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婚外恋愛  作者:
4/84

突然

 取引先の営業さんの名前は、宮坂さん。


 いつも電話越しでしか話した事がなかったので私が電話越しの声でイメージした宮坂さんとは少し違った。


「初めましてですね。 今日は助かりました。 ありがとうございました!」


「電話ではよく話すんですけどね。 なかなかお会いする機会はありませんよねーー」


 昨日まで電話だけだった人が目の前にいる事が不思議だった。


 宮坂さんは私より2つ年下だった。

 私は声の感じから絶対に年上だと思っていて、声だけじゃやっぱりわからないんだなって思った。

 それは相手も一緒だと思うけど……。


「私、年上だと思ってました……」


「そうなんですねーー。 意外と若いんですよ」


 背も高く野球をしていたそうで、高校を卒業して今の会社に入社したらしい。

 実家暮らしで私の実家より更に遠い町に住んでいて通勤には高速を使っていると言っていた。


 なかなか仕事中の電話ではそんな話を聞く事はできなかったので、びっくりする事がいっぱいだった。


「コーヒー、ごちそうさまでした! 今から会社に戻ります! ありがとうございました。」


 そう言って爽やかに帰って行った。


 初めましてだった私の印象はどうだったんだろう……?

 宮坂さんは何も言わずに帰って行ったけど、どう思ったのかな。

 まぁ、いいや!と思い、定時も来た事だし帰る準備をし始めた。


 ちょうど営業さんが帰ってきたので、宮坂さんの件を報告した。


「工場も話聞いてくれたんだね。 よかった。 その回答で大丈夫だよ! ありがとう!」


 私は役に立てた事が嬉しかった。


「あー、今日はいい日だった」


 人の役に立てた事、工場の人に助けてもらった事、営業さんにOKをもらった事、明日も頑張ろうって思える出来事だった。


 翌日から宮坂さんからの電話は今までと違った。

 会った事がある人というのは今までよりも話しやすくなった気がした。

 それは宮坂さんも同じなのか、仕事の話以外の事も話してくれたりする様になった。


 ある時、宮坂さんから、


「よかったら、夜、ご飯に行きませんか?」


 と、誘われた。


 嫌な気もしなかったし、取引先の営業さんというのもあるし、断るのもなぁ……と思ってお誘いを受ける事にした。


 後日、会社の私のパソコンに日時と待ち合わせ場所が書かれたメールが届いた。


 指定された会社近くにあるショッピングモールの駐車場で待ち合わせていると、大きな四駆の車が停まる。

 いつもの営業車のイメージしかなかったので、見てもピンと来ず、しばらく眺めていたら、声をかけてくれた。


「小村さん」


 私の旧姓は『小村(こむら)』である。

 大きな四駆に乗り、お店へと向かう。


 お店ではおいしいご飯を食べながら、いろんな話をした。

 仕事の事はもちろん、学生時代の話も。


 この前、私の会社に来た時の話。


 テンパってるなぁ……、けど、俺もわかんないからどうしよう……申し訳ないな……って思っていたらしい。


 あ、私、テンパってたんだ。

 そんなつもりはなかったけどそう見えてたんだね。

 あの状況を思い出して笑ってしまった。


 楽しく過ごせた時間ももうお開き。


「また明日ーー!」


 帰りに、携帯番号とメールアドレスを交換して別れた。


 会社では、営業さんには「こむちゃん」と呼ばれていた。

 というか、私の友達はほとんど、「こむちゃん」と呼ぶ。

 小さい時からそう呼ばれるので、違和感なく誰からそう呼ばれてもすんなり受け入れられる。


 宮坂さんからも「こむちゃん」と呼ばれる様になり、距離が縮まらないとそう呼ぶ事はないし、直接会ったりご飯に行ったのもあり、彼の中でそう呼べる間柄に私はなったのかな、と思っていた。


 会社の電話は『小村さん』、携帯やメールは『こむちゃん』。

 ちゃんと使い分けをしてくれていた。


 あれから何度かご飯に誘われて都合が合えば会っていた。


 ある時、いつものゴハン帰りに、


「こむちゃん、今週末予定ある? 予定ないならドライブしない?」


 と言われた。


 ドライブかーー。

 何かデートみたいだな……と思いつつ、私も嫌な気はしなかったのでドライブの約束をした。


 ドライブの日はお天気で気持ちいい風も吹いていて絶好のドライブ日和だった。


 大きな国営公園まで行って公園内をゆっくり歩きながらいろんな話をする。

 あまりこんなゆったりとした時間を過ごしてこなかった私は、こんな感じでいいのかな?と内心そう思っていた。

 横にいる宮坂さんは退屈そうでもないし……まぁ、退屈なら次はないだろうし、まぁ、いっか!

 私はあまり深く考えず楽しく過ごしていた。

 閉園間際、もう人はあんまりいなくて、私たちも帰ろうと車に乗り込む。


「帰りも運転してもらってすみません……」


「全然! 運転、嫌いじゃないんで大丈夫ですよ」


 ありがたく助手席に座らせてもらう。


 ハンバーグがおいしい事で有名なお店が近くにあったのでそこで夜ご飯を食べる。

 有名なだけあってやっぱりおいしい!

 何が入ってるんだろう……?という興味があってハンバーグの断面をジーッと見ていたら、それを見て笑って言った。


「そんなに凝視する?」


 何が入っているのかなぁ?って興味がある事を話したら、あー、なるぼどねー!と理解してくれたみたい。


 お腹もいっぱいになって道沿いのお店のライトが明るく照らす夜の道をぼーっと眺めながら、何も考えなくていいゆったりした時間に居心地の良さを感じていた。


 あと1時間くらいは戻るまでかかるかなぁ……?


 夜のドライブを楽しもうと思っていた時、急に道の駅で車が停まる。

 ん?トイレ休憩なのかな?と思って宮坂さんを見た。


「こむちゃん、俺と付き合って欲しい」


 嫌われてはないとは思っていたけど、付き合って欲しいと言われるとは正直思ってなかった。

 ちゃんと告白をされたのは久しぶりだ。


 私は恋とは程遠いところで生きてきた。


 傷付くくらいなら何も言わず現状維持。

 好きという気持ちに蓋をするのは私の中では当たり前になっていた。


 ただ、今回は思ってもらえた側。

 思ってもらえたのはありがたい。


 宮坂さんは悪い人じゃない。

 私も何も考えなくて済む、心地いい人。

 けど、会社の取引先の人だし…。


「悩んでる?」



「悩んでます……」



「俺の事は嫌いじゃない?」



「嫌いではないですけど……」



「じゃあ、付き合ってみようよ」


 宮坂さんの一言で背中を押された気がした。

 散々悩んで付き合ってみる事にした。

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