見えない影
私は仕事にも慣れ、毎日決まったサイクルをこなしていた。
せいさんをすっぱり忘れた訳ではない。
ふとした瞬間思い出す事もある。
待ち合わせた場所や一緒に行った公園、コーヒーショップ…。
立ち寄る事は敢えて控えたけれど、生活しているとどうしても目に止まったりする。
元気かな…と思ったりしていたが、目に止まってもせいさんを思い出す事が少しずつ減ってきていた。
ある日、私はしばらくぶりにバイト先へ顔を出した。
「あ! 井川さん! 久しぶりー!」
いつも元気な店長が気付いてくれた。
バイト先へも、こっちのモールにも立ち寄る事を控えていた。
辞めて以来になる…。
「お久しぶりです! お元気でしたか?」
「元気、元気よー! 井川さんも仕事どう?」
「何とかやってますよー」
「なーんだ! しんどかったら帰っておいでって言おうとしたのにー」
そう言って笑わせてくれた。
「そうそう! 井川さんを訪ねて来た人がいた」
え? 私を……?
「私をですか? 誰だろう?」
「男の人。 ここで働いていた女の人は?みたいな感じで聞いてきたの。 もう辞めましたよ、って答えたら、どちらに行かれたんですか?って…。 いや、知らないんです…って答えたんだけどねー。 知っててももちろん教えたりしないんだけど…」
男の人なんだ…。
誰…?
「全然わかりません…。 誰だったんだろう??」
「どこかで見た事ある様な…。 あーー…、わかんない!」
「知り合いだったら個別に連絡来るかな…とも思うから…。 もう連絡来てるのかな…? 誰だったんですかね…?」
私に何の用があったんだろう…?
その話はさておき、店長と久しぶりにたくさん話をしてお店を出た。
今日は、同僚の筧さんに教えてもらったアロマオイルが売っているお店が同じフロアにあって、そのお店に行くために久しぶりにやってきた。
この間、筧さんとアロマオイルの話になり、欲しかった時アロマオイルを置いてあるお店を教えてくれたのだ。
同僚の事務員、筧さんは、いろんな事を教えてくれる。
おいしいスイーツのお店や、お洒落なカフェ、かわいい雑貨屋さん、何でも教えてくれる。
最近、そんなところへ行く機会も減ってしまった私はそんな話を聞くのが楽しみだった。
私はお昼はお弁当だったり外に出たりだったが、彼女はいつも外に出ていた。
私がお弁当じゃない時は声をかけてくれてランチに誘ってくれたりして一緒に行く事も。
何でも知っている筧さんは何でもできる人だと思っていたが、料理は苦手らしく…。
そんな話から、そろそろ結婚を考えているという事を聞いた。
「結婚したら、料理しなきゃいけないー。 それが嫌で…」
そんな事を言っていた。
私はいつも早く上がらせてもらっているので、お礼も兼ねてお弁当を作って持って行った。
筧さんは私が作ったお弁当に興味津々で、一つ一つながめながらもくもくと食べてくれた。
「全部、おいしいー! これってどうやって作るんですか?」
「あ、これ? これ、全然手がかかってない…。 味付けはお砂糖やお塩とかで特別なものは入ってないですよ。 おうちであるもので作れるんですよ」
それは私が作ったたまご焼きだった。
「たまご焼きって、人が作ったのっておいしくないですか? だからおいしく感じるんじゃないですかね?」
私も人が作ったたまご焼き、好きだなぁ…。
甘くても出汁がきいてても、おいしい!!
筧さんは改まって私に頼んだ。
「あの、お願いがあるんですけど…。 井川さん、料理教えてもらえませんか?」
私は人に教える程ではないのだが、結婚に足踏みしてしまう料理が本当は楽しいものであるという事を感じて欲しいなと思い、受ける事にした。
「初めに作りたいものは何ですか?」
私は聞いてみた。
「たまご焼き!」
「たまご焼き? そっかー。 じゃあ、それにお味噌汁もやってみます? 簡単だから。 二つできたら朝ごはん完成ですよ!」
そう言うと、筧さんは喜んでくれた。
後日、予定を立てる事にした。
今日も先に上がらせてもらい、帰りに寄ったスーパーで買い物をしていると、LINEが入った。
見ると、宮坂さんだった。
ランチのお誘いだった。




