決断
せいさんは次の日も仕事で、深夜に帰って行った。
窓からせいさんの車を見えなくなるまで見送った。
まだせいさんの匂いが残る部屋に一人残った私は、一睡もできないまま朝を迎えた。
このままでいい訳ない。
それしか頭に浮かんでこなかった。
シャワーを浴び、帰る準備にとりかかる。
せいさんが言った、
「別れれないよ。」 という言葉。
私を必要としてくれる気持ちは嬉しいものの、でもその選択はきっと違っている。
いろんな事を忘れたくて強いシャワーをめいいっぱい浴びた。
整理整頓して部屋を出て、バスターミナルへ向かう。
私は家族が待つ家へ帰る。
偽りのライブから帰った私は、とてつもない疲労感に襲われた。
追い討ちをかける様な出来事があった。
その帰宅した朝、私に駆け寄った子供たちに、
「お母さん、ライブどうだった? いつも車で聴いてる人でしょ? 楽しかった?」
そう言われた。
まっすぐな目をした子供たちにそう聞かれ、返す言葉を探している自分に嫌気がさし、情けなく涙が出た。
「お母さん、どうしたの……?」
「ごめん……、ライブを思い出してしまったよ……。 片付けてお昼ごはん、すぐ作るね!」
「何それ!? 泣く程よかったの!?」
私と子供たちのやり取りを聞いた夫がそう言った。
何不自由ない毎日を送っている事、当たり前ではない毎日を私ができる事に気持ち悪さを感じた。
これからの事を考えたいと思ったが答えはもう出ている…。
別れるしかないのだ……。
いくら好きであったとしても続けていいものでも、許されるものでもない。
私は家族を失う事はできない。
言葉にはしないが、せいさんもそれは同じだ。
お互い、知り合う前に戻った方がいい……。
しばらくして、私はせいさんにDMを送った。
「せいさん、やっぱり私たちもう会うのはよそう。
せいさんも私も大切な人のところに戻ろう。
このまま続けるの、もう無理だと思う。」
その日はお休みだったのか、返信が早く来た。
「急にどうしたの? 何かあったの?
この前会った時、何かあったの?」
「やっぱりだめだよ。
せいさん、やめよう。
もう嘘をついてせいさんに会えない。
やっぱり私たちは好きだけじゃダメなんだ。
私たちは会ってるその時を大切にするんじゃなくて、もっと大事にしなきゃいけない人たちがいる。」
「さえはもう決めたの?」
その答えをすぐに返せずにいた。
もう無理だと思っているのに……でも、ここにきてもまだ悩んだりしているのだ……。
私は画面を閉じ、スマホから距離を置いた。
悲しいけれどいつかはこうしなければいけなかった。
裏切った事をない事にはできないけれど、傷付かなくていい人を作ってはいけない……。
その前に別れた方がいい。
私は今ある環境を変える事を決めた。
私はバイトを辞めた。
そして仕事を探す事にした。
何度か面接を受け、ある企業に決まった。
これから始まる仕事、覚える事もたくさん。
仕事に打ち込む事でせいさんの事を忘れるきっかけにしようと思った。
せいさんと唯一の繋がりだったSNS。
目にすると決めた事が鈍りそうで、それなら消した方がいいと思った。
私はSNSアプリを消した。




