《息子からの報告》
元妻から連絡があった。
次男の廉が彼女を家に連れてきた、と。
どうやら結婚を考えてるらしく、また俺のところにも連れて行くって言ってたよ、と。
かわいい人だったらしい……。
そっか……。
結婚か……。
長男が結婚して2年。
うちも子供2人とも完全に独立するんだな……。
廉は一浪して希望大学に入学した。
実家を離れ一人暮らしの大学生活、毎日友達と集まって夜中まで遊んだり、サッカーサークルに入ったり楽しんでいる様だった。
卒業後は地元企業に就職した。
地元に帰ったけれど、実家には戻らず今も同じ市内で一人暮らしをしていた。
元妻から連絡があった数日後、廉から連絡があった。
「今週末、いる?」
きたきた…。 彼女連れてくるんだよね?
「いるよ。 何か母さんから聞いたぞ」
「まぁ、行って詳しく話すわ。 いるんでしょ?」
「廉の為にあけておくよ。 昼頃?」
「そうだね、ごはん食べて行く。 ちゃんと家にいてよ!」
「わかったよ」
「じゃあ、よろしく!」
兄の圭の時も一緒に挨拶に来たっけな……。
廉もか……。
俺は廉が来る週末が楽しみだった。
廉が選んだ人ってどんな人なんだろうな。
どんな家庭を築くんだろう……。
部屋の掃除もしておこうかな……。
廉に恥かかす訳にもいかないし……。
少しずつ掃除を始める事にした。
俺はというと、警察官を退職ししばらくは紹介された企業で仕事をしていたがそれも辞め、今はのんびり過ごしていた。
好きなコーヒーを家の近くの喫茶店へ飲みに行きゆっくりしたり、昔から続けている剣道の大会に参加してみたり。
剣道とジムに通う事は続けている。
それが楽しみであったりもする。
毎日それなりに充実、そんなところだった。
廉が来る日は朝からそわそわしていた。
うちは男なのに、男でもこんなにそわそわするものか?
女の子だったらもっと落ち着かなかったんだろうか……?
昨日、圭に電話をした。
「明日、廉が彼女連れて来るんだよ。 廉の彼女に会った事ある?」
「ない…。 彼女がいるのは廉から聞いたけど……。 でも何年も前。 その当時の彼女と明日来る彼女って一緒なのかな……?」
「え? そんなにあいつ、いろんな子と付き合ってんの……?」
「いや、知らないけど……! でもあいつの性格からしていろんな子ってのはないでしょ……? 明日いろいろ聞いてみてよ! 廉、結婚すんの?」
「母さんはそんな風に言ってたよ」
「ふーーん……。 あいつが結婚ねぇ……」
ちょっとリサーチしとこうと思って圭に電話したのに空振りに終わった……。
結局、わからぬまま当日を迎える。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
廉が来た。
俺は玄関のドアを開けた。
その瞬間、ふわーっと心地いい優しい風が入ってきた。
開けるとそこには廉と廉の少し後ろに初めて会う彼女が立っていた。
「父さん、紹介するよ。 菜砂。 井川菜砂さん」
「初めまして。 井川です」
「はじめまして! 廉の父です。 どうぞ、中入って」
若い女の子に慣れてない……。
元妻が聞いていた様にかわいらしい人だった。
清潔感のある今どきの子って感じで、緊張はしているみたいだけど、朗らかな感じだ。
話し方も丁寧で親御さんにちゃんと育てられたんだな……って思った。
座った廉の隣にその彼女も座る。
廉の横にいる彼女は少し笑顔になった。
廉も家族には見せない顔だな、と思った。
そんな2人を見ていると、何だか懐かしさを感じた。
未来ある2人。
廉からどんな話が聞けるのか楽しみだった。




