお父さんが玄関先で待っていてくれた。
「初めまして。 日高です。 息子がお世話になってます。 よろしくお願いします」
菜砂さんのお父さん、だけど、さえの旦那さん……。
さえの旦那さんは優しさの塊みたいな感じの人だった。
この場にさえはいない……。
真実を突きつけられた、それがたまらなく悲しかった。
「お線香、あげさせてもらっていいですか?」
そう言うと、和室に通された。
優しく笑うさえの写真。
最後に会った時と変わらないさえの写真。
あの最後の日を思い出す。
手を繋いで歩いた10分少々の道。
あの時はもう会わないと決めたけど、それでも俺はいつか会うんだ、と思っていたよ。
こんな形で再会するとは思ってなかったよ……。
想定外も想定外だよ……。
気持ちを落ち着かせ、菜砂さんたちの方へ戻った。
さえの旦那さんが少しさえの話をしてくれた。
「妻もこんなに早く自分が逝ってしまうと思ってなかったと思います。 ずっと元気で笑ってる人でしたから……。」
「妻とは親友みたいでした。 出会った頃から仲は良くてね、その勢いで結婚したみたいなところがありました。 けどね、きっと妻には好きな人がいたと思います。 僕じゃない人。 何となくですけどね。 問い詰めた事もないですが……。 誰かを想ってたんだろうなぁと。 それでもいいって変な夫婦ですよね」
「親友みたいな関係だけど、そんな事は口にもしないし、態度にも示さない、妻の中で耐えてたんだと思います。 僕は妻は初めて心から好きな人に出会ったのかな、と思ってます。 でもね、妻は最後まで家族を温かく包んで愛してくれました。 僕は感謝しかないです。 最期は僕に、ごめん、ありがとう、を繰り返して言ってましたけど……そんなのいいのにね……。 それも彼女らしいですけどね……」
「もっと生きて欲しかったですよね。 その恋愛話、聞いてあげてもよかったのにな……」
笑ってそう教えてくれた。
元気で笑ってるか……、さえらしい。
さえの旦那さん、凄い人。
さえはこの旦那さんで幸せだったんだろうな……。
こんないい旦那さんの前にいる俺は申し訳なさでいっぱいだった。
「廉が奥さんによくしてもらいました。 僕、菜砂さんと付き合っているのを知らなくてお礼が今になってしまいましたが……ありがとうございました。 菜砂さんにはこれからもお世話になる事になりますが……できた息子じゃないので叱ってやって下さい」
俺はこれからの息子の事を頼んだ。
さえも、廉の事、頼むよ……。
帰りに廉が場所を知っていると言うのでお墓に連れて行ってもらった。
行きに花を買って向かった墓地は小高い丘の上にあった。
お墓の場所を教えてもらい花を持って探す。
まだ新しいお墓を見つけた。
さえの名前が彫られてある。
俺はゆっくりお墓の前に座り見上げた。
「さえ、会いに来たよ。 やっと見つけた。 遅くなってごめん」
久しぶりの2人きりの時間。
「さえとこんな形じゃなく会いたかったよ……。 そっちはどう? 俺もまた近いうちにそっち行くから待ってて」
水を汲みに行った廉が帰ってきた。
花を供え、手を合わす。
2人を見守るよ。
さえ、またここに会いに来る。
また話に来るから。
待ってて。
「さぁ、帰ろっか……」
廉の車に乗り込みゆっくり帰る事とした。
帰りの車の中、廉が思い出し俺に言った。
「そうだ! 菜砂のお母さんが言ってた。 父さんに、『警察の話、聞かせて欲しかったです、って伝えて』って。 もし、菜砂と結婚する事になったら、父さんに伝えて欲しいって。 何か昔、警察の話に興味はあったけど、聞いちゃいけない事も多いだろうからって聞かなかった事があるんだって。 廉くんのお父さんなら教えてもらえたかなって思うって」
「え? そうなの? お前、ほんといろんな話してたんだね」
「菜砂のお母さん、話しやすかったから。 写真も見せた事あるよ。 だから菜砂のお母さん、父さんや兄貴の顔、知ってるよ」
さえ、廉が俺の息子だって気付いてたんだ!
びっくりしただろうな……。
俺もびっくりしたし、会ってその話したかったな……。
「そうなんだ。 警察の話、してあげたかったな」
秋晴れの天気の良い日。
2人は結婚式を挙げた。
青空で雲ひとつないすっきりした空だった。
さえ、空から見てる?
菜砂さん、綺麗だよ。
廉もいつもと違う格好で少しはかっこよく見えてるかな?
俺たちの子供たち、結婚したね。
俺たちができなかった事を廉たちがしてくれるのかな?
俺はここでいれる間は2人を見守るよ。
さえは空から見守ってて。
そっちに俺が言ったら見てきた事話すから、聞く準備しといて。
ふわっと優しい風が吹いた。
さえを感じた風だった。
俺は空の写真を撮った。
さえへと続く今日のこの空を忘れない様に。
最後までお読み頂きありがとうございました。
これまでお付き合い頂いた事、感謝しかありません。
またお会いできるといいな、と思います。
ありがとうございました。




