私の意見
私は何と言えばよかったのだろう……。
どんな言葉が正解だったのだろう……。
相応しい言葉を言えずにいた……。
「悲しかったんですね……。 思い出させて大丈夫でしたか……?」
しばらくして私が言えた言葉はこれだった。
悲しくどうしようもない現実を受け入れなければいけない辛さは、恋人を亡くすという体験をした事がない私でもわかる様な気がした。
「もう大丈夫なんですよ。 事故で亡くなってしまったんです。 もちろん結婚も考えてたんですけど……。 明るく優しい人でした。 追いかけて死ぬ勇気もなく、自分は生きてなきゃいけない……当時はそんな感じでしたけど……。 彼女の事は忘れないけれど、生きている自分には気持ちを切り替える事が必要だなと少しずつ思えてきたんです。 明るいところや優しいところ、井川さんもそうですよね」
恋人だった人の感じが私と似てるところがあるのかな……?
立ち直ったと言っているけれど、まだ立ち直れてないと思う……。
そんな時に、私に会ってしまった……みたいな感じなのかな……。
「そうでしたか……。 でも、門倉さん、まだ癒えてない気がします。 立ち直ったと、思おうとしてると思います」
「私の感覚でお話ししていいですか?」
私は、自分が感じた事を話してみた。
「亡くなった彼女の事を忘れずに大切な思い出として心の中に残して、自分の気持ちを前向きに生きていくのは、私もそうだと思います。 そう思う様になるまでの時間は人それぞれだから、自然とそう思える時が来たら……で、いいと思います。 私に「ただ会えるだけでいい」と、そう言いましたよね? その言葉が門倉さんの気持ちの表れじゃないのかな……って思います」
「亡くなった彼女に私は少し似てるところがあるのかも知れませんが、私を通して亡くなった彼女を見てるのではないですか? 悲しさを埋める為に会いたいのではないですか?」
私には一瞬、門倉さんがはっとした様に見えた。
「私にも異性の友達はいます。 けれど、彼らを男の人として見る事はないし、彼らも私を女の人として見てません。 どちらかにその気持ちがある時点で友達は成立しないと思うんです」
「私を通して彼女を見ているなら、それは本当の私への気持ちではないと思います。 そう思い込んでるだけの様な気がします。 そもそも友達という選択肢しかない訳でもないのかな、と思います。 ごめんなさいね、私の感覚で話して……。 でも、聞いてどうですか?」
門倉さんは、少し考え否定した。
「そんな事ないです……。 井川さんと会うのは楽しいし、いろんな事が知りたいんですよ」
「もし、私が彼女なら、好きな人には幸せになってもらいたいと願うと思います。 もちろん自分がそうしたかったと思います。 でも、もうそれができないなら他の人にそれを託し、私は幸せを願うと思います。 「ただ会うだけでいい」なんて、そんな時間を門倉さんに使って欲しくないと彼女は思っていると思いませんか……? 亡くなった事のない私が言っても……って感じですけど……」
門倉さんはまた考え出した……。
「そう思いませんか? 時間がかかってもいい、ほんとに大切な人が現れて幸せになってくれる事を彼女も望んでると思いませんか……?」
コーヒーも冷めてしまった。
誰かにこんなに力説したのは初めてだ……。
変な事、言ってないかな……。
自分が言った事を思い出してみる……。
門倉さんは天井を見上げ、また考え込んでいた。
「あー、井川さんー! あ、どうも……」
お店へ筧さんが入ってきた。
私と門倉さんに軽く挨拶をする。
「あ、お疲れ様ですー」
朝一で、筧さんに話して時間になったらお店に来てもらう事をお願いしていたのだ……。
筧さんはコーヒーを注文して待っているところだった。
「さぁ、私たちも筧さんと帰りますか!」
コーヒー待ちの筧さんを待ち、私たちはお店を出た。
「じゃあ、また」
「また! 気を付けて帰って下さいね」
駐車場への道のりで、門倉さんと別れた。
今日の話は持ち帰ってまた考えるんだろうな……。
「井川さん、タイミング大丈夫でした!?」
「大丈夫です。 完璧です。 助かりました! ありがとうございました! あ、コーヒー代、払いますね!」
「それはいいですよ! で、門倉さんはどんな感じでした?」
「私の考えは伝えたつもりですけど……。 わかってもらえるといいんですけど……。 今日のところは持ち帰って考えるんじゃないでしょうか……」
いろんな出会い方があるんだと思った。
きっと出会ったタイミングが門倉さんにとって特別な出会いに思えたんだろうな……。 その時の心情がそう思わせてしまったんだろうなと思った。
せいさんと出会った時の事を思い出す。
SNSで繋がるなんて思ってもみなかった。
私はしばらく考えてこなかったせいさんの事を思い出した。
何してるのかな……。
相変わらず仕事ばっかりなのかな……。
せいさんの声ってどんな感じだったっけ……。
声……、どうだったっけ……、思い出したいのに思い出せない……。
もう連絡も取っていないし、毎日を精一杯生きるのに必死で思い出す事はなかったけれど、やっぱり自分の中で好きな気持ちは変わってない事に気付く。
でも、どうすることもできない。
その気持ちを押し殺して生きていくしかない。
私は門倉さんが思い描く様な人ではない。
亡くなった彼女と似てるなんておこがましい。
誰にも言えない恋をしている……主婦だ。




