《やっと会えた》
ハセにこむちゃんの事を話してから、俺は可能性は低いかも知れないけど道が開けた事に浮き足立っていた。
SNSを見ても相変わらずこむちゃんは使っていない。
今更なのはわかってる。
当然怒ってても仕方ない。
拒絶されても仕方ない。
都合いいと思われてももう一度話したいし会いたいと思っていた。
もうハセからこむちゃんへ話は届いてるんだろうか…?
こむちゃんはどう思ったのかな。
誰かも明かさないって、びっくりだろうな……。
会えるかな……。
会ったら何、話そう……?
あんなにも拒否したこむちゃんの事で頭がいっぱいだった。
都合良すぎだよな、俺……。
どれくらい待っただろうか……。
ハセから折り返しの連絡があった。
「こむちゃんに連絡した。 元気そうだったよ。 というか、お前より俺の方がこむちゃん久しぶりなのが違和感ありだわ……」
ハセは笑って話を続けた。
「こむちゃんさ、謝られる様な事をされた覚えがないから、その人に謝らなくていいですよ、だから会いに来なくても大丈夫ですよ、って伝えて下さい、って言ってたよ。 こむちゃん、今バイトしてるんだって。 週3くらいって言ってたかな。 征一郎の実家の近所のモールじゃない方のモールってわかる? 俺の営業所が近くにあった方。 あっちのモールの雑貨屋さんでバイトしてるんだって。 こむちゃんには謝りたいって人がいるから会いに来るかも……とだけ言ってある。 当然、考え込んでたよ。 どうするの? 行ってみるの?」
こむちゃん、元気なんだ。
よかった。
「行ってみるよ。 探してみる。 ハセ、ありがとう!」
「征一郎、そもそも何でSNS始めたの? 奥さんとうまくいってないの?」
ハセの疑問、そうだよな……それも話さなきゃな……。
「うまくいってない訳じゃないけど、まぁ、お互い特に意識してないと言うか……」
「会った事ないこむちゃんに気持ちが行ったって事?」
「けど、ダメなのはわかってるから……。 それにあんな事してこむちゃんはもう俺の事は好きじゃないと思うし……」
俺はハセが思ってる事を打ち消す様に伝えた。
ハセは、俺もこむちゃんも大事な友達と仲間だと、とりあえずそれは忘れるな、と言った。
「まぁ、会って謝ってこい。 ちゃんと報告しろよ!」
ハセに感謝しかない。
俺は連絡する事を約束して電話を切った。
しばらくは仕事が忙しく休みが取れなかった。 1ヶ月くらい経った頃、日帰りにはなるけど、地元へ帰れそうな日ができたのですぐに戻った。
久しぶりの実家。 両親も元気そうでよかった。 実家で少しゆっくりしてからこむちゃんのバイト先のモールへ行ってみた。
今日は平日。
人は少なめみたいだ。
モールの中にある「雑貨屋」を片っ端から探す。
俺はこむちゃんの顔を知らない。
雰囲気と少しの手がかりだけ。
当然だけど顔を知らないって難しい。
ある雑貨屋でこむちゃんの雰囲気の子がいた。
けど、確信が持てなくて声をかけれなかった。
ハセに助けて欲しかったけど甘えちゃいけないな、と思い自力で探す事にした。
今日は諦めてまた出直す事にした。
でも、たぶんあの子だと思う。
楽しそうに仕事をしていてニコニコしててみんなに好かれそうなかわいい子だった。
だぶんこむちゃんは45歳くらいだと思うけど、その雑貨屋のあの子は少し若く見えた。
その子にこむちゃんのイメージを被せながらひとまず帰った。
帰りの車の中、俺はこれまでの事を思い出していた。
いつも優しくて、毎日を楽しく生きてるのが文面でわかった。
何事も一生懸命で女性という事を忘れないできれいでいようとする気持ちを持ってる人。
そんなところに先に惹かれてしまったのは俺だ。
会いたくて触れたいと思っていたのに、なぜ面倒だと思ってしまったんだろう……。
こむちゃんらしき人を見たせいか、会いたい気持ちに拍車がかかる。
帰ってハセに電話した。
「今日行ってきた。 一人こむちゃんっぽい子いたけど確信が持てなかったから声かけなかった。 また行くけど……」
「その子だったんじゃないの? そんな気がするな……」
「というか、こむちゃんの連絡先、教えてくれたら早いんじゃない……?」
「それは征一郎でも絶対ダメ!」
「……ですよね……、わかってます……。 自力で探します……」
今度いつ帰ろうかな……。
意識していない妻であっても妻の手前、あんまり用もなく頻繁にも帰れない……。
こんな形の夫婦だけど、それでも夫婦。
いろいろ考える事もある。
数ヶ月後、俺は連休を取ってまた地元に帰った。
またあの雑貨屋へ行った。
あの子は今日もいた。
こむちゃんであって欲しいな……と思って商品を並べるその子を見ていて気付いた。
あの腕時計、こむちゃんが大切にしてるのと一緒だ……。
前にお気に入りの腕時計の写メを送ってくれた事があってそれを思い出した。
俺はこむちゃんと確信した。
その場にずっといる訳にもいかないので、近くのコーヒーショップでバイトが終わるのを待つ。
待ってる間、ソワソワしている。
実物のこむちゃんはかわいい人だった。
謝らなきゃ。
こむちゃん、話してくれるかな。
会いたくないって言われるかな。
もう忘れてるかな。
何から話したらいいのかな……。
いろんな事を考えていたら、こむちゃんのバイトが終わりそうな雰囲気だった。
店舗から出たこむちゃんに俺は声をかけた。
「こむちゃん?」
そう呼んだその子は振り向いた。
俺を見てキョトンとしている。
誰だろう?って顔してる。
そうだよな……。
まさか俺がいるはずないと思ってるはず……。
俺はやっと会えた事がほんとに嬉しかった。




