彼の気持ち
「はいはい。 冗談でもそう言ってくれてありがとう……」
私は軽く流そうと思った。
せいさんは続けて言った。
「俺、やっぱりこむちゃんがいいと思った。 こむちゃんにひどい事したよ、わかってる。 都合いいのもわかってる、けど、やっぱり、こむちゃんがいいんだ。 自分からこむちゃんを遠ざけておいて言う事じゃないけど、ずっと話したかったし、会いたかった。 この前、初めて会った時、全然話せなくて……あの日、こむちゃんを初めて見て更に会いたかったんだ。 今日が待ち遠しくて仕方なかった」
「せいさん……それって……どういう意味で言ってる…?」
「こむちゃんが好きなんだ。 調子いい事言ってるけど、俺、もう無理だよ……。 嘘つけない。 ずっとこむちゃんを想ってた。 会いたくて、触れたくて、話したくて……仕方なかった。 自分からこむちゃんを遠ざけておいて、そうしなきゃ本気で好きだった事に気付けなかった」
え……、うそ……。
どうしよう……。
私は、せいさんの気持ちを聞いて、無理だと言えなかった。
実質的に無理な事なのに、それを自分でも理解しているのに無理と言えなかった。
今日が最初で最後のつもりで会いに来たのに。
最後だから楽しく話そうと意気込んで来たのに……。
「前にDMでもよかったよ、それを言う為だけに帰ってこなくてもよかったんだよ、って言ってたよね? それはね、直接謝りたかったのももちろんあるよ、一番はこむちゃんに会いたかったんだ。 こむちゃんを感じたかったんだ」
「ずっとずっと想ってた。 何度もこむちゃんの名前呼んだよ。 でも指の間をするっと抜けて行く感じで……。 俺じゃダメなんだ……。 あーー、手が届かない人なんだ……って思ってた。 連絡も取る方法もない、会えないもどかしさをどうしたらいいのかずっと考えてた……。 そんな時、ハセがこむちゃんを知っていたのを知って、ハセに頼んだんだ」
「俺の五感全てでこむちゃんを感じたいんだ。 こむちゃん、本気で好きなんだ……」
嬉しかった。
せいさんから言われた言葉を自分の心に全て流し込んだ。
せいさんへの気持ちに蓋をするつもりが溢れ出てしまった。
でも、簡単な事じゃない……。
ただ好きだけで超えられる壁じゃない。
私たちは既婚者だ……。
「せいさん……、本気なの? 私、結婚して子供もいるよ。 せいさんだってそれは同じでしょ? 私たちがそうなるって事はどうなるって事がわかる……?」
「わかってるよ。 でも気持ちに嘘つけない」
まっすぐ見つめられて言われるせいさんの言葉を私は全身で感じていた。
想いが繋がったこの瞬間……、ダメだとわかっててもせいさんを求めている私……。
私だって大好きだ。
ずいぶん前から……。
もう私も嘘はつけない……。
せいさんに会えた事、声を聞けた事、それで満足してさよならしようと思っていた自分はどこかへ行ってしまった……。
もっとせいさんを見ていたい、声を聞きたい、触れたい、一緒にいたい……。
もっともっと……もっと……。
今はお互いに高まってる気持ちを隠しきれていない。
その先に破滅しかないこの恋を考える時間が欲しい。
私はせいさんに自分の気持ちを伝えた。




