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婚外恋愛  作者:
27/84

《友人への頼み事》

 俺たちは地下にあるバーに入った。

 ここなら静かだしゆっくり話せそうだ。

 カウンターに座りどこから話そうかと考えていた。

 さっきの店とは違って静か。

 グラスの氷の音が響く。



「で、何? 聞きたい事って?」


 俺はハセの言っている【こむちゃん】の事をまず確信にしたかった。


「さっきの話のさ、こむちゃんって子ってさ、どんな子?」


「え? こむちゃん? 何? 征一郎、気になるの? だめだよ、こむちゃんは……」


 そう言って笑っていた。


「こむちゃんは一言で言うとほんといい子だよ。 仕事一生懸命するし優しいし……。 怒ったのや声を荒げたりするの見た事ないな。 いつもニコニコしてる子だったよ。 こむちゃんがどうしたの?」


「俺の知ってるこむちゃんかな?と思って……」


「こむちゃん、知ってるの!? 征一郎の知ってるこむちゃんはどんな子なの?」


「いや、ほんといい子だったと思う。 たぶんおしゃれだし、女性という事を忘れずに生きてる人かな。」


「だったと思う、とかたぶん、とか何?」


「俺、会った事ないんだ。 SNSで出会ったんだよ。」


「実は1年くらいやり取りしてて……会おうって話までになったんだけど、俺が仕事が忙しくて連絡できなかったんだよね。 こむちゃんはそれが不安だったみたいで……何度も連絡くれたんだけどそれにも返信せず……正直面倒になってて……。 告白めいた事言ってくれたりしたんだけど……こむちゃんも俺も既婚者だからどうにもならないのはわかってて……。 嬉しかったんだけど当時、ほんと面倒の方が勝ってて……。 結局俺がこむちゃんをブロックしたんだ……。」


「は? ちょっと待って! 征一郎から声かけたの!? え? 遊び?」


「最初は遊びというか……あんまり考えてなかった。 その時楽しければいいかな、って感じで……。 けど、そのうち会いたくなったのは本当で……。 地元に帰ったら会う約束もしたけど、仕事で疲れてて……。 こむちゃんを拒否したんだよな……俺……」


「その後、別の子と連絡取ってたんだけど、最初は楽しかったんだけど、そのうちこむちゃんと比べてるのに気が付いて……。 けど相手は出会い目的だったから押しが強くて……。 こむちゃんに会いたかったり、話したかったり、謝りたかったりしたけど……もう無理だよな……、って思ってたんだ……」


 俺は全てをハセに白状した。


「相手、こむちゃんかなぁ……。 そんな気もするかな……。 征一郎は本気になった訳? こむちゃんの事……」


「ブレーキはかけてた感じ……」


「そっか……。 征一郎さ、こむちゃんの連絡、返事返してないの? 全部? 無視してたって事? で、ブロック?」


「うん……」


「お前、それマズイよな。 お前から声かけたんだろ? こむちゃん、何て?」


「困ってた……。 何か自分がしたのかな?とか……。 最後は、1年間楽しかったよ、ありがとう、って言ってた……」


「こむちゃん、怒ったりしなかった?」


「うん……、しなかったかな……」


「そうだろうな……。 こむちゃんはそういう子だよ。 告白めいた事って?」


「たぶん好きになってたと思うって。 けど、何かを求める訳でも、付き合いたいとかそういうのはない、お互い、大切なものがあるから……って……。」


「それに対しても無視したの?」


「………。」


「何だそれ!? お前、最悪だよ……」


「その時は面倒としか思えなかったんだよ……。 仕事が忙しくて……。 けど、後でしかこの後悔に気付けなかった……。 最悪だよな……」


「征一郎とこむちゃんは確かに世間では関係が深くなっちゃいけない間柄だよ。 不倫だからさ。 けど、友達って枠でも征一郎の振る舞いはひどいかな。 向こうから連絡きてるんでしょ? 一言でも返せたでしょ? まぁ、仕事が忙しくて返信する元気もないってのもわかるけどさ……」


「最悪なのはわかっててもこむちゃんに会って謝りたいんだ。 ハセ、頼めない?」


 俺はハセに頼んだ。

 どうしてもこむちゃんに会いたい。

 会って話したいし謝りたい。

 こむちゃんがSNSをしていない以上、こむちゃんと繋がれるのはハセしかいない。

 今更でも会いたかった。


 ハセはしばらく黙った。

 俺はハセに託すしかなかった。


「征一郎、会ってどうするの? お前が突然現れてこむちゃん、困るんじゃない? それに、お前にもこむちゃんにも家族がいるんでしょ?」


「謝りたいんだ……。 SNSでしか繋がってなかったけどいい子なのはわかったし、そんな子に冷たくする以外の方法ってあっただろうけど、俺はそれをせずに面倒という気持ちだけでその子を傷付けた。 こむちゃんに直接謝りたいんだ。 こむちゃんを困らせる様な事はしない。」


 ハセは黙って考え込む。

 大きなため息をついてこう言った。


「ってか、お前からこむちゃんが結婚して子供もいる事聞かされると思わなかったよ! 征一郎、こむちゃんといろんな話してたんだね。」


「こむちゃんに連絡取ってみるよ。 けど、どうなるかはわからないよ。 お前の名前出したら拒絶するかもな」


 それは困る。 ハセに名前は出さないで欲しいとお願いした。


「わかったよ……。 じゃあ隠しておくのね……。 それでもダメなら諦めろよ。 こむちゃん、困らせるなよ。 あと、その後の事、俺に報告も忘れるな! この件で、お前の仕事柄よく使う守秘義務は俺には通用しないよ」


 俺はハセに望みをかけた……。

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