会いたい衝動
夏の終わりに差し掛かった時、せいさんから来週末に帰れそうと連絡があった。
どうしてもずらせない予定が入っていて今回は会うのは難しそう……と返した。
せっかくだったけど……でも無理だった。
週末、無事こっちに着いた?と連絡すると、
「今、実家。 こむちゃん、会いたかったな。」
と、返ってきた。
この街のどこかにせいさんがいる。
「あの辺り」としか分からない場所だけど、でもいつもより確実に近くにいるんだ、と思うと嬉しかった。
会いに行けないもどかしさと、会う事の怖さと、会わなくてよかったのかも…という安堵と、いろんな気持ちでぐちゃぐちゃだった。
朝からソワソワしてしまって何も手につかない。
何かうわの空。
やっぱりダメだ……。
「ちょっと1時間ぐらい外していい? 買わなきゃいけないもの忘れてた」
気付いたらそう夫に言っていた。
「あ、いいよー。 一緒に行かなくていいの? 気を付けてねー」
と、快く承諾してくれた。
心の中に、ごめん……!の3文字しか浮かばなかった。
私はせいさんの実家近くというショッピングモールへ向かった。
せいさんの顔は知らない。
頼りはあの似顔絵だけ。
いるかどうかもわからない。
けど、もっと近くに行きたかった。
時間は1時間だけ。
ショッピングモールに着いた私は何となくいろんなところを歩き回った。
もちろん、会えるはずもない。
いるかいないかもわからないのに。
私は勇気を出して、せいさんへ連絡する。
「今、ショッピングモールに来てるよ。 けど、あと30分くらいで帰る。」
コーヒーショップでコーヒー飲んで待ってよう。
一人でドキドキしながら待つ。
いつもは美味しいコーヒーなのに、今日はコーヒーの味なんてしない。
時間潰しに喉に流し込んでるだけ、そんな感じだった。
人生とはうまくいかないもので……せいさんから連絡は来なかった。
時間も来た事だし残念だけど帰る事にした。
まぁ、急だし仕方ないよね……。
でも、自分の行動力にびっくりした。
私ってこんな事もできるんだ……。
私が家に着いてしばらくしてからせいさんから連絡が来た。
「え! もう帰った? さっきまでいたの? 30分なんて早いよーー! 帰ってきてよ」
DMに気付かなかったみたいで、見てたら行ってたのにーー!と言っていた。
仕方ないよね。
でもこれが最後じゃない。
また会えるよ、元気に生きてれば。
残念過ぎるけど今はそう思うしかない。
またお互い、いつもの毎日に戻った。
あの後すぐせいさんは自分の暮らす街へ帰った。
また帰ってくるから今度こそ、そう言っていた。
「会えないけど、こむちゃんの事は少しずつ知っていくよ。」
ふわりとした心地いい優しい風みたいなせいさんの言葉。
「ありがとう」
私はそう返すのが精一杯だった。




