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第七十八話 エルフは農家の才能がありますか?


 ●○●



 旧エルフの里を中心にして、ぐるりと円形に広がる畑。

 その南側半分ほどはヴァラス大樹海の森と接している。

 その森に近い外縁部の畑にて、害虫の被害があったと聞いて俺とセフィ、メープルは足を運んだ。

 そこで育てているのは主に香辛料になる作物で、ニンニクや生姜、トウガラシ、胡椒、パプリカ、ハーブ類など様々だ。


 外縁部には森の木々が見える。

 少し前まではここも森だったのだが、俺の『エナジードレイン』で森の木々を枯らし、畑用に開拓した場所になる。

 そんな畑のそこかしこではエルフたちが働いている様子が見えた。


「あれ、おもしろそう! セフィもやってみたい!」


『いやー、セフィの体格じゃ無理じゃないか? たぶんだけど重いぞ』


 セフィが瞳を輝かせて見つめる先には、畑で働くエルフたち――正確には、彼らが背負い、持っている物に注目していた。

 それは円柱状のタンクのようなもので、タンクの上部からは何か取っ手のような物とホースのような物が伸びていた。

 エルフたちはホースの先端の方を持ち、作物の方へと向けている。ホースの先端からは何か液体のような物が噴霧されていた。


『おーい! 何してるんだ?』


「姫様、精霊様」


 こちらに気づいた作業中の男性エルフが振り向く。

 どうでも良いけど麦わら帽子を被って畑仕事をするエルフたちの姿には違和感を禁じ得ないな。いや、基本若くて美形だからね。首もとに手拭いを巻いた農作業ファッションも、やけに様になっているけど。


「なにしてるの? みずやり? セフィもてつだってあげようか?」


 セフィは興味津々に突っ込んでいく。


「いえ、これは水をやってるわけではないんですよ、姫様。それから姫様には少し重いかと」


「そっかー」


『殺虫剤でも撒いてるのか?』


 なぜか自然とそんな言葉が出てきた。

 しかし、男性エルフはこれにも首を振る。


「いえ、除虫剤は畑に撒いてますけど、殺虫剤は使ってません」


『んじゃ、それは?』


「これはですね――」


 そう言うと、男性エルフはおもむろに背中のタンクを地面に下ろす。

 それから上部の取っ手を握ると、それを上下し始めた。どうやら取っ手には棒がタンクと繋がっていて、上下に動かせるようになっているらしい。


「こうやって何度も押し込むと、ドワーフたちの話では内部に圧力が溜まっていって――」


 男性エルフが再びタンクを背負い、今度はタンクから伸びるホースを持つ。


「あとはこのコックを捻ると、タンクの中に入れた液体を噴霧できるんです」


 ホースの先端付近にはコックが付いていて、それを捻ると先端から何かの液体が噴霧された。


「おおー! すごい、これは、ちょーぎじゅつのけっしょう……」


 セフィはタンク――噴霧器に見入っている。

 超技術とまでは思わないが、確かに便利な代物だ。以前のエルフの里では、このようなオーパーツは見たことがない。というかエルフの金属加工技術では作れないはずだ。


『もしかして、ドワーフたちが作ったのか?』


「はい、如雨露ではちょっと効率が悪くて、このような物が欲しいと説明したら作ってくれたんですよ」


『ほおー』


 確かに精密な細工が必要そうな道具だし、ドワーフでなければ作るのは難しそうだ。

 しかしそれよりも、なかなか仲良そうに暮らしているようで何よりである。実際に暮らしてみれば、互いの足りないところを補えているようだし、相性は良いんじゃないか?

 長老などの老人連中が頑固だっただけで、今ではそれもエムブラ先生の説教(?)で改心(?)しているしな。


『んで、撒いてるのは結局何なんだ?』


「これは水と粘木の樹液を混ぜたものですね。こうやって噴霧すると、膜ができるんですよ」


 青々と繁ったハーブの葉っぱに、男性エルフは噴霧する。

 すると葉っぱに液体が満遍なくかかり、すぐに透明な膜のようなものに変化した。

 ちなみに粘木とはそのまま粘液みたいな樹液を出す木の事で、ヴァラス大樹海には結構どこにでも生えているらしい。


『お? もしかして、この葉っぱにいる小さい奴、虫か?』


「はい」


 男性が液体を噴霧した葉っぱには、無数の小さな粒々が付着していた。

 それは良く観察してみなければ分からないほどに小さいが、虫のようだ。


『他のとこで虫の被害にあってるって聞いたんだが、こいつの事か?』


「そうですね。こいつが大量にやって来て作物の葉を食い荒らしてたんです」


 どうやら当たりらしい。

 虫の被害というから、虫(魔物)による被害を想像してたのだが、そうではなさそうで一安心だ。いや、こいつの被害も馬鹿にはならなかったのだろうが、人に危害を加えるかもしれない虫(魔物)よりはマシだろう。作物はまた作れば良いし、餓えるほどの被害でもない。


『こいつの被害はもう大丈夫なのか?』


「ええ。この噴霧器で液体をかけて虫を膜で覆うと、呼吸できなくなって窒息死するんです。殺虫剤とは違って人体に影響はないので、この方法で虫を駆除してるんですよ」


 にっこりと笑って男性エルフは答えた。

 しかし、虫を窒息させて駆除するとは、こういうのも農家――じゃなかった、エルフの知恵なのかな?


『そいつは良かった。……他に何か問題はないか? 森から魔物が出て来るとか』


「いえ、特には。以前は魔物が迷いこんで来たこともありますが、最近では全くですね」


 どうやら他に目立った問題は起きていないようだ。


「ところで姫様、何か食べてみますか? 今食べられるのは……パプリカなどがありますが」


「けっこうです!」


 生のパプリカが好きという子供は少ないのではあるまいか。

 セフィも特に好きではないようで、速攻で拒否していた。


「そうですか……」


 残念そうにする男性エルフを置いて、俺たちは次の場所に移動する。



 ●○●



 その後も芋類を育てている畑、サトウキビ畑、果樹園などを見て回った。

 俺が【生命力】や【魔力】を溜め込んでいる地下茎とは違い、食料にする芋類にはそういった物は溜めていない。収穫までの過程はどうあれ、誰が何と言おうとただの芋だ。収穫し忘れた芋が発芽してウォーキングウィードになってしまったとしても、ただの芋なのである。


 ちなみにドワーフたちの強い要望により、芋の半分くらいは酒の原材料に回されている。

 しかしその代わり、サトウキビはほとんどが砂糖の生産に回されており、酒造りは研究用にごく少量を使うのみだ。


 一方果樹園の管理は、他の畑と比べてもかなり厳格である。

 以前、林檎や葡萄で酒を作ってはみたが、現在では果物を原材料とした酒の生産は減少傾向にある。

 というのも、果樹園はエルフたちにとっての聖域であり、ドワーフたちの我儘は許されていないからだ。エルフの主食は果物というのは少しばかり言い過ぎかもしれないが、エルフにとっての果物はそれくらい重要なものらしい。


 そんな果樹園の一画には「セフィの木」と名付けられた果樹がある。

 実っているのはセフィ一押しの果物である桃で、セフィは毎日の御勤め――つまり、俺の本体や精霊の宿る大樹たちへの「応援」の後に、果樹園に来てはこの「セフィの木」にも「応援」を施すのだ。

 いや、でもその木ってば、地下で俺の本体と繋がってるんだけどね?


「うおぉー! めっちゃおいしくなれー!!」


 しかも、かなり念入りに。

「応援」を施すだけではなく、セフィは土の状態、木の状態にも注意を配る。美味しい桃を実らせるためには、僅かな労力も惜しまない。

 そんなセフィ氏は、こう語る。


「ひとくちたべたら、だれもがしょーてんするももをつくるのが、セフィのじんせいのもくひょうなんだ」


 そう語るセフィ氏の瞳は、純粋な少年のように澄みきっており、また、燃えるような情熱を内に秘めていた……。

 いや、最強の剣士になるんじゃなかったのか?


 まあ、とにもかくにも、だ。

 サトウキビ畑ではサトウキビにむしゃぶりつき、果樹園では食べ頃の果物を頬張り、この日のセフィはご満悦だった。


 畑全体を見て回ったが、虫被害以外に大きな問題は起きていないようだ。それどころかエルフたちはいつの間に作ったのか肥料などを土に加えており、畑の状態は良くなっているほどだ。

 そのおかげか、生産効率は全体的に右肩上がりであるらしい。

 畑で働くエルフたちは、以前よりも生き生きとしているように見えた。


 そんなわけで畑の見廻りも終了だが、最後に俺たちは果樹園の一画に向かう。

 そこにあるのはもちろん樹木なのだが、「セフィの木」でも他の果樹でもない。育てているのは全く別の物である。


「このおおきさ……このまるさ……そして、このふさふさかん……」


 その木で育てている物をメープルに一つだけ取ってもらい、受け取ったセフィは真剣な表情で品質を確認している。

 その顔は農業一筋30年のベテラン農家さんにも劣らないほどの、鋭い眼差しだ。育てた作物の出来映えを厳格に判断する頑固親父のような風格を感じる。


「これなら、しゅっかしてもいい」


『おお、そうか。んじゃあ、あとで収穫するよう頼んでおくか。それで、出来映えとしてはどんな感じ?』


「すごく……いい!」


 きりっとした顔でセフィは断言する。

 その手に持っているのは、緑色のふさふさとした丸い物体。つまり、マリモである。

 とは言っても、普通(?)のマリモのように発光してはいない。

 そもそもマリモが木に生っている光景には酷い違和感を禁じ得ないのだが、それはともかくとして、このマリモはとある目的のために『変異』スキルを用いて改造したマリモであるのだ。


 その効果は、通常のマリモは長時間にわたってぼんやりと輝くのに対して、こちらの改造マリモは一定量の魔力を流すと一瞬だけ、急激かつ凄まじい光量で発光するのである。

 ちなみに使い捨てであり、その出来映えは実際に使ってみるまでは、俺やガングレリでさえ判断できない。しかしただ一人だけ、セフィだけは品質の善し悪し……つまりは発光量を判断できるのである。なぜかは分からないが。


「閃光マリモ」と名付けられたこれは、ビヴロストの商人プロンの商会へ卸す品の一つでもある。

 教国との戦争に嫌がらせとして使えないかと、作ってみた次第だ。


『畑には特に問題はないみたいだな』


「みんながんばってた。えらいとおもった」


「ふふっ、そうですね、姫様。皆さん偉いです」


 畑の見廻りは、もう良いだろう。

 あとは食品加工、つまりは酒造蔵や砂糖や香辛料の加工場で問題が発生していないか、ちょっと確認してみるか。


『――というわけで、中央の広場に行くぞ!』


「かしこまり!」


 そんなわけで俺たちは、旧エルフの里の広場目指して移動することにした。




牛乳を噴霧すると膜ができるので、それで油虫とか退治できるそうです。

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