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第九十四話 神の継承


 ●○●



『…………』


 突然現れた妙齢の女性がアイドルとか名乗った上にウインクしてきた場合、どう反応すれば良い?

 できれば空気とか読んで欲しいんだが。

 そういう雰囲気じゃなかっただろ!


「おー!」


 しかしセフィはなぜか疑問に思うこともなくパチパチと拍手している。

 今より幼い時分に、何かそういう教育とかされていたのだろうか? 女王陛下がウインクしたら拍手する、とか?


 一方、セフィーリアちゃんは満足げに頷きつつ、地面から盛り上がった巨大樹の根を優雅に下りて、こちらに近づいて来た。


「二人とも元気してたかしら~?」


「うん!」


『……いやいや、ちょっと待て』


 俺は普通に会話し始める二人を止める。

 知り合いかよ。

 いや、知り合いではないはずだよな?

 セフィが女王陛下とやらと殊更に親しくしていた、なんて聞いたことはない。


『いきなり出て来て何なの? 元気してた? じゃないんだよ。どうして俺たちはこんなところにいるんだよ。ここは何なんだよ?』


「ユグったら、質問が多いわね~」


 やれやれ、と首を振るセフィーリアちゃん。

 そりゃ質問が多くもなる。唐突過ぎるだろ、色々と。


「残念だけど、今日の私はユグに会いに出て来たわけじゃないのよ」


『じゃあ何のために出て来たんだ』


 セフィーリアちゃんは俺の質問に答えず、ただ肩を竦めてみせた。

 それからもうこちらに用はないとばかりに、セフィと向き合う。


「セフィちゃん?」


「ん?」


「ビヴロストを救うつもりなのかしら?」


 問いかけるその声は柔らかでありながら、けれど何処か翻意を促すようにも聞こえた。

 だがセフィは迷いなく答える。


「ん! セフィ、みんなをたすける!」


「そう……でも、ヴァナヘイムの民はエルフではないわ。狼人族でもない」


「ん?」


「森の民じゃない。私たちには関係のない存在よ?」


 やはり、そうか。

 セフィーリアちゃんは聞き分けのない子供を諭すように、セフィに語りかける。

 彼女は反対なのだ。ビヴロストの戦争に介入することが。

 いや、より正確に言うならば、護るべきものを危険に曝すことが、だろうか。


「私たちは森とエルフと狼人族を護るべきだわ。それは分かるかしら?」


「ん」


「そうよね? なら、護るべき彼らを危険に巻き込むのは、神として正しい行いなのかしら?」


「ん……なら、セフィとユグでみんなをたすける。さとのみんなにはあんぜんなところにいてもらう」


「あらあら、でも、それは危険だわ。セフィちゃんもユグも、ビヴロストでは実力を発揮できないのよ? 負けてしまうわ、死んでしまうわ?」


「ん……」


「死ぬのは嫌よね? なら、やめておきましょう?」


「でも……」


 セフィーリアちゃんの一貫した態度から、俺はある疑念を抱いた。そしてそれは、あまり気分の良いものではない。今、それを追及することもできるだろう。けれど、それは後で良いと思った。

 セフィーリアちゃんの思惑は何であれ、俺たちの行動は決まっているのだ。

 だから、言う。


『俺とセフィなら大丈夫だ。何とかしてみせる』


 セフィーリアちゃんが目を丸くしてこちらを振り返る。

 俺の言葉に同意するように、セフィが力強く頷いた。


「ん! セフィとユグならだいじょぶ! きっと!」


「…………」


 彼女は唖然としていた。

 それから深い深いため息を吐くと、自らの髪をかきあげ、ガシガシと苛立ちを紛らすように頭を掻く。それは彼女にはあまり似つかわしくない仕草に思えた。


「はあ~……根拠がないって、分かってるわよね?」


 じろり、と責めるような視線で射抜かれる。


『すまんな』


 決めてしまったのだ。

 そんな俺たちの様子に、決定を覆すことができないと感じたのだろう。セフィーリアちゃんはもう一度、深いため息を吐いて、


「もう、本当に……なら、仕方ないわね」


 諦めるようにそう言った。


「――セフィちゃん」


「はい!」


 セフィーリアの真剣な眼差しにセフィも真面目な話だと感じてか、真剣に返す。


「あなたに死なれては困るのよ。だから、今からあなたに必殺技を教えます」


「ふおー!? ひっさつわざ!?」


『いや何でだよ!』


 真面目な話だと思ったのは、俺の勘違いだったのか。

 しかし、セフィーリアの表情には微塵の冗談さも見てとれない。彼女は本気だった。マジかよ。


「神の力って、何だと思う?」


「う? えっと……ちょーまりょく、とか?」


 超魔力。

 確かにそうなるだろう。

 たとえば自然神ならば、自らが司る領域において、その領域から無尽蔵に魔力の供給を受けることができる。森の神であるならば森の規模に応じた魔力を、まるで自らの物であるかのように自由自在に扱うことができる。それこそが神の権能だ。


 しかし、


「違うわ」


 セフィーリアちゃんは否定した。

 そうではないのだと。


「森から魔力を引き出せるのは、神の権能ではない。それはハイエルフとしての能力よ」


「う?」


『ハイエルフとしての能力ってことは、森神としての権能ってことなんじゃないのか?』


 首を傾げるセフィに代わって質問するが、それに対する答えも否だった。


「ハイエルフと森神、今では両者は混同されているけれど、厳密には別の存在よ。森の魔力を扱うのはハイエルフの能力に過ぎない」


『じゃあ、神の力ってのは?』


 それ以外に、セフィが神らしき力を使ったところは見ていない。

 まだ他に、何かあるのか。

 答えはすぐにもたらされた。


「――【神性値】、あるいは神力、そう呼ばれる力で行使する、ありとあらゆる奇跡。それを自由自在に行使する。それこそが神の力よ」


【神性値】――それはステータスの最後に記載される項目だ。

 それを利用して行う奇跡が神の力?

 だとしたら……俺は震えた。


 俺は今まで進化の時にも分霊を生み出す時にも眷属を生み出す時にも【神性値】を消費していた。

 ということは、だ。


『俺ってば、神、だったのか……!?』


 アイ アム ゴッド


「いえ、違うわ」


『え!? 違うの!?』


「違うわ」


 違うらしい。

 いや別に神になりたいとか思ったことはないけど、そうきっぱりと否定されると、ねぇ?


『でも、【神性値】が使えれば神なんだろ?』


「【神性値】が自由自在に使えるのが、神、よ。ユグ、あなた、【神性値】で自由に火を灯したりとか、できないでしょう?」


『む、まあ……そうだな』


 俺が俺の意思で【神性値】を使えるのは分霊と眷属を生み出す時だけだ。どちらもスキルの機能に依る。


「神の位階に達すると、【神性値】で様々な奇跡を起こせるようになるの。ユグのように神の位階に達していなくともスキルの効果で限定的に【神性値】を使えることもあるけど、それは神の力ではないわ」


『あ、はい……』


 どうやら俺は神ではなかったらしい。知ってた。


「神の位階にあるセフィちゃんなら、自由に【神性値】を使えるはずだわ。それこそが神の権能なのだから」


「ん!」


「奇跡に応じた【神性値】さえあるのなら、神術に不可能はない。かつてはこの世界に新しい法則を生み出した神もいた……」


 新しい法則?

 いまいち想像し難いが、それが本当だとしたら確かに凄まじい力だろう。

 海を割るとか火山を噴火させるとか、あるいは大陸を沈ませるとか、そういった単なる物理的な現象を生み出すよりも、理解し難いという意味で神らしくて圧倒的な力だ。


 そんな力が、セフィにも?


「これからセフィちゃんに神の力の使い方を、教えてあげる」


 セフィーリアは神らしい、厳めしい表情でセフィに告げた。


「ここは私たちの意識を繋いで作った精神世界で、現実とは時間の概念が異なる。けれど、あまり悠長にはできないわ。だから頑張って覚えて、神の力で道を切り拓きなさい」


「ん! おねがいしますっ!」


 おそらくセフィーリアの本意ではないのだろう。それでも仕方ないと道を示してくれた。無謀な戦いに勝利するための、僅かな道筋を。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんか色々出来るみたく言ってるけど、 セフィーリア自身、”森”での戦闘で負けてるよね?
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] 唐突な特訓話!
[一言] そんな程度で勝てるならセフィーリアも生きてるんじゃ無いのかね?
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