離れた時間
私はただただ目の前にある自分のやるべき事をこなし、いつもの母、いつもの妻をしていた。
せいさんとも変わらずDMで連絡は取り合い、お互いの事を話したり、ほぼ毎日来るせいさんからのDMが私の支えみたいになっていた。
「こむちゃん!」
ある日、バイト先に琴子ちゃんかやって来た。
琴子ちゃんとはせいさんからブロックされた報告をして以来会っていなかった。
「あーー! 琴子ちゃん! 久しぶりだねーー! 元気だった?」
私はいつも通り挨拶しつつも、琴子ちゃんにさえもせいさんとの本当の事は言えないと少し緊張していた。
「それはこっちのセリフ! こむちゃん、大丈夫なの?」
「あーー、あの件ね……。 大丈夫だよーー。 もう考える事もなくなったかな……?」
嘘ばっかり……。
「そっかーー。 よかった! 安心した! あの後さ、どうなってるのかな……って思ってたんだよ……」
「何もないよ。 大丈夫だよ」
私は琴子ちゃんに本当の事が言えず心の中で謝り続けた……。
一番相談した友達なのに……、私の事を気にかけてくれていた友達なのに……。
琴子ちゃん……ほんとにごめん……。
今は何も言えないんだ……。
「バイト中にごめんね! またさ、ランチか夜ごはん行こうよ!」
「そうだねーー。 久しぶりに行く? また計画しよう!」
「じゃあ、近々ね! 今日帰って予定見てみるね。 また夜、連絡するね!」
「わかった。 今日来てくれてありがとうね」
私は誰にも言えない恋愛をしてるんだ……。
人に言えないって時点でダメな事してるんだって思った。
その日は少しモヤモヤした……。
夜、いつもの様にせいさんからDMが届く。
私は今日あった琴子ちゃんとの事を話した。
せいさんは、
「さえの気持ちはわかるよ。 俺だってハセには言えない……。 けど、言えないのは仕方ないんだよ。 付き合うのやめれないでしょ?」
と、言った。
「そんなのやめれないよ……。 好きだもん……」
「さえからの『好き』って疲れ一気に吹き飛ぶわ。 もう一回言ってくれる?」
せいさんがそう言って私を笑わせてくれた。
「せいさんが好き。 これでいい?」
「今度会ったらさえにたくさん好きって言ってもらおーーっと!」
せいさんと話すと考え事があっても楽になる。
「さえ、もう少しだよ。 もう少ししたら会えるよ。 それまでお互いの毎日を過ごしてよう」
せいさんが帰ってくる予定の年末までもう少し……。
もう少し……もう少し……。
頑張らなきゃ……。
琴子ちゃんからも連絡があって週末夜会う事になった。
子供たちも夫が見てくれるのでゆっくりできそう。
でも琴子ちゃんにはせいさんとの事は話せない……。
いつか、いつか話せる日が来たら…それまでは……。
琴子ちゃんと会う日、私はバイトを終えて急いで帰り夜ごはんの支度をする。
ごはんを食べさせて後片付けまでは私の仕事。
おふろと寝かしつけは夫に任せる。
「お母さん、お出かけ?」
下の子が聞いてくる。
「そう。 お出かけ。 琴子ちゃんってお友達と会ってくるね」
私は子供たちを夫に託し家を出た。
車に乗り込みお店へと急ぐ。
お店へ着くと、琴子ちゃんはもう着いていた。
「ごめん! 待った!?」
「待ってないよ。 今日もバイトだった? お疲れ様ー!」
琴子ちゃんにはその節はありがとう、と伝えた。
あの時、琴子ちゃんに助けられたのは間違いなかった。
あの頃の話を思い出しながら話した。
ふと、琴子ちゃんが私を見てこう言った。
「こむちゃん、何か雰囲気変わった気がする。 痩せたよね?」
自分じゃわからないけど変わったのかな……?
痩せてはないと思うけど……。
「痩せてないよーー。 何だろうなぁ? やつれたのかな……?」
「いや、健康的に痩せた感じ……。 ダイエット、してないの?」
「しなきゃいけないけどしてないよ……」
「そうなんだーー。 何か女感が増した感じ? 新しい恋でもした!?」
琴子ちゃんは笑ってそう言った。
もちろん否定したけれど、女の感は鋭い。
琴子ちゃんがそう思ったのは当たっているのかも知れないね。
せいさんと付き合い始めて、私は服を変えてみたり、ピアスを新調したり、髪を編んでみたり……。
そういう事にお金や時間をかける様になった。
そういうのが琴子ちゃんをそう思わせたのかな……。
自分では意識がないけど、もしそうであれば女として嬉しい。
いくつになっても綺麗でかわいくいたいもの。
そう思われた私と会って欲しい。
琴子ちゃんにそう言われてまたせいさんに会いたくなった。




