ドキンという音
せいさんとの毎日の秘密のやりとり。
些細なことを話す程度だったが、それが楽しかった。
たまに、お昼に食べたランチセットの写真を送ってきてくれたり、私はお気に入りの腕時計やピアスの写真、空の雲が綺麗だった時の写真を送ったり、別々のところで暮らしているけれど、ここで生きてるよっていうのをお互いに伝えている、そんな感じだった。
「この腕時計、かわいいね」
「これはね、実はメンズなの。
ガツンとしてるのが欲しくてメンズにしたんだ。
けど、最近調子が良くなくて……。
気に入ってるんだけどなぁ……」
腕時計の調子が悪いなんて、家族誰も知らない。
そんな事だからなのか、そんな事こそだからなのかせいさんには話していた。
「こんな腕時計、欲しいな」
もうこの腕時計は売ってなくて、売ってるところを教えてあげる事ができなかった。
けど、せいさんもこんな感じの腕時計、好きなんだ、って、ひとつわかった瞬間だった。
季節はもうすぐ春になろうとしていた。
変わらずにせいさんとはやりとりが続いていた。
ある朝、ゴミを捨てに行こうと外に出た私は、薄着で出てしまいとても寒かった、まだまだ朝晩は肌寒いのに一枚羽織って行けばよかったな、という話をした。
「俺がいたらあっためてあげるのに」
「あー、ジャケットか何か貸してくれた!?」
内心、どういう意味なんだろう?思った。
「そうじゃなくて、俺が抱きしめてあげるのに」
ドキンとした。
私は、またまたー!と冗談で返した。
言葉ってしかも文字ってこんな破壊力ってあるものなのかな?
一瞬、ドキンとしたのがわかった。
やりとりを始めた時はこんな風に思うなんて思ってもなかった。
そもそも、せいさんはどうしたいんだろう?
そんな事を言ってどうするんだろう?
私もせいさんという人に慣れ敬語も使わなくなった。
けれど、ほとんど知らない人。
なのに、私の中で少しずつ増えていくせいさんを考える時間。
いや、ダメでしょ……。
誰にもせいさんの事は話した事はない。
自問自答の日々。
私はせいさんの指で打つ言葉にドキンとさせられながらも、冗談で返していた。
いつもの様にやりとりをしていたら、明日は夜勤だと言っていて、公務員で夜勤ってあるんだと思った事を思い出した。
「公務員で夜勤ってあるんだねーー」
私は思い出した疑問を伝えたら、せいさんは答えてくれた。
「俺、警察で働いてるんだ」
せいさんは警察で働く人だった。
凄いびっくりしたけど、警察の人だし仕事柄、言えない事もたくさんあるだろうから私もあまりいろいろ聞かなかった。
そっかーー。
警察の人だったんだーー。
また一つ、せいさんの事を知れた事が嬉しかった。
私はいったい何がしたいんだろう?
そう思う事もあるけど、その時を楽しめばいい。
せいさんとやりとりをしている時間を楽しめばいい。
その先はない。




