甘く強い気持ち
付き合うとは……どういう事を言うのか……。
小学生であるまいし、そこに疑問はないけれど……。
最初の約束で会社には内緒にしておこうという事にした。
仕事が楽しくなっていて、目の前の業務に集中したい私はその形の方がよかった。
付き合う前と変わった事と言えば、メールや電話の頻度が多くなった事と、会う機会が増えた事。
恋とは無縁だった私は初めての彼……という事になる。
いろんな事が『初めて』な訳で……。
初めて抱きしめられた時、男の人の力強さってこんなに強いものなんだ、って体全体で感じる事ができた。
あーー、これが愛されてるって事なのかなぁって思った。
その時の宮坂さんはいつもより男の人って感じで、私は恥ずかしくて仕方がなかった。
「こむちゃん、小っちゃい。 俺、折ってしまいそう」
「いい匂い。 何の匂い?」
恥ずかし過ぎ……。
私からそっと離れた。
「いい匂い? 何だろう? 柔軟剤かなーー?」
目を合わせられず遠くを見ながらそう答える事が精一杯だった。
そんな私に気付いた宮坂さんは、
「ねぇ、こむちゃん?」
振り向いた私に不意打ちにキスをした。
びっくりした顔の私に真っ直ぐ目を見て、
「好きだよ」
と、言ってくれた。
私は、宮坂さんが初めて付き合う人だという事を伝えた。
いろんな経験もないですよ、という事も含めて。
それを聞いた宮坂さんはびっくりしていて、やっぱりいろいろ経験のない人って嫌だったかなと思っていた。
「嫌?」
「俺は嬉しいよ。 じゃあ、さっきのキスはファーストキス!?」
「さっきのはファーストキスじゃないです……」
「え! 先の奴がいたかーー」
「で、その人、誰?」
笑って聞いてきた。
私ははぐらかしてもちろん言わなかったけど……。
宮坂さんは私との今を大事にしてくれるんだろうな。
そう思う。
そんないい人が何で私を選んだんだろう……?
宮坂さんは私のペースに合わせてくれた。
初めての夜の時も。
恥ずかしくて仕方なかった。
宮坂さんは何度も自分の気持ちを伝えてくれた。
肌と肌がくっつくのがこんなにもあったかくて気持ちいいものなんだと冷静に思う自分もいて、今置かれている状況を愛おしく思う暇は実はなかった。
けれど、宮坂さんからの愛は伝わる。
とても強く優しく真っ直ぐ。
こんなにも思ってもらった事はないし、その強さに私は負けそうになる。
メールでも電話でも会ってる時も、愛情表現は必ずしてくれた。
冗談を言って笑わせてくれたと思ったら、真剣に抱きしめられたり……。
愛してもらうってこういう事なんだろうな。
付き合い始めて1年が経っても周囲には気付かれずにいた。
私はというと、できる事が増えると同時に任せられる事も増え、それをクリアしていく事が楽しくなっていた。
工場の担当の人とも連携が取れる様になって、言われている意味も理解できる様になると、自分で前もって準備できたり、自分で考えて仕事ができる様になった事が楽しくて仕方なかった。
毎日が充実していた。
お休みの日、カフェでお茶をしていた。
「ねぇ、宮坂さん?」
「真樹です。 ねぇ、いつまで宮坂さんなの?」
笑って聞いてきた。
「だって……なかなか変えられないよ……」
宮坂さんも変わらず、「こむちゃん」だし、でも私はそっちの方がしっくりくるからそのままでいいけど……。
「宮坂さんは今、仕事楽しい?」
「仕事? まぁ、そこそこかな。 会社の人たちは体育会系だから男臭いけど会社の雰囲気もいいし、みんないい奴ばかりだからそういう意味では楽しいかな。 こむちゃんは楽しいんでしょ?」
「楽しいよ。 みんな優しいし困った時はいろいろ教えてくれるしありがたいよ。 楽し過ぎてこの楽しさっていつまで続くんだろう……って不安になるよ」
そんな話をしていたのに、急にその楽しさが終わってしまう。
統廃合で私の営業所がなくなる事が決定した。




