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婚外恋愛  作者:
77/84

大切な想い

 所長の退職パーティー後の2次会からの記憶はあまりなかった。

 所長との最後の時間と思いとことん付き合ってホテルに帰ったのは深夜1時前だった。

 長谷川さんからのLINEで、せいさんが無事帰宅したと連絡があった。

 よかった……。

 わざわざ来てくれた事、ちゃんとお礼が言えなかったな……。

 私は、何年かぶりにSNSアプリをインストールした。

 パスワードを入れてログインしてみる。

 前と違ってレイアウトも変わっている。


 DMの欄に5件の通知が来ていた。



『さえ、もう随分ログインしてないね。

 もうほんとに終わらせるの?

 俺の事、嫌いになった?

 俺は連絡ずっと待ってるよ。』



『来週、そっちに帰るんだ。

 会えないかな。

 会って話したいんだ。』



『今日、バイト先行ってみたけど会えなかった。

 さえ、今どこでいる?

 会いたいよ。』



『さえは決めてしまったのかな。

 もう会えないのかな……。』



 最後のDM。


『さえをこんなにも好きになるとは思わなかった。

 もうさえから連絡がなくなって2年くらいかな。

 もう習慣になったSNSのログインも辞めなきゃな、と思ってるよ。

 何でもっと早くに出会わなかったんだろう……そう思うけど、これが私たちのタイミングだったんだと言ったさえの言葉をそう思う度に思い出すよ。

 仕方ないんだよね。

 けどさ、わかってても会いたかったよ。

 さえの側に居たかったよ。

 思った通りの優しさでいっぱいの人だった。

 初めて会った時のあの衝撃は忘れないよ。


 このDMをさえは読まないかも知れない。

 けど、これだけは伝えたい。

 ずっと好きだから。

 また会える事を願ってるよ。』



 せいさんにしては珍しい長いメッセージだった。

 涙が止まらかった……。

 【仕方のない事】という言葉で片付けるしかなかった。

 いつかは来る別れの時。

 随分前にそうしたはずが、会ってしまうと一気に心が引き戻される。

 あれだけ何年もかき消した気持ちを一瞬にして。

 心は嘘をつけない。

 本当の自分の気持ちにも気付いてしまう。

 やっぱり好きだった。

 会えなくても連絡できなくても好きだった。

 認めざるを得ない。


 私は読むか読まないかわからないせいさんへのメッセージを最後に送った。


『せいさん、私はあなたに会えてよかった。

 どうにもならない恋だったけれど、心の底から大好きでした。

 結婚している私がしてはならなかった恋。

 まさかそんな私が誰かに恋をするなんて考えてもみなかった。

 あり得ない恋で、でも本気であなたを想った恋でした。

 今日、大阪まで来てくれてありがとう。

 最後に会えてよかった。

 私を見つけてくれてありがとう。

 せいさんの幸せを心から願ってます。』


 メッセージを送り、私はSNSを退会し、アプリもアンインストールした。





 どれくらい月日が経っただろうか……。

 私は仕事を辞め、専業主婦に戻った。

 子供たちも大学生になり、2人とも自宅から離れて暮らしている為、今は夫婦2人の生活になった。

 お姉ちゃんも下の子も大学は違うが大阪にいる。

 住んでいる場所も割と近くで、姉弟で近くに住んでもらうのは親としても少し安心。

 今は子供たちに会うのも帰省した時だけになっている。

 夫婦2人の生活は、のんびりしているものの、やはり子供たちがいる方が楽しい。

 帰省は楽しみの一つになった。


 帰省したお姉ちゃんがいつもの感じと違った。


「どうしたの? 何かあった?」


 私は何となく聞いてみた。

 すると、お姉ちゃんはゆっくり話し始めた。


「あのさ、今、彼がいるんだけどさ、何か楽しくなくてさ…」



「あーー、恋か……。 いいね、若いって!!」



「よくないよ! 楽しくないって致命的でしょ……。 どうしたらいいんだろう?」



「彼の事は嫌いじゃないんだよね? 友達って選択肢もあるんじゃないの?」



「友達に戻れるもの?」



「それは相手によるけど、お母さんもそんな人いたよ。 友達としての方が楽しくできそうなら一度話し合ってみたら?」



「お母さんにもいたの? そんな人!」



「相手の人は想ってくれてたけど……ほんとにいい人だったんだけどね……。 出会いにはタイミングがあるんだよ……」



「タイミングが合ってたら付き合ってた?」



「付き合ってただろうなぁ……。 けど、付き合ってたらお姉ちゃんを産んでないかも知れないし、今まで出会った人とも会ってないかも知れない。 そう考えるとさ、何をチョイスするかって大事なんだよ」


「お姉ちゃんたちがお母さんの子供として生まれてきた事はお母さんにとって一番大切な事だから、これでよかったと思うけどね……」



「私たちの事を抜きにして、お母さんには後悔はないの? あの時諦めなきゃよかった彼とかいない訳?」



「鋭いところ突くね……。 後悔や諦めなきゃよかったと思う彼はいないかな……。 けど、忘れない人はいる。 お父さんには内緒だけど!」



「忘れれないの?」



「そうとも言うのかな……。 大切な人だよ。 もう会えないけど、出会えてよかったなと思うよ。 会えてお母さんはラッキーだったって思ってるかな。 だからってお父さんが嫌いとかじゃないよ!」



「それは見てわかるよ……。 お父さんとお母さん、友達みたいだもん、昔から」



「お姉ちゃんには、いろんな恋をして欲しいな。 取っ替え引っ替えじゃないよ! その時、その時の相手をちゃんと見ていろんな感情を感じて欲しいな。 お母さんはあんまり恋愛しなかったから、もっといろんな人を見ればよかったかな……と思ったりするけどねーー」


「まだまだ若いんだから、恋愛も楽しまなきゃ!! 彼と話してみたら? そんな事も話せそうもない相手?」



「いや、そんな事はないよ。 そうだね、話してみるよ。 でもさ、お母さんにもお父さん以外に恋焦がれた相手いるんだ! 相手、気になるなーー!」



「それはお母さんだけの大事な宝物だから言わない。 アクマでも人間の男の人だよ。 それだけは教えてあげよう……!」


 恋愛話する程、娘も大きくなったのか……。

 毎日楽しく生きて欲しいな。

 若いんだから何でもできる!

 羨ましいよ、若いって!

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