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第九十五話 逃げるか、戦うか

本日、雑草転生1巻発売日になります!

もし興味ありましたらお手に取っていただけると幸いです!

m(_ _)m


 ●○●



 夢の中(?)でセフィーリアちゃんと修行すること数時間、俺たちは現実世界に帰還した。

 戻ってきたのはリザント商会の応接室で、仮想アルヴヘイムに移動する前とほとんど変わらない光景。窓から差し込む光の加減から判断しても、ほとんど時間は経っていないように見えた。

 何より、俺たちに訪れた異常に周囲の誰も勘づいていない。

 そう考えると数分どころか数十秒も経ってはいないのではないかと思われた。

 しかし――、


「む? しょーぐん?」


『お? なんだ?』


 ファブニル将軍がセフィの近くに移動していた。

 いや、ファブニル将軍だけではない。プロンまでも俺たちの目の前にいる。

 不思議に思いながらも見上げる俺たちの前で、ファブニル将軍とプロンは膝を折って騎士のように恭しく跪いてみせた。

 それから仰々しくも誠意の籠った声音で、俺たちに礼を述べたのだ。


「偉大なる森神よ、大樹の精霊よ、二柱の御慈悲にヴァナヘイムを代表して感謝申し上げる」


「感謝致します、森神様、精霊様」


「……お、おー……」


『……う、うん』


 いきなり何だ、と俺たちが思ったのも無理はない。

 俺たちと将軍たちの間には認識に数時間のずれがあるのだ。将軍たちにとっては一連の流れの出来事なのだろうが、俺とセフィにとってはそうではない。

 それでもセフィーリアちゃんと会う前に何があったのかを思い返せば、将軍とプロンが突然礼を言った理由も納得できる。

 そういえば、セフィと一緒にビヴロストの皆を救うと、そう決意したばかりであったのだ。

 主観では数時間前のことを思い出しつつ、俺は何だか気まずい気分で頷いた。いや、何かテンションの違いに戸惑うっていうかね?


『あー、まあ、そういうわけだから、よろしく頼む』


「セフィたちにまかせろ!」


「うむ、貴殿らの助力、ありがたい」


 ともかくも、俺たちが感謝を受け取ってそう請け負うと、将軍はニヤリと笑みを浮かべてみせた。

 その様子に、まさかこの展開は将軍の狙い通りなのではないかとも思えた。そもそも俺たちに色々な物資を売ってくれた礼を言うのも、教国とヴァナヘイムの現状をわざわざ教えるのも、将軍側にとってそれほど重要なことだとは思えない。将軍の地位にある者が、自国民以外に自分達の窮状を懇切丁寧に説明するものだろうか? 普通に考えればあり得ない。害はあっても利はない行為だからだ。それでも僅かばかりの利を引き出そうとするならば、自分達の窮状を語る目的は一つしかないように思われた。

 つまり……、


『……俺たちに現状を話したのは、このためか?』


「む? 何のことだ? 我に難しい話をされても困るぞ」


 ぱちくりと瞬きしつつ、不思議そうに首を傾げてみせる将軍。

 おっさんがそんな仕草をしても全然可愛くないし、わざとらしさが全開である。

 それで誤魔化したつもりなのだろうか?


『まあ、良いけどね、もう』


 どちらにしろ、俺たちのやることに変わりはないのだ。

 とにかく後は、里の皆に協力を募ってみるしかない。

 もちろん無理強いはしないし、誰も死なせるつもりもないが、それでも皆を危険に巻き込むことだけは動かしようのない事実でもある。自分たちのことだけを考えるならば、戦わないという選択肢もとれるのだから、これは無用の危険と言ってしまえばそれまでなのだ。


 それでも。


 もしかしたら皆の期待を裏切ることなのかもしれない、反対されるかもしれない、ふざけるなと怒る者もいるかもしれない、それでも。



 ●○●



「みんな! セフィ、ビヴロストのひとたちをたすけたい! だから、ちからをかして! おねがいっ!」


「「「ぅおおおおおおおおおおおッッ!!」」」


「「「戦じゃあああああああああッッ!!」」」


『――え?』


 洞窟の中。

 そこに築かれた隠れ里の小さな広場には、エルフ、狼人族、ドワーフたちが大集合していた。

 俺とセフィが教国と戦うことを決めた以上、協力を募りたい戦士たち以外にも里の全員に報告しないわけにはいかない。

 そんなわけで全員を集めて事情を説明し、ビヴロストを守るための戦いに協力を募ったのだが……。


「教国との戦争ですか。今度こそ、雪辱を晴らしてみせましょう!」


「戦なんて何時ぶりじゃ!? 血が騒ぐのう! 酒じゃ! 酒を持って来るんじゃあッ!」


「いよいよこの時が来ましたのぅ。何時までも舐められたままというのは良くないですからな。そろそろ、儂らの強さを教えてやりましょうぞ」


 俺が事情を説明し、用意されたお立ち台に上がったセフィが協力を募ったところ、なぜか歓声が上がった。

 誰も危険だとか止めようだとか言う気配はない。怖じ気づいた様子は皆無で、むしろやる気満々といった感じだ。


 里で共に暮らす三つの種族にとって、教国は手酷い敗北を喫した相手だ。家族や同胞も何人も殺されただろう。

 そんな相手と戦争するとなれば、怖じ気づくものだと無意識に決めつけていた。

 だが、むしろ雪辱を晴らしたいと願っていたのかもしれない。


 ……いやうん、狼人族やドワーフたちが好戦的になるのは分かるんだけどね。なんか種族的に血の気が多そうだし。


『長老も、参加するの?』


「? もちろんですじゃ」


 集まった皆の最前列で闘志を迸らせるエルフのご老人、つまり長老が当然のような顔をして頷く。

 だが当然、俺としては長老にまで戦いに参加してもらうつもりはこれっぽちもなかったのだが……。


『大丈夫なのか? その、色々……腰とか』


「ほっほっほっ、なんのなんの! 儂もまだまだ若いもんには負けませんぞい?」


 不安だ……。

 ぎっくり腰とかなりそうだから長老には安静にしていて欲しくはあるが、本人のやる気は凄い。むしろ俺の方が戸惑うほどである。


『っていうか、誰も反対しないんだな』


 俺は集まった住人たちを見回しながらそう言った。

 もちろんビヴロストに連れていくのは戦える者だけである。

 それでも、戦う者も戦わない者も関係なくやる気に満ちているのが不思議だった。

 今でこそ勝つための秘策はセフィーリアちゃんから授けられたが、どれだけ絶望的な戦力差であるかはきちんと告げたつもりだ。なのに誰もやめようとは言わないことが不思議だったのだ。


「ふむ……皆、分かっているのではないですかな?」


 長老が髭を撫でながら、穏やかに答える。


『何をだ?』


「教国の脅威から逃げ続けることは、まあ、それなりにはできるでしょうな。儂らがここに来たように、遠くへ遠くへ行けばよろしい。ですが、いつまでも逃げてばかりはいられないと。何より、逃げ続けるような生き方など儂は御免ですな」


『……』


 それは俺にとって思ってもみない言葉だった――のかもしれない。

 勝てるかも分からない戦いに身を投じるなどあり得ないと、なぜだか思い込んでいたのだ。おそらくは「前の俺」にとって、それが当たり前の価値観だった。


 けれど。


 これまた当然の話だが、そんな価値観の者ばかりではないのだと、長老は俺に教えてくれた。


「ならば、戦える時には戦い、自らの力を示さねばなりますまい。敵がこちらに手を出すのを躊躇するように。あるいは儂ら自身の誇りのために。……幸い、今の儂らには姫様も精霊様も狼人族もドワーフまでもおりますからな。何も心配する要素などありませんな」


『…………そっか』


 もしかしたら俺は、無意識に彼らを守るべき存在だと下に見ていたのかもしれない。

 狼人族もドワーフも、そしてエルフたちも、俺の想像以上に逞しい。時には誇りのために不利であっても戦うという価値観は俺にはなかったもので、理性的に考えれば愚かしい行為なのかもしれないが、それは確かに時には必要で、蛮勇とは違う勇敢な選択肢だった。

 だから、


『意外と、簡単に何とかなるのかもしれないな』


 俺は心底から気楽そうに、そう声に出して言ってみた。




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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルに釣られて一気読みしてしまいました。 どんどん厳しい状況になって行き、どないする?とドキドキしながら読ませて頂きました。 まだ新神が出て来てないので、眷属との戦いですが、こちらも眷…
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] ノボリを立てるムーブ!
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