初鑑定
スイミングから帰る車の中。
後部座席に座る下の子が今日のスイミングであった事を話していた。
その話に耳を傾けながら私はいろんな事を考えていた。
私はどうしたいのだろう……。
どうすることがベストなのか……。
せいさんと別れる事。
それがベストである事はわかっている。
でも今の私にはそれができないでいた。
何かが壊れてからでは遅い。
引き返すなら今だ……そう思う……。
でも、それをどうしたらできるのか……。
宮坂さんの話……。
もし、宮坂さんと別れていなければ……。
今更な話だけど、きっと幸せだったんだろうな……と思う。
もちろん、今が幸せじゃない訳ではない。
いい夫とかわいい子供たちのいる家庭はこれ以上ない大切なものであるに変わりはない。
宮坂さんと結婚していたらどんな家庭になったんだろうな……。
そう思うと、自分の今までのチョイスで自分の未来ってどんどん変化してきたんだって思うし、今まで全ての事をチョイスして今があるんだって改めて思った。
これから自分がチョイスする事で未来が変わる……。
何を選ぶか……。
少しずつ考え始めた……。
そんな時に占いの話……。
興味深過ぎる。
このタイミングでそんな話も、私にとっての【タイミング】だったんだろうな……そう思う。
その当たるという人の話を聞くのが更に楽しみになった。
占いって薄暗いところで粛々とするイメージだった。
私が行ったところはカフェ。
カフェで待ち合わせてそこでお茶をしながらいろいろ話すスタイルらしい……。
私より一回りくらい年上の女の人。
服装も普通の服装……レースのショールみたいなのを被ったり目の前に大きな水晶があって……みたいなイメージとは全く違う人だった。
「こんにちは。 井川さん?」
「井川です。 初めまして。 今日はよろしくお願いします」
「初めまして。 清水です。 こむちゃんって呼ばれてるんだってね?」
「旧姓のあだ名でほとんどそう呼んでくれます」
「じゃあ、こむちゃん、やりますか!」
その女性、清水さんは楽しく始めてくれた。
生年月日と名前を書き、渡した。
「こむちゃん、慎重に生きてきた人だね。 それに優し過ぎる。 で、何聞きたい?」
「私はこれからどう生きたらいいのか、悩んでる事をどうクリアすればいいのかを知りたいです。 漠然とした言い方ですよね……」
もちろん不倫をどうすればいいかなんてストレートに聞けなかった。
ただ、清水さんはよく当てる人なのだ。
それならたぶん、私の事はお見通しの様な気がする……。
「どう生きたらいいか……ね……。 そのままでいいよ。 こむちゃんってね、周りがよく見えてる人なのよ。 まずは周り優先、それを無理してる訳じゃなく自分の中では当たり前の事なの。 よく見てるし先を見て行動してる。 その先の人の気持ちを察する能力が高い。 自分で気付かない?」
「あとね、周りに助けられる。 周りが放っておかない」
「あ、それはあります。 助けられる事や気にかけてもらえる事は多いと思います」
「それってね、こむちゃん自身が周りにやってる事だよ。 明るい温かい人、その明るさ、温かさにみんな集まってくるんだよ。 その集まって来た人はそれを知ってるからこむちゃんにも同じ事をするの」
「作られたものじゃなく生まれ持ったもの。 争い事や険悪なムードとか嫌いでしょ?」
「完璧平和主義です……」
「でしょ? 争い事が起きそうってキャッチすると自分の意見とかどうでもよくなるでしょ? 丸くおさめようとしない?」
「します、します!! 争い事ほんと嫌いです。 大きな声も嫌いだし……」
「大丈夫。 そのままで」
でも、私はしてはいけない事をしている。
そのままでいい訳はない。
なのになぜ、そのままでいいと言われたのかが気になった……。
「でもね、私そんなにみんなに好かれる程いい人じゃないんです……。 ルール違反な事だってするし……子供たちにとってこんな母でいいのかな……って思ったりします……。 なのに、このままでいいんですか……?」
「子供たちにとって母であるこむちゃんは大好きの塊。 こむちゃんが笑ってたり楽しそうにしてる事が嬉しいと思ってる。 この子たちって歳より大人な感じだね。 旦那さんもあんまり執着しない人だよね? こむちゃんといつも一緒じゃなきゃ!とか、何をしてるのかを知っておきたいとか、そんな人じゃないよね? 旦那さんも一緒でこむちゃんが自由にしてるのでいいみたい。 楽しそうにしてるのを見るのが好きみたい」
「そんな旦那さんと子供たちだから、こむちゃんは今のままでいいんだよ。 この組み合わせじゃなかったらこのままでよくない人もいるけど、こむちゃんの場合はいいんだよ。 こむちゃん自身も干渉しないでしょ? 家族みんな同じ感じなんだよ」
「あと、悩んでる事の解決ね。 今のまま流れに任せておけばいい。 ちゃんと解決できる。 こむちゃんが納得する解決になるよ。 ただ、新たに少し悩むかもね。 変な事にはならないけど、こむちゃん自身は悩むと思う。 でも、こむちゃんの持ち味である明るさや温かさは忘れないで。 それは覚えておいて」
「私、悩むんですか?」
「優し過ぎるからね。 誰がが頼ってきたとしたら、その人に寄り添ってあげなきゃって思うのよ……。 何とかしてあげたくて頑張るのよ。 そこは無理するのよね。 でも、こむちゃんの明るさや温かさで問題はクリアできるから」
家族の事も聞いてみた。
子供たちの性格や、個性を伸ばすアドバイス、ゆくゆくはこんな感じになるから、今からしておくべき準備なんかを教えてもらった。
夫は健康面も仕事面も問題なし、夫婦はそのままのペースでのんびり過ごせると思うとの事だった。
いろんな事を聞けて満足した私は清水さんに聞いてみた。
「私、これから恋はしますか?」
清水さんは笑って、
「すると思うよ。 自分を磨けば磨く程それはあるよ。 こむちゃんの意思に関係なく人は寄ってくる」
と、言った。
私はせいさんと別れた後は、もうこんな事はないと思っている。
せいさんが私の一生で最後の恋だと思っている。
なのに、また恋をするのか……。
「恋にもいろいろあるじゃない? オープンな恋だったり、秘めた恋だったり、一方通行の恋だったり……。 こむちゃんは、年齢を重ねてもそんな気持ちを持っていられる人って事だよ。 素敵な事だよーー」
「今はいろいろ考えるけど、うまくいく。 いい関係になるよ」
やっぱり見抜かれてたんだ……!
清水さんってほんとに凄い人……。
凄い内容の濃い2時間だった……。
清水さんとの別れも名残惜しい。
「こむちゃん、また会おうね。 また会うよ」
清水さんはそう言って名刺をくれた。
また会えるんだ!!
心強い!
でも、その時の私は何を清水さんに相談するんだろう……。
私はまた清水さんに会えるという楽しみを抱きカフェを出た。




