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第八話 セフィのおうちと雑草の名前、あと称号


 ●○●



 俺は大勢のエルフたちに林檎を振る舞った。

 その味は森で暮らすエルフたちにとっても驚愕の美味しさだったようで、言葉は分からないけれど絶賛している様子なのは、彼らの表情や反応を見ていれば理解できた。


 一通りの人々に林檎を振る舞い終えると、セフィが青年エルフ二人の前に立って胸を張る。

 その顔は「どうだ!」と言わんばかりのドヤ顔だ。


「~~~~?」


「~~、~~~~」


 セフィが何事かを言うと、青年エルフ二人は顔を見合わせ、どこか諦めたように頷いた。

 それを見てセフィは歓声を上げ、ぴょんぴょんと跳び回り全身で嬉しさを表現する。

 喜びの舞を披露し終えたセフィに、俺は事の成り行きを尋ねた。


 ――セフィ、結局どうなったんだ? 俺はここに住んで良いのか?


『うん! セフィといっしょならすんでいいって!』


 ――おお! やったぜ!


 天敵の類いはあまりいないとはいえ、やはり魔物どもが跳梁跋扈する森の中は危険だ。

 何かの間違いや事故、ゴブリンとかのイタズラや思いつきなどで害される可能性は否定できなかった。それゆえに安全な里の中で暮らせるのは実に嬉しい。

 この里の中は土も良いし、セフィの傍なら退屈することもなさそうだ。


 ――そんじゃまあ、これからよろしくな。


『うん!』


 ――で、俺はどこに居れば良いんだ? ここにこのまま植わってれば良いのか?


 人間のように雨風が凌げる家は必要ないとはいえ、はたして何処で暮らせば良いのか。畑とか?


『せいれいさんはセフィといっしょにくらすの』


 しかしセフィは否定した。

 はて? 一緒に暮らすとは言っても、長時間地面から根っこを抜いているのは植物的に危険だ。じわじわと生命力が減っていくのであるから。

 どういう事かと疑問を浮かべていると、


『もぉー! セフィのおうちにいくって、さいしょにいったでしょ!』


 ぷんすか、とセフィが怒りながら言う。


 ――お、おお? ……そういえば、そんな事も言ってたな。


 どこに行くのかと聞いた俺に「セフィのおうち!」と答えたのだったな。

 単にエルフの里に行くという意味で、まさか一緒の家で暮らす事になるとは考えていなかったが……。


 ――植え木鉢とか、用意してね?


 不思議と嫌ではない俺がいる。

 むしろ気分は高揚しているかもしれない。


『うん、いいよ!』


 セフィは嬉しそうに頷いた。



 ●○●



『このうえに、セフィのおうちある』


 広場で集まったエルフたちが解散した後、俺はセフィに抱えられてとある大木の根本までやって来た。

 その大木はエルフの里の中でも中心付近にある、一等巨大な大木だ。


 ――この上にかぁー……。


 俺はちょっと呆然としながらも、セフィが指し示した場所を見上げる。

 遥か頭上、大木から伸びる枝の上に器用に建てられた家が確かにあった。

 しかし、容易に登れるような高さではなかった。少なくとも俺には無理だ。


 ――どうやってあそこまで登るんだ?


 俺には無理だが、かといって幼女なセフィに可能な様にも思えない。

 しかし、セフィは自信満々な様子で教えてくれた。


『このつたをつかう。これにまりょくをむんってながすと、うえまでつれてってくれる』


 次に指差されたのは、大木の枝から地面まで垂れ下がる一本の蔦だ。

 ずいぶんと太く丈夫そうな蔦で、実はここに来た時から気になってはいた。まさかあれをロープ代わりに登るのではないかと。その場合、難易度的には大木の幹を登るのと同じくらい難しいと思うのだが、どうやら自分で登る必要はないらしい。


『せいれいさんはセフィにくっついてて』


 ――お、おう。こうか……?


 俺はセフィの細腕に自分の根を巻き付けて体を固定した。


『じゃあいくよ?』


 セフィは俺の返事も待たずに、蔦を両手で握りしめる。

『魔力感知』がセフィから蔦へ向かって少量の魔力が流れ出すのを知覚する。

 と――、


 ――お、おお!?


 蔦がひとりでに動き出す。

 たぶんどこかに巻き上がっているのだと思うが、蔦を掴んだセフィごと、上へ上へと引き上げられていく。

 浮かび上がって来たイメージとはだいぶ異なるが、これは「エレベーター」なる物に似ているな。いや、安全性とかの面では全然比べ物にもならないのだが。

 高所恐怖症の人とか、これ使うの絶対無理だよね。


 ――おー……中々に、良い見晴らしじゃないか。


 しかし幸い、俺は高所恐怖症ではなかったようだ。

 森の中から一本だけ突き抜けた高さを持つ大木である。上へ昇っていくと自然、木々の梢が織り成す緑の絨毯を眼下に望む光景へと変わる。

 エルフたちの樹上都市的な建物とも合わさって、それは随分と幻想的な光景に見えた。


『ついた』


 しばし美しい風景に見入っていると、目的の場所に到着したらしい。

 そこには大木の枝と枝の間に床となる板を渡して、その上に建てられたこじんまりとしているが立派な造りの家があった。

 ドアや窓の類いはないらしい。完全に開けっぱなしの吹き抜けである。防犯の概念とかなさそう。


 風が強い日とか、どうするのかと思ったが、どうやら木戸的な物がすぐそばに置いてあったから、これで戸締まりをするのではなかろうか。

 まあ、あまり使われている様子はないが。


『ふふーん!』


 ――ん?


 ふと見れば、セフィが家の前に立って胸を張っている。

 それから両手で家をバッと示すように広げると、


『ここが、セフィのおうちです』


 ドヤ顔で言った。

 セフィが何を求めているのか、精神的には遥かに大人である俺には手に取るようにわかる。


 ――おお、立派な家だな。すごいな。


『でしょー! セフィがつくった!』


 ――またかよッ!?


 果たしてハイエルフとはいえ、幼女にこの家を建築する事ができるのか。

 ハイエルフの魔法(いや見たこともないけど)があれば、不可能ではないのか……?

 一点の曇りもないセフィのドヤ顔を見ていると、もしかして本当に? と思えてくる。

 たぶん補佐的な事を魔法でしたのだとは思うが……真実は闇の中である。


 ともかく、俺たちはセフィの家の中に入っていく。


『なにもないところですが、どうぞ、くつろいでください』


 ――これはご丁寧に、どうも。


 中に入ったところで、部屋の中央辺りに置かれたテーブルの上に俺は乗せられた。

 家の中を見渡すと、タペストリー的な布が壁面に飾られ、床には毛皮の絨毯などが敷かれている。壁際にはタンス的な衣装入れがあり、あるいは観葉植物なのか何なのか、鉢植えに入れられた何かの植物が多数。窓際にはおそらくセフィ用のベッドが一つだけ置かれていた。

 だが、一番不思議なのは天井からぶら下げられた木製の「檻」だ。

 いや、あるいは木質化した蔦で編まれた「鳥籠」だろうか。

 ともかくその籠の中には鳥ではなく緑色のふさふさした丸い物体が置かれ、仄かな光を放っているのである。

 察するに、照明の代わりだとは思う。


 ――セフィ、あれ、何だ?


『んー? あれはねー、マリモっていうんだよ。ひかるべんりなやつ』


 ――へー。


 マリモか。

 あれを見た瞬間に「マリモ」という単語とイメージが浮かび上がってきたから、前の俺も知っている物のようだ。ただ……マリモって光ったっけ?

 まあ、実際光っているんだから、それが事実なのであろう。マリモが光らないというのは前の俺の記憶違いなのだろう。


 ――しかし……。


 と、俺は少し言い澱んだ。

 家の中は壁などで仕切られてはおらず、部屋はここ一つだけだ。室内は綺麗で、住むのに困るようではない。だが、室内にあるベッドも家具も一人分だけで、どこか閑散とした印象を受ける。


 ――セフィは、ここに一人で住んでるのか?


 どう見ても他に住人がいるようには見えない。


『うん……』


 頷いたセフィの表情は、どこか寂しげだった。

 常に明るい印象しかないその顔に、悲しげな表情が宿るのを、俺は見ていたくなかった。


 ――そっか。なら、今日からは二人暮らしだな。


『ふえ?』


 ――セフィと俺の、二人で住むことになるんだろ? これからよろしくな!


 枝の一本をセフィに向かって差し出しながら言えば、


『――うんっ!』


 セフィはパッと笑って、握手するように俺の枝を握った。


『よろしくね! せいれいさん――あ!』


 ――どうした?


 言葉の途中でセフィが声を上げる。

 何事かと問えば、


『そういえば、セフィ、せいれいさんのなまえしらない』


 という事に思い至ったらしい。

 しかし、名前か。すでに何度も確認しているが、ステータスに俺の名前は載っていなかったし、かといって前の俺の名前も思い出せない。

 なので今の俺は名無しなのだ。


 ――名前なー。名前ないんだよな、実は。


『そなの?』


 ――おう。まあ、この際だし、俺もそろそろ自分の名前を決めるか。


 今までは森で一人(いや、一株?)だったから必要なかったが、これからはエルフの里で暮らす事になるのだ。そろそろ名前が必要な時だろう。


 ――なんて名前にするか……ここは俺に相応しい偉大で格好いい名前を……。


 などと考えていると、


『じゃあ、セフィがつけてあげるね!』


 ――え? いや、それはちょっと……。


 幼女のネーミングセンスに期待など出来るであろうか? いや、できまい。

 ネーミングセンスとはそれなりに知識の積み重ねがあってこそ輝くものであろう。「くさ」とか「わらわらわら」とか適当過ぎる名前を付けられたら末代までの恥である。

 だが、セフィは俺の言葉なんて聞いちゃいなかった。


『ユグ! きょうからそれがせいれいさんのなまえね!』


 決定してしまった!


 ――ユグ、か……。まあ、思ったよりマトモだったし、それで良いか。


 実のところ、それを聞いた瞬間に妙にしっくりきていた俺がいたのも事実だった。


『ふふ~ん、よろしくね、ユグ!』


 ――ああ、よろしくな、セフィ。


 こうして俺とセフィは共に暮らすことになったのである。


 ちなみに、後でステータスを確認してみると、きちんと名前が「ユグ」になっていた。



【固有名称】『ユグ』

【種族】ウォーキングウィード

【レベル】16/20

【生命力】48/48

【魔力】32/32

【スキル】『光合成』『魔力感知』『エナジードレイン』『地下茎生成』『種子生成』

【属性】地

【称号】『考える草』『賢者』『ハイエルフの友』

【神性値】1



【称号】『ハイエルフの友』

【解説】ハイエルフから親愛の情を向けられ、または向けた者の証。それはエルフ族にとっても信頼に値する称号である。森の中で行動しやすくなり、植物魔法の効果が少しだけ上昇する。あなたは森の民の一員となった。

【効果】エルフ族から好感度上昇。森林行動補正・小。植物魔法効果上昇・小。




セフィは一人で暮らしてたけど、幼女なのでお世話係がちゃんといます。

あとで登場する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユグドラシルのユグですか。 立派な世界樹目指して成長してほしいですね。
[良い点] いいね 10点 [気になる点] いいね 10点 [一言] いいね 10点 満点 好き!
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