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第七話 全員俺の(果物で)虜にしてやるぜ、という話

更新遅れてすみませんm(。≧Д≦。)m

爆睡してました。


 ●○●



 何やらセフィは全ての責任を俺に押しつけようと画策していたようだが、そうは問屋が卸さない。

 というか、さすがに青年エルフ二人は良識ある大人であったらしく、セフィの嘘など端からお見通しのようだ。

 だが、セフィは推定エルフ語で何事かを捲し立て、やはり何事かを言い繕う事に成功してしまったようだ。

 青年エルフたちは疲労感たっぷりにため息を吐き、俺を抱えたままエルフの里に向かって歩き出すセフィの両側を、護衛するように、あるいは脱走防止のためにだろうか……? ともかく付き従うように歩き出す。


 ――セフィさんセフィさん。


『ん? どしたの?』


 言語の壁によって展開についていけない俺は、セフィに事情を聞こうと語りかけるが、なんとたった今まで叱られていたはずのセフィさんは、もうすでにけろりとしている。メンタル強ぇなおい。


 ――どうなったの? 叱られた?


『だいじょぶ。これから、セフィのむじつをしょーめいする!』


 ふんすっ、と勢い込んで言うセフィだが、いやあなた、無実じゃありませんからね?


 ――どうやって証明するつもりだよ?


『せいれいさんがみんなのまえでくだものつくる。そーすれば、せいれいさんがせいれいさんだって、わかる』


 ……はて?

 俺がたとえ精霊だからといって、セフィが勝手に脱走した事実は変えられないと思うのだが。

 青年エルフたちにも何か考えがあるのか、それともセフィを叱ることを諦めただけなのか。

 もしかしたら、俺=精霊という事実が証明できれば、俺に呼ばれたという嘘も本当にできる、ということなのかもしれない。

 随分と穴だらけな論理だと思ったが、次のセフィの一言ですべてがどうでも良くなった。


『せいれいさんなら、ここにいっしょにすんでいいって。ちがかったらもりにすててこいっていわれた』


 ――よっしゃ、俺に任せなさい。全力で美味しい果物を作ってしんぜよう。


 今さら森に戻れとか酷いじゃんか。

 エルフの里の中なら魔物もいないだろうし安全だろうし、俺もここで暮らしたい。

 となれば、やる事は決まっている。俺のあまぁ~い果物でエルフたちを魅了してやろう。


『ん。たよりにしてるぜ、あいぼー』


 ――お、おう。……どこでそんな言葉覚えたんだよ。


 そうして俺たちはエルフの里の中へ入っていくわけだが。

 その前に。


 ――ヘイ、そこのエルフの青年たち、俺ってば草の精霊だから、これからよろしくな!


 と、思念を飛ばしてみる。

 しかし、青年エルフたちは微塵も反応を示さなかった。


 ――…………。


『どしたの?』


 無視されて凹んだ俺の様子に気づいたのか、セフィが首を傾げる。


 ――いや、今エルフの青年たちに話しかけてみたんだが、俺の声が聞こえていないみたいなんだ。


 と説明すれば、簡潔な回答が返ってきた。


『せいれいさんのこえがきこえるのは、このさとじゃセフィとちょーろーだけだよ?』


 ――ぬ? そうなのか?


『ん。セフィはとくべつ。ちょーろーはとしのこうっていってた』


 長老は年の功?

 それは良くわからんが、どうやらセフィが特別な存在らしいのはわかった。そういえばハイエルフだって言ってたもんな。


 ――この里にセフィ以外のハイエルフはいないのか? 長老はハイエルフなのか?


『ちょーろーはハイエルフちがう。セフィだけ』


 どうやら他にハイエルフはいないようだが、両親とかはどうしたんだろうか?

 ハイエルフが突然変異的にエルフの中から生まれるとかなら良いが、デリケートな事情があるのかもしれない。

 聞くにしても、もう少し落ち着いてからの方が良いだろうな。



 ●○●



 で。

 俺たちは茨の壁に出来たアーチ状の出入り口を潜った。

 その先にはエルフの里が広がっていたわけだが、意外(?)なことに、エルフたちの住居は全て木の上に建てられているわけではないようだった。

 どうやら里の外からでは茨の壁に遮られて見えなかったが、ちゃんと地面の上にも家が建っていた。

 全体的に木の上の建物よりも大きめな造りをしている。


 そんな里の中を、入り口から真っ直ぐに伸びる道を奥へ奥へと進んで行くと、広場のような拓けた空間に出た。

「のような」も何も、広場そのものであるのかもしれないが。

 ここまで来たところで、セフィがようやく俺を地面の上に降ろす。


『ここでみんなにくだものつくる。……セフィがあなほってあげようか?』


 どうやら俺をここに植えるつもりらしい。

 だが、穴を掘ってもらう必要はなかった。


 ――いや、大丈夫だ。


 言うと、俺はずぶずぶと地面に根を沈めていった。

 そしてさっそく『エナジードレイン』を発動してみると、なんだか森の中よりも多くのエネルギーを吸収できた。栄養的なものがこちらの方が多いのだろうか。

 だが、さすがにセフィにあげたような果物を作るとなると、地下茎の蓄えが欲しいところだ。

 セフィに引っこ抜かれた時に、地下茎全部置いて来ちゃったんだよね。


 ――セフィ……って、うお!?


 セフィに肥料的な物はないかと聞こうとして、俺は少しぎょっとした。

 いつの間に集まったのか、いまや広場には大勢のエルフたちが大集合していたのだ。

 俺とセフィを囲むように眺めるエルフたちの前で、セフィは何やらエルフ語で語りかけている。

 その手には食べかけの林檎が掲げられ、それを指差しながら何事かを説明している。集まったエルフたちは何だ何だと不思議そうにしながらも、どこか面白そうな表情でセフィの演説を見守っていた。

 そして地味に青年エルフの二人は、俺の方を見ながらギョッとした顔をしている。どうやら根を沈める時に動いた俺を見て驚いたようだ。もしかしたら、本当にただの雑草だと思われていたのかもしれない。


 ――セフィ。


 まあ、それはともかくとして。

 俺はセフィに肥料を要求すべく声をかける。


『どしたの?』


 ――果物を作るのは良いが、栄養が足りない。何か肥料くれ。


『ひりょー? ひりょーってなにあげればいいの? セフィのおうえん?』


 たぶんそれは肥料ではない。


 ――そうだな……魔石って言ってわかるか? あとは魔物の捨てるところの肉とか骨とかあれば良いんだが。


 今さらだが、ゴブリンとか角ウサギとかが何と呼ばれているのかは不明なのだ。魔物ではなく単なる動物と呼ばれているかもしれないし、魔石も結石とか思われている可能性もある。


『ませき、セフィ、わかる。いしころ』


 ――お、わかるか。石ころではないけど、たぶんそれだ。


『わかった。もってきてもらう』


 どうやら魔石で通じるようだ。

 セフィは頷くと、集まったエルフたちに恐らく魔石か魔物の肉を持って来てもらうよう説明した。

 それを聞いて一人二人のエルフたちがこの場を離れ、


『いまもってくるって』


 しばらくすると戻って来た。

 一人が小さな魔石を幾つか手に持ち、一人が木製の桶を持ってきた。

 エルフたちはセフィに促され、それらを俺の目の前に置く。魔石はともかくとして、桶の中身は――、


 ――うげ。グロいな……。


 大量の血の中に動物か魔物かは知らないが、内臓や腸が浮いていた。

 どうやらエルフが肉を食べないというのは間違った知識であったらしい。おそらくは狩った獲物を解体した時に出た、血や内臓を持ってきたのだろう。


『これで、くだものつくれる?』


 ――ん、まあ、これだけあれば何個か作れるだろ。


 まずは目の前に置かれた魔石へと、俺は引き抜いた根っこの一部をわさわさと動かして触れる。それから『エナジードレイン』を発動すると、大量の魔力を吸収することができた。

 一つ一つの魔石は角ウサギくらいの大きさだが、全部で四つあったのでゴブリンの魔石一つよりも魔力の総量は多いだろう。


 次に桶の中身の血と内臓だ。

 桶の中に根っこの一部を入れ、同じく『エナジードレイン』を発動する。

 みるみる内に血液を吸い上げ、内臓は干からび縮んでいく。

 その様子を見ていたエルフたちが、どこか(おのの)くような声を上げた。見ればひきつった顔を浮かべている者が多数。

 なぜか引いているようだが、俺の果物を食べさせれば心の壁など一撃で粉砕できるはずだ。


 今の魔石と血と内臓で、失った地下茎も四つほど新たに作り出すことができた。

 地下茎一つには俺一株分の魔力と生命力が蓄えられているから、糖度マシマシ林檎も4個は作れるだろう。

 では。


 ――よし、いくぞ!


 宣言し、『種子生成』を発動して枝の先に真っ赤でつやつやな林檎を生み出す。

 あっという間に実った林檎に、集まったエルフたちは皆が驚きの表情を浮かべていた。「おお~!」と、これだけは聞き取れるどよめきが漏れる。


 ――セフィ、この林檎なら4個まで作れるからな。もっと欲しかったら、もっと肥料を持って来てくれ。


『ん。わかった。たべさせていい?』


 ――良いよ。


 実った林檎をセフィに渡す。

 セフィはそれを、まずは青年エルフたちに食べさせる事にしたようだ。

 受け取った青年エルフはひきつった顔だ。俺の林檎が食べられないってのか? 失礼な奴である。

 しかし、義務感に駆られたのか何なのかは知らないが、意を決した表情を浮かべると青年エルフは俺の林檎に恐る恐る口をつけた。

 そして――青年エルフの両目がカッと見開かれる。


「~、~~ッ!!」


 何と言ったのかは分からないが、悪い雰囲気ではなかった。

 青年エルフはそれまで躊躇っていたのが嘘のように、勢い良く林檎にむしゃぶりついていく。あっという間に林檎を食べ終えると、一言。


「~~~」


『ちょーおいしーって』


 なぜか自分が得意気になったセフィが通訳してくれた。


 ――ふふん。そうだろうそうだろう!


『みんなもたべたいって。せいれいさん、もっとつくって!』


 ――良いだろう。だけど大量に作るには肥料が足りないぞ?


 くっくっくっ、この里のエルフ全員、俺なしじゃいられない体にしてやろう――などと思いつつ答えれば、セフィが周囲のエルフたちに何事かを説明。数人が一気に走り出して行った。

 たぶん魔石や肥料になりそうな物を取って来るんだろう。

 その間に、俺はとりあえず林檎を3個生み出してセフィに渡してやる。


『ありがとー!』


 受け取ったセフィがエルフたちにそれを渡していく。相手は青年エルフその2と、魔石と桶を持ってきたエルフだ。彼らはシャクリと林檎を食べ――、


「「「~~~っ!!」」」


 全員が何事かを叫ぶ。

 その瞬間、周囲で見ていたさらに何人かのエルフたちが急いで何処かへ走り出して行った。

 たぶん、自分たちが確実に食べるために肥料を取りに行ったのだろう。肥料の提供者が優先して食べられるのは当然のことだからな。


 そして、その俺の予想はどうやら当たりであったようで、最初に走り出して行ったエルフたちがそれぞれに魔石や骨や内臓などなど、あるいは他に肥料になりそうな物などを持って戻って来た。

 俺はそれらを『エナジードレイン』で吸収し、片っ端から林檎へと変えていく。

 本来なら手間賃としてエネルギーの一部を回収したいところだが、今はエルフたちを籠絡――もとい、彼らに受け入れられることが先決だ。

 なので大盤振る舞いして林檎を次々と作り出していく。


 そうしてその日、エルフの里に林檎旋風が吹き荒れる事になったのであった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 変な魔物認定されないでよかったね
[良い点] 面白い。 栄養物を貢がれレベルを上げて果物を貢ぐ。 共生ですね。
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