思い出す過去
ななみさんは、せいさんとの事を話し始めた。
3ヶ月くらい連絡を取り合ったらしく、最初はせいさんから連絡をもらったらしい。
ななみさんは出会いを求めていた事もあって最初から恋愛対象として接していた。
ななみさんは、せいさんも出会いを求めていたと思っていて、せいさんが発する言葉を自分への好意と疑う事なく受け止めていたみたいだ。
私と違うのは、ななみさんは独身である事と、最初から出会いを求めていたという事。
私は、既婚者で子供もいて、臆病で恋愛偏差値も低い人間なのでせいさんの言葉は慎重に冗談だろうなと思って聞いてきた。
それでも、一瞬でもお互い同じ気持ちだっただろうな…と思うのだから、ななみさんは私以上にそう思っていたのかも知れない。
ななみさんはせいさんと会う事を求めた。
けれど、それまでと違って頻繁だった連絡が途絶え始め、返信もしなくなり、ついにはブロックされてしまったという事らしい。
たくさんメッセージは送ったけれどどれひとつとして返信は返ってこなかったというのも私と同じだ。
「ななみさんは、今、どう思ってるの? どうしたいとかある?」
「せいさんの事はもういいかなと思ってます。 ただ、無理かも知れないですけどせいさんの本心を知りたくて。 出会いを求めてたのか、それは本気だったのか遊びだったのか、そもそもそんなつもりもなく暇潰しだったのか、あの言葉は全て嘘だったのか、とか。 私は同じ過ちはしたくないので…。 こむちゃんさんはせいさんとはどうだったのかな、と思って。
私が知り得なかったせいさんを教えて欲しいなと思ってこむちゃんさんに連絡してみたんです…」
私が知ってる事もたぶんななみさんとは大して変わらないんじゃないかな。
そう思ったけれど、私が話す事でななみさんが納得できるのであればいいかなと思った。
「ななみさんとせいさんの二人の事は二人にしかわからない事だとは思うから私が今から言う事は、一つの話として聞いてもらってもいいと思うんだけど…」
私はあの時の事を思い出しながら少し話させてもらった。
「せいさんが最初連絡してきたのは、もしかしたら、出会いを求めてたのかな、とは思う。 けど、ななみさんへの気持ちが高まってたのは嘘じゃないと思うし、これからを少しでも描いたんじゃないのかな。 せいさんが言った言葉全てが嘘ではなかったと思う。 急に連絡が取れなくなった理由はわからないけど、せいさんも既婚者だったから悩んだのかも知れないし…。 仕事も忙しい人だったからそんな余裕がなかったのかも知れない。 私もななみさんもそうだけど、返信が来ないのに追いメールみたいな事してなかった? あぁいうのは良くないんだよ。 あと、長文とかさ。 男の人って嫌になるんだって。 私もさ、そんなに恋愛してこなかったからそういうのよくわかってなかったのかもね。 私の場合だけど、自分の意思を押し付けようとしてたのかもね。 私はこう思ってる、わかってよ!みたいな感じ。 ダメだよねー。 後悔はたくさんしたよ。 けど、もう過去は取り戻せないから前を進むしかないんだよ。 それなら楽しくした方がいいでしょ? ななみさんも同じ。 楽しくいこうよ!」
ななみさんはその時の事を思い出したのか泣いてしまった。
彼女なりに真剣だったんだよね。
せいさんという人を好きになったんだよね。
知る事はできないけど、せいさんという人はどんな人だったんだろう…。
既婚者だし、悲しい思いは無理にする事ない。
これでよかったんだ、って思おう。
「大丈夫、そのうち、ななみさんも完璧に過去の話になるよ。 それはななみさんのペースでいいし、せいさんの事わかるの私だけだから、話聞いて欲しくなったらまた聞くよ」
少しは元気出たのかな。
私は話してよかったのかなと思った。
ななみさんはまだ独身だし次がある。
きっといい人いるよ。
もう恋はしないしできない私とは違う。
いい恋して欲しいな。
ほんとにそう思った。




