覚悟
せいさんはこの前行った公園をさらに進んだところにある見晴らしのいい休憩スペースのある所で車を停めた。
まだまだ外は寒いけど、その見晴らしの良さに外に出てじっくり見たかった。
「こんな所、あったんだーー。 知らなかった! せいさんはよく来てたの?」
「高校の時のランニングコース。 だからちゃんと景色なんか見た事ないんだよね……」
夜景が綺麗。
街のあかりとすぐそばにある海、少し向こうに見える橋のイルミネーション。
「ずっとここに住んでるけど、こんな綺麗な夜景が見えるんだーー! 知らなかったーー!」
地方の夜景なんて大した事ないけれど、私にとってはそれでも贅沢な夜景に思えた。
「あの橋よりずっと向こうに住んでるんだよね。 遠いねーー」
「車で2時間くらいだよ。 そう遠くもないんだよ。 なかなか帰って来れないだけで……」
「じゃあ、今度は私が行ってみようかな……って……なかなか無理だよねーー……」
そんな事が冗談でも言える自分が不思議だ。
せいさんは後ろからふわっと私を抱きしめた。
初めて抱きしめられて、びっくりと嬉しさと幸福感とで私は固まってしまっていた。
「やっと手と髪以外触れた。 さえ、やっぱりかわいいわ。 バイト先で初めて会った時、さえが目の前のこの子であって欲しいって思った。 さえだってわかって嬉しかったんだよ」
バックハグはずるい……。 せいさんの声がすごい近いところから聴こえる。 ドキドキする。
わたしはそのドキドキを気付かれない様に冷静に疑問に思っていた事を聞いた。
「そうだ! 何で私って分かったの? 顔、知らなかったでしょ?」
「あーー、何で分かったか? 腕時計。 前にお気に入りだって写真送ってくれたの覚えてる? その腕時計だったから。 けど、それだけで声かけるの勇気いったんだよ……。 賭けだったよ。 俺、賭けに勝ったけどね」
あーー、確かに送った記憶がある。
腕時計、覚えててくれたんだーー。
「そうだねーー。 違ったら困るもんねーー。 笑い話になってよかったねーー。 そっかーー、腕時計だったんだーー。 一つ問題解決した……」
二人で笑い合った。
バックハグを解いたせいさんに言われた。
「さっきの、『手、繋ぎたい。』って凄いかわいかった……。 自然にそんな事を言えるさえ、好きだな。 さえのそれも好きなとこ」
「さえってじっと目を見て話すよね。 俺、その目に引き込まれそうになる」
もっと、もっと……私の好きなところ言ってって思う。
「他は?」
「他? あとは、優しいとこ、穏やかなとこ、かわいいとこ、おしゃれなとこ、努力するとこ……まだ言う?」
せいさんは笑った。
「手、繋ぎたい」
私はまた催促した。
「あ、かわいいやつ!」
冷たくなった手をそっと取り優しく繋いでくれた。
「やっぱりさえがいいな。 何であの時冷たくしたんだろう……。 俺、嫌われて当然なのにさ、さえが受け入れてくれてこれ以上は望んじゃいけないと思う……。 さえは顔も性格も狂いもなく俺の理想だよ」
嬉し過ぎる反面怖さもあった。
好き以外のこの言葉もこの先言ってくれなくなる事を忘れてはいけない。
いつかは二人には終わりが来る。
私たちはいけない事をしているのだから。
けれど、今はそれも忘れたい。
今、目の前にいる人を自分はどれだけ好きでどれだけ求めたか……。
蓋をしたはずの気持ちが溢れ出たあの瞬間に私は覚悟した。
この先、苦難しかない。
何かを失う事になるかも知れない。
自分も傷付くかも知れないし、誰かを傷付けるかも知れない。
それでも私はこの人が好き。
気持ちを抑えられない。
止められない……。
「せいさんにそう思ってもらえるのは嬉しい。 せいさん、私も好きだよ。 せいさんが思ってる以上に好きだと思うよ」
どちらともなく自然に唇が重なった。
「せいさんと一緒に居てごめんなさいって思う。 せいさんを好きになってごめんなさいって思う。 けど、どう考えても無理だった。 好きしか出てこない……」
いろんな人に対してのごめんなさいだった。




