第八十八話 迷宮攻略失敗と
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とりあえず損壊激しい狂戦士ゴーレムたちを俺の本体の中に「格納」した。
スキル『魂無キ狂戦士ノ館』で「格納」することで、俺の本体から【魔力】やら【生命力】やらを補充されて、損傷した部位は修復されることだろう。
今はなぜか右腕を失っているヘリアンにしても同じことである。
が、その前にヘリアンには色々と事情を聞かねばならないのだが……。
『セフィ、もう泣き止めよ。別にさっきの光弾で負傷したわけじゃないんだし……』
「ぅう、うん……」
自分が放った攻撃でヘリアンが派手に負傷したと勘違いしたセフィを落ち着かせる。
狂戦士たちを格納している間にブリュンヒルドたちが事情を説明し、自分のせいではないことは理解したらしい。セフィの様子もだいぶ落ち着いてきた。
しかし、それでもヘリアンの凄惨な姿にはショックを受けているようだ。ブリュンヒルドに抱き上げられつつも、その腕の中でぐずついている。
『で、その様子だと何時ものドラゴンが相手ってわけじゃなさそうだな?』
セフィはブリュンヒルドたちに任せておいて、俺はヘリアンと会話する。
実のところ、こうしてヘリアンたちが迷宮から帰還して来るのは初めてじゃない。何しろ夢の中でセフィーリアちゃんと出会って迷宮の攻略を開始してから、すでに数ヵ月が経っている。いくら食料も水も必要としないヘリアンたちと言えども、ずっと戦い続けることなど出来るはずもない。
帰って来る度に迷宮の中がどうなっているのか報告は受けていた。
隠れ里から転移したすぐ先の層、迷宮ヒミンビョルグ第二階層が広大な草原であること。そこに文字通り「湧いて」くるのが巨大なドラゴンであることなど。そして戦利品である巨大な魔石も預かっているし、迷宮攻略の進捗具合も聞いていた。
その様子から、迷宮の難易度がどれほどのものか聞き知ってはいた。
ヘリアンたちは帰還の度に消耗した様子ではあったが、それにしてもここまで酷い損傷を受けているのは初めての事だ。
『まあな。いつものドラゴンじゃないっつうか、ボスドラゴン、みたいな感じだ』
いつもはキャラ付けのつもりなのか、気障ったらしい笑い声を上げるヘリアンも、さすがに疲れているのかずっと素のしゃべり方だ。
『ボスドラゴンねぇ……っていうと、第二階層突破したのか?』
第二階層、つまりは実質的な最初の階層のことである。
迷宮が何階層あるのかは知らないが、たった一階層を攻略するのにここまで時間が掛かるのだ。おそらく、そう何階層もありはしないだろう――という願望がある。
『…………』
『ん? おい?』
『…………ふぅ』
しかし、ヘリアンは俺の質問になかなか答えなかった。あまつさえ深い深ーいため息を吐くのだ。
嫌な予感が湧き上がる。
ヘリアンは諦めたように首を振ると、まるで開き直ったような口調で、
『ああそうだよ、攻略できなかったよ? それが何か?』
いやもう開き直っていた。
『いやあれ無理だって。俺もさ、だいぶレベル上がって滅茶苦茶強くなったと思ってましたよ? 正直俺なら何とかなると思ってましたよ? でもね、ボスだからっていきなり強くなり過ぎだと思うんですよ? バランス調整狂ってると思うんですよ?』
『あ、そうですか』
だいぶキテいるようだ。
でも、判断材料とするために、これだけでは聞いておきたい。
『ところで、戦ってみてどうだった?』
『たた、かう……? いや、開幕ブレスで右腕消し飛んだので撤退しましたが、何か?』
『あ、そうですか……』
ふむ。
ヘリアンの返答にテキトーに相槌を打ちながらも、これは少々真剣に考えねばならない問題だった。
セフィーリアちゃんの忠告もあり迷宮の攻略を開始したわけだが、一向に攻略は進んでいない。
いや、ボスらしきドラゴンと遭遇したらしいから、遅々とは進んでいるはずだが。
ヘリアンたちの戦闘能力が低いわけではないはずだ。
ブリュンヒルドたちヴァルキリー三姉妹に加えて、200体近くの狂戦士たち。そしてヘリアンの実力を認めるのは何だか業腹だが、迷宮で魔物を倒してレベルも上がった現在、単純な戦闘能力ならばグラムよりも上かもしれない。
そんなヘリアンたちでも一階層さえ攻略できないとなると、迷宮の踏破など夢のまた夢だ。
だとするなら、セフィーリアちゃんはどんなつもりで迷宮を攻略するよう提案したのか。
俺たちならば迷宮を攻略できると思った?
それとも、あの迷宮の難易度を知らなかった?
もしくは、知っていたが無理をしてでも攻略するべきだと思った?
いや、そもそも……あのセフィーリアちゃんが俺の単なる夢という可能性もあるのか?
なぜか大して疑問に思うこともなく、セフィーリアちゃんの言葉を信じていたが……。
『ふぅむ……迷宮攻略については、ちょっと考える必要があるな。場合によっちゃあ中止するかもしれん。ともかく、とりあえず今は休んでてくれ』
『ああ、そうさせてもらう。まあ、俺ならいずれ攻略できると思うけどな』
ヘリアンは負け惜しみのようにそう言いつつも、草臥れた様子で俺の本体の幹に歩いて行くと、波紋のような揺らめきを生み出して「格納」されていった。
『ブリュンヒルドたちもご苦労だったな。ありがとう。今日はゆっくり休んでくれ』
「主様、ありがとうございます。そうさせていただきますわ」
「ん。さすがに疲れた」
「アタシはまだまだいけるけどなー」
セフィを降ろしたブリュンヒルドたちも、それぞれが自身の本体である大木に帰って行った。
その後、目を腫らしたセフィが俺の傍に寄って来て、むむっと気合いを入れるように右手を挙げる。
「ユグ、きょうはもういっかいみんなをおうえんする!」
どうやら傷ついた皆を見て、思うところがあったらしい。「おうえん」するのも回復を促進するためだろう。
『……そっか。良し、んじゃあ行くか!』
そういうわけで、このあと滅茶苦茶「おうえん」した。




