話の内容
お蕎麦屋さんに着くと同時くらいに門倉さんもやってきた。
今日のお蕎麦屋さんはいつもより少し空いている。
朝から決めていたお蕎麦が食べれるー!
私は出されたお茶を飲みながら楽しみに待っていた。
「今日は、蕎麦の気分だったんですか?」
「そうなんですよ。 そんな時、ありません? これ食べたい!って思う時」
「ありますよ! 可能であれば食べますよね!」
「今日はそれだったんです。 で、話って? 何かありました?」
私はお蕎麦を食べてささっと帰ろうと思っていたので、話も早めに聞いておこうと思った。
「あ、話ですか? あの、僕と友達になってくれませんか?」
友達って関係が自然と友達になっていくものじゃないのかな……。
今までそんな感じで友達を作ってきた私にとって、違和感でしかない言葉だった……。
「え? 友達ですか? なぜ友達に?」
「直観的に、最初に会った時からこの人と合うかもと思ったんです」
それってバイトしてた時なのかな?
そういえば、接客した後日、ごはんに誘われた。
思い出した……。
「門倉さんの友達ってどういうのが友達ですか?」
「こうやってランチしたり、飲みに行ったり……飲み友達ってあるじゃないですか!そんな感じですかね!」
「あ、でも私、全然飲めないんですよ……」
「飲めなくていいです!」
この歳で接点という接点がそれ程ない人と友達になりましょうって改めて言われる事って珍しいかも……。
友達になって下さいという問いに断るって答えはあるのかな……?
私にはその答えがわからずにいた。
「たまにランチとかなら……、たまにですけど……!」
とりあえずの私の答えは、OKだった……。
それが間違っているのかどうなのか、今はわからない……。
「じゃあ、LINE教えてください!」
そうなるよね……。
私は少し圧倒されながらLINEを教えた。
「でも、何で私なんですか?」
「タイプだからです」
いや……あの……。
「あの……、結婚してますよ……わかってますよね?」
「わかってます!」
えっと……。
「さっきも言いましたけど直感です。 好きだから仕方ないです!」
え! 好き? それってどんな意味!?
「え!? それってどういう意味ですか?」
「そのままですよ。 結婚してる人を好きになっちゃいけないって決まりはないし、好きになるのは勝手でしょ?」
えーー……。
何かクラクラする……。
いや…私も人に偉そうに言えないけど……。
そうなんだけど……。
こんなにもお蕎麦の味がしないお蕎麦を食べる事になるなんて思わなかった……。
食べ終わってお店から出た私は、
「お友達ですよ、ほんとに。 話とかは聞きますけど……2人で会ったりとかはなしにしましょうね……」
と、念押しした。
「でも、ランチとかはいいでしょ? またLINEしますね!」
どこまでも前向きな門倉さんにびっくりし過ぎて何も言い返せなかった……。
事務所に帰って、疲れ切っている私を筧さんが見つけた。
「え……? どうしたんですか!?」
「筧さん……聞いてください……」
私は朝からの一連の話を筧さんにした。
「えーー! ほらー、やっぱりー! 何かあるでしょ? そう思ったんですよねー! どうする気なんだろう?」
「どうするもないですよ……。 私、そもそも何も思ってません……。 でも……放ってはおけない感じってわかります? そんな感じがするんですよね……。 何だろう? もっと深く話せばわかるのかな……」
「井川さん、門倉さんに付き合うんですか?」
「当たり前ですけどわからない事が多いんですよね……。 知らないと本当の事は見えてこないのかも知れないのかなって思います……けど……、そうなるともう少し話さないとダメって事ですよね……」
そうは言ってもどうしたらいいものか……。
でもどう考えても対話しかない……。
少しずつ話を掘り下げていくしかないのかな……。
全くと言っていい程、知らない門倉さんの事。
知ろうとも思っていなかった門倉さんの事。
門倉さんを知ったその先に、友達なのか、知り合いなのか、どっちの答えが待っているんだろう……。
これも縁だ。
門倉さんの事を知ってあげなきゃいけないって神様が言ってるんだ。
そう思う事で気持ちを奮い立たせた。




