新たな一歩
あれから1週間、門倉さんとは会っていない。
いろんな事に気付いて欲しいなと思っていた。
ある日の仕事帰り、駐車場近くのコーヒー屋さんから、女の人2人が出てきた。
「え? 清水さん!?」
「あ! こむちゃん……だね!」
清水さんは一緒にいた女の人に軽く挨拶をして私の方へやってきた。
「ごめんなさい、話しかけたりして……。 まさかここのコーヒー屋さんに居るとは思わなくて……」
「あ、大丈夫よ。 今、話終わったところだったから」
「この辺りでもされてるんですか?」
「私はどこでもできるからねー。 いろんなところに出没するよー。 こむちゃんはこの辺りで仕事してるの?」
「そうなんです。 今、帰りです。 今からスーパー寄って帰ります……」
「働くお母さん、大変だねー。 急いで帰らないとね!」
「じゃあ、帰ります。 また!」
「またね、こむちゃん。 あ、前にも言ったけど大丈夫だからねー」
そう言って大きく手を振ってくれた。
私も笑って会釈する。
清水さんが言っている事はわかった。
たぶん、見抜いてて言ってくれている。
私はそれを信じていれば大丈夫かなと思っていた。
お昼、お弁当続きだった私は外に出ていない。
毎日外に出る筧さんも門倉さんを見ていないらしい。
そのうちどこかで会うかな……そう思った。
少し経った日の仕事の帰り道、後ろから門倉さんが声をかけてきた。
「あー! 久しぶりですねー!」
「忙しくしてて残業続きでした。 昼間も事務所でささっと食べてパソコンにかじりついてる状態でした……」
「この前はありがとうございました。 話してよかったです。 あれから一人で考えてみてたんですが、僕、井川さんが言ってた感じだったのかな…って思いました……。 話した後、内容をすんなり受け入れれたというか……、癒えてたつもりだったのかな……。 あ、井川さんの事は好きですよ、いや、そういう好きではなくて……いい人だと思います……」
「好きの形が違ったって事ですよね? いい人ってありがたい言葉です……。 そうですよー、自然に恋愛して下さい! きっと見つかりますよ!」
「これが友達の始まりですかね?」
「友達……そうですね……その感覚はひとそれぞれかな……。 うちの子はすぐ友達ができた!って帰ってくるんですよ。 聞けば、塾で初めて隣の席になって休み時間楽しく話したから、っていう理由でした。 その後も楽しく話してるみたいで、彼の中では友達として成立してるんです。 どう捉えるかかも知れないですね」
「じゃあ、井川さんは僕の友達ですね!」
「あ、友達に入れてもらえます? ありがとうございます……。 やっぱり、この前とは感じが違いますね……。 私も話してよかったかなと思います……」
「井川さんには何でも話できそうです。 お姉さんみたい……」
「姉ですか……? 親しみを持ってくれてありがたいです……。 いいお話を聞けるのを楽しみにしておきますね」
「なかなか会えなかったので今日会えて話せてよかったです。 LINEで言うのも何かな……と思ってたのでよかったです」
そう言ってくれた。
これが清水さんの言ってた事だよね……。
清水さんも凄いけど、門倉さんが気付いてくれた事がほんとによかったと思った。
いい人とめぐり会って欲しい……そう思った。




