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婚外恋愛  作者:
8/84

気持ちの大きさ

 私は変わらず仕事、仕事の毎日を過ごしていた。

 大阪での暮らしも寂しくなかった。

 会社に行けば営業所の人たちがいる。

 家に帰れば、家事、洗濯、掃除が待っているけれど、自分一人の事。

 手を抜く事もできるし、何かの後回しにしても誰かに迷惑をかける事もない。

 休日はといえば、会社の先輩に声をかけてもらって遊びに行ったり、大阪にも友達が何人かいて連絡を取って会ってみたり。


 私はどちらかと言えば恋愛体質ではない。

 恋愛がうまくいっていないと他の事にも影響が出る、という事はない。

 そもそも、そんなに恋愛をしてこなかった。

 傷付くのが怖くて一歩が踏み出せず、遠くからそっと見てるだけ、ある意味恋愛優等生。

 瓶底メガネを掛け、手には厚い辞書を持ち、目の前に石橋があれば叩いて叩いて渡る。

 叩き過ぎて石橋を壊し渡る事すらできてないかも知れない。

 慎重過ぎてあったであろう恋を逃して来たかも知れない。

 バイト時代、年上の社員さんに告白をされた。

 当時、バイトも社員さんと一緒に飲み会や鍋パーティー、BBQに行ったりしてよくみんなで集まって遊んでいた。

 どの社員さんとも仲良くしていたのだが、その一人の社員さんが好意を持ってくれたらしく……。

 けれど、私は『いい人止まり』で異性として見る事ができずお断りした。

 その後も何度か言われたけれどやっぱり異性とは見れずお断りする事に……。

 

 友達は、


「何度も言ってくれたのなら、一度付き合ってみればよかったのに。 嫌いじゃないんでしょ? 変わる事だってあるかもよ?」


 と、言っていたけれど、嫌いじゃないけど異性として見れないのに付き合えない……。


 自分がいいなと思った人は彼女がいたり、好きな人がいたり……。

 そんな人の恋愛相談にのってたり……。

 どこまでも私は友達止まりな事が多かった。

 自分の気持ちは隠して相手の恋の成功を願う。


「ほんと、どこまでいい人やってるの!?」


 と、友達に怒られる事もよくあった。


「まぁ、そこがこむちゃんのいいとこだけどねー……」


 いいとこなのかどうかは疑問だけど……。


 私は、宮坂さんが言った、


「ずっと会いたかったよ」


 という言葉を考えていた。


 私は正直、彼の事を「ずっと」会いたかったか?と聞かれたら、「ずっと」ではないと思った。

 大阪に来て、会えない事を苦しく思ったかと考えたら私はそうではなかった。

 もちろん好きだから付き合ってるけど、好きの大きさが違う気がしてならなかった。

 私は贅沢だ。

 あんなに誠実で優しくて自分の事を想ってくれて大事にしてくれる人、他にはいないかも知れない。

 そう思うと同時に、こんな気持ちで付き合ってるのは宮坂さんの大事な時間を私が無駄にしている気がしてしまった。


 やっぱりちゃんと話した方がいい。

 話す前にちゃんと自分の気持ちを整理してしておかなきゃいけない。

 いつ話す?

 こんな話、電話やメールじゃダメだよね。

 一度戻って話そう。

 そう思った。

 

 今週帰るけど会える?と連絡を入れた。

 長い休みでもないのに帰るって不思議に思ったかも知れない。

 でも、やっぱり言わなきゃ……。


 週末、地元へ帰った私はいつも待ち合わせしている場所で宮坂さんを待っていた。

 どう話し始めようかとか、どう言えばいいのかとか、どうしたいとか……整理したつもりがまだ頭の中はぐちゃぐちゃ。

 本人を目の前にしたら絶対うまく言えない気がする。

 心ここに在らずなところに宮坂さんがやってきた。

 

「おかえり! 急に帰ってきてどうしたの?」


 私は、最近思っていた事を私なりに伝わる様に話した。

 好きだし嫌いになった訳でもない、好きになった人ができた訳でもない、けど、気持ちの大きさの違いに気付いてしまった。

 宮坂さんとこのまま付き合ったら私はほんとに幸せだとは思うけど、私が自分を許せなくなる。

 私はこんなにも想ってもらっているのに、私は同じ様に想ってあげれてないのが自分でわかってるのに続けていくなんて、そんな事できないと思った。


「ちょっと距離を置いてみる?って思ったけど、今、もう距離置いてるもんね? こむちゃんはどうしたい?」


「俺はね、こむちゃんに初めて会った時の一生懸命さに惹かれたのね。 大変な事があった後もずっとニコニコしてるのを見て、あーー、いい子かも、って、たぶんあの時に好きになったんだと思うよ」


「その俺が好きになったこむちゃんを俺は彼氏として一番近くでは見れないって事だよね?」



 気持ちを言葉にするのってこんなに難しいんだ。

 私は自分が発する言葉があってるのかどうかわからなくなっていた。

 でも、伝えたい事は言おうと思った。


「今は仕事に打ち込みたい、だから、宮坂さんの事を考えるのを優先できないのは付き合っている以上、失礼だと思った。 付き合うのをやめた方がいいのかなって思った。 宮坂さんの事は好きだし嫌いじゃない、だから元に戻りたい。 図々しいけど……。 それも宮坂さんがいいって言ったらの話だけど……」


 私は気持ちを打ち明けた。



「お互い好きなのに別れるの、しんどいよ。 けど、こむちゃんも悩んだんでしょ?」



 長い沈黙が続いた後、宮坂さんが話し始めた。



「こむちゃんを忘れるの少しずつでいい? 俺もこむちゃんと縁は切りたくない」


「やっぱりなぁー。 急に帰るって言うから何かあるのかなぁって思ったよー。 こむちゃんー、やっぱ、無理かもー!」


 最後はそう言って笑ってくれた。

 ずっと優しい人。


「私が言うのも何だけど、大丈夫だよ……。 私はこれからも仲良くしてくれたらありがたいよ」


 彼から友達へ。


 仕事を優先した私。

 実は2年という期限付きで大阪へ行った。

 2年後には地元に帰る。

 私の仕事への情熱も期限付き。

 だから、後悔しない様に精一杯やりたかった。

 宮坂さんはこの事を知らない。

 私の仕事への気持ちがブレそうだったから。

 一瞬でもそう思ったから、言わずに行こうと決めた。

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