さよなら
長谷川さんに連れられ行ったところは地下にあるバー。
下に向かう階段を降りると薄暗い部屋が広がっていた。
「こっちこっち!」
と、呼ばれて行ったカウンター。
奥に誰かが座っていた……。
え……。 せいさん……。
私は視線のその先に座るその人がせいさんだとすぐわかった。
戸惑いしかない。
何でここにいるの?
もう会う事はないと思っていたせいさん。
自分の目の前でいる……。
私は何も発せずにせいさんの目の前まで連れてこられた。
「久しぶり……」
変わらないせいさんの声……。
「……久しぶり……」
「何? こむちゃん、びっくりしたの? 征一郎は俺が呼んだんだよ。 3人で会うのを実現させたくてさ!」
私はせいさんと長谷川さんの間に座らされた。
「そうだったんですね……」
私は何を話していいのか、どこを見ていればいいのかわからなかった。
しばらく、長谷川さんとせいさんとで話していた。
私はその話を聞いてるだけ。
長谷川さんを私越しに見ているのはわかる。
見られる事に戸惑いを隠せない。
静かに目の前のグラスを見つめることしかできないでいた。
「あ、ごめん! ちょっと電話かかってきた!」
長谷川さんの携帯が鳴り、そう言ってお店の外に出た。
せいさんが話し始めた。
「さえ、元気だった?」
「うん……。 せいさんも?」
「元気だったよ。 さえ、もう会えないかと思ってた。 DMもあれから読んでないでしょ?」
「……うん。 もう会っちゃダメだと思ったから」
「嫌いになったって事?」
「そうじゃない……。 だから、会っちゃダメって思った……」
「嫌われてなくてよかった……。 俺さ、離婚したんだ」
「え! いつ?」
「もうすぐ2年になるかな……。 ハセとさ、定期的な飲み会が今月あってさ、その時にハセにも報告したんだけどさ……」
「それって私が原因なのかな……?」
「いや違うよ。 向こうからの提案で、もう夫婦という形を辞めようって事になっただけだよ。 今は家を出て1人で暮らしてる」
「ハセが今日、さえがこっち来るから3人で会おうって言ってくれてさ、車でこっちまで来た。 だからほら、烏龍茶……! 明日も仕事だから帰らなきゃ……。 びっくりした?」
「したよ。 普通、いると思わないよ……」
「だよね。 さえ、急に連絡取れなくなるのやめてよ……。 今日だって何年ぶりだよ……」
でも、この方法しか考えられない。
せいさんから離れるのに他に方法が見つからなかった。
「長谷川さん、何も知らないんでしょ?」
「知らない……。 話してないから……」
「そうだよね……、だから3人で会おうと計画してくれたんだよね……」
「さえは会わない間、俺の事は一度も思い出さなかったの?」
そんな訳ない……。
思い出さない様にしていた……。
けどね、瞬間、瞬間で思い出すのはせいさんだった。
その気持ちを打ち消して生きてきた。
「でもね、どうにもならない事もあるんだよ……」
そう言った時、長谷川さんが帰ってきた。
「ごめん! ちょっと客先から確認の電話だった。 で、何話してたの?」
「特別な事は何も……。 元気だった?みたいな話」
せいさんはそう言った。
その後は3人で、偶然って凄いね、という話から始まり、長谷川さんとせいさんの高校時代の話や、私が長谷川さんと仕事をしていた時の話、いろんな話をした。
1時間くらい経った頃、また長谷川さんの携帯が鳴った。
「ごめん! 客先から確認の依頼がきて一回事務所戻らなきゃいけなくなった! 征一郎、悪いけどこむちゃんをこの前飲んだ店に連れてってくれる? みんないるから。 後で連絡する!」
「こむちゃん、ごめん! 後で合流するからみんなに伝えておいてもらっていいかな」
「わかりました。 じゃあ、私もさっきの場所に帰ります」
長谷川さんは急いで事務所に行ってしまった。
「さえ、送るよ」
「大丈夫だよ。 道、覚えてるから」
「危ないから……。 一緒に行くよ」
そう言ってお店を一緒に出てさっきいたお店まで歩き出した。
歩いて10分……あと10分でせいさんとお別れか……。
「さえ、手貸して」
「え? 手?」
手を取り握った。
「店着くまでこのままで……。 ゆっくり行こう!」
悲しいお店までの帰り道。
私は涙が溢れた……。
「ごめん……。 やっぱり悲しい。 でも……せいさんとはお別れしなきゃね……」
「さえの気持ちはわかるよ。 だからさ、会いたくても会えないんだな……って思うよ。 俺もSNS、消すよ。 けどさ、気持ちは変わらないよ。 やっぱり好きだわ……。 いつかさ、会いに行くよ。 見つけに行くよ。 たぶん、会いたくなる。 その時はハセの力を借りるよ!」
「さえさ、最後だからさ、笑って別れようよ!」
「そうだね……。 笑わなきゃね……。 でもダメだ……涙、出る……!」
「ずっと好きだからさ……。 それだけは覚えてて」
「せいさん、ずっと好きだよ。 せいさんも覚えてて欲しい……」
「覚えとく。 さえ、もう店着くよ。 涙拭いとかないとみんなびっくりするよ」
お店の前まで着いてしまった。
「じゃあ、さえ、元気で……。 俺、車、あっちだから」
「せいさんも元気でね。 仕事、頑張ってね……。 あ、気を付けて帰ってね!」
「ありがとう。 じゃあね!」
私は歩き出したせいさんが見えなくなるまで見送った。
私はお店の前でどれくらいの時間か佇んでいた。
さよなら、せいさん。
好きだったせいさん。
私はせいさんを選べなかった。
せいさんを忘れずに生きていくよ。
私は気持ちを落ち着かせ、お店の中へ入った。




