侵食
雨が強く降る音。
外を見るとアスファルトに強く叩きつける雨で路面は白くなっている。
私はそれを見ながら、特別欲しい訳ではなかったけど何となく入れたコーヒーを飲む。
雨の薄暗い感じや雨の音、私は嫌いではない。
むしろ落ち着く。
降りしきる雨を見ながらぼんやりする時間は、私にとって癒しの時間。
専業主婦の私に逃げるところはどこにもない。
この一人のリビングでただ与えられた時間を過ごすだけ。
自分と向き合い冷静になれるのは今この時間か、家族が寝静まった時。
考え事がある時もない時も私はその一人時間が大事で大切にしてきた。
昨日もらったメッセージ。
あれにはどういう意味があったのだろうか?
特別意味がある訳ではないのか、ただの打ち間違いなのか、実は本当に宛先間違いだったのか、本当のところはわからない。
せいさんには、地元に帰省したら会おうと言われていた。
私もお茶飲むくらいならいいかなと思っていたけれど、男性の友達と会う感覚だと、せいさんもその人と変わらないと思っているのに心のどこかで引っ掛かりがあって正直迷いがあった。
最初はSNS上の付き合いだと思っていたものが、現実に会ってもいいかな、に変わっていたのは確かだった。
「仕事をしていない私に「仕事頑張ろうね!」というメッセージが来た。 私じゃない人に送らなきゃいけなかったんじゃないのかな?と思ったんだよ。 それが悪い事な訳じゃないし、それでもいいんだよ。 私はとやかく言う立場にない。 でも、せいさんに会ってみたいと心が動いたのは本当で、だからこそあのメッセージは悲しかったかな」
私は初めてせいさんに今思っている事をぶつけた。
しばらくして返信があった。
「単純に間違えただけなんだ。 不快に思ったのならごめん」
「随分前に話したから仕事してるのと勘違いしてた」
随分前にって言うけど、数ヶ月前だよ、そんな事、間違える?と、正直思った。
「送る人、間違えた訳じゃないの?」
「それは間違ってないよ」
私は、そう言うのならと今回の話は流す事にした。
そんな事がある事も忘れるくらいそれ以降もたくさん話をした。
ドキッとさせられる事は変わらずあった。
本気で言ってるんだろうか?
たぶん冗談だね、が、私の中で入り混じる。
混乱する自分の心にせいさんという人がどんどん侵食していく感じ。
せいさんは、仕事が趣味みたいなところがあると言っていた。
詳しくは聞きたくても聞けないと思っていたからよくはわからないけど、解決できない事やイレギュラーな事もあって夜遅くまで、大変な時は日をまたぐ事もあるらしい。
私は、仕事ばかりひたすらやっていた頃を思い出した。
あの時の私は仕事が楽しくて仕方なくて、同僚にも恵まれて毎日が幸せだった。
せいさんもそんな感覚なのかな。
私には共感できるところだったしそんなせいさんがとても羨ましかった。
ひたむきに仕事をしているせいさんは私にとって素敵な人だった。




