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第七十七話 畑の様子、どうですか?


 ●○●



 エルフ組、狼人族組、グラムたちゴー君組による狩りの成果を合わせると、一日で魔石が約200個プラス100体程度の魔物の死骸を手に入れる事ができた。

 三日間で魔石にしておおよそ600個。

 その全てがワイバーン級を超えるというわけにはいかないが、それでもしばらく狩りに励めば輸出用のマジックバッグ製造のための魔石は、備蓄も含めて余裕で確保できるだろう。

 ドワーフたちも一日に幾つでも作れるというわけではなく、バッグの革の加工から縫製、金具部分の製造と何より重要なルーン文字を刻む作業で、日産3個程度が限界だそうだ。

 毎日限界まで作っても、魔石は100個程度余る計算になる。


 そして、副産物として入手した魔物の死骸にしても、運搬する狂戦士たちが忙しくなるほど大量であり、食料生産の増大を賄えるくらいの量になった。

 広大な畑の管理も分霊ガングレリが行っているし、問題はないだろう。


『いや問題だ』


「? なにがー?」


 畑の管理を任せていると言っても、現在、生産している作物は多種多様であり、その量は膨大。生産から収穫、加工の全てをガングレリだけで行えるはずもなく、食料生産には多くのエルフや狼人族に手伝ってもらっているのが現状である。

 一度、何か見落としや問題がないか、隅々まで確認しておくべきだろう。


 ちなみに、ドワーフたちは金属加工や物作りなどに専念してもらっているため、食料生産や加工には関わらせていない。

 いや、酒造を是非とも手伝いたいという熱意溢れる要望はあったのだが、奴らに手伝わせると造った端から消えていきそうな恐怖がある。そのために断固たる決意で却下したのだ。


 まあ、それはともかく、今日はちょっと畑や旧エルフの里で行われている食料加工などに問題はないか、視察することにしようと思う。


『――というわけで、セフィ、今日は畑の見廻りに行くぞ!』


「よくわかんないけど、かしこまり!」


 ずびしっと敬礼したセフィを引き連れて、俺は隠れ里の外に出ることにした。



 ●○●



 早朝の空には綺麗な青空が広がっていた。

 穏やかな風が吹き抜け、魔境と呼ばれる地だというのに黄金色の麦畑が穂を揺らす、牧歌的な風景だ。


 本来ならば畑など拓けるはずもない土地であるが、俺が常時展開している幻惑結界と、最近ようやく効果を発揮し始めたセフィの忌避結界によって、魔物が踏み込まない土地となっているから可能な事だ。

 とはいっても前いた場所とは違って、今セフィが住んでいるのはドワーフの隠れ里たる迷宮の中。日中は外で過ごす事が多いとはいえ、忌避結界の浸透の仕方は以前の里よりも劣る。

 それでも流石はハイエルフというべきか、すでに十分な効果を発揮し始めているようで、周辺の土地からは魔物たちの気配が遠ざかっていた。


 そんなわけで、畑を見渡せば身に危険を感じることもなく、穏やかに農作業に従事する人々の姿がある。

 スキルと植物魔法、それから大量の養分の合わせ技で収穫時となった麦を、狼人族たちがドワーフ製の良く切れる鎌で刈っている。

 麦畑一つとっても、なかなかに広大な面積だ。しかも育成のサイクルは自然任せの比ではないから、収穫作業だけでも忙しく、多くの人手を必要とする。

 狩りや戦闘を得意としない者でも、狼人族は基本的に体力、腕力に優れる。非戦闘員である女性や子供たちを中心として、積極的に働いてくれていた。


「みんなー! がんばってねー!」


 俺たちの姿に気づいてか、一時手を止めて顔を上げた者たちに向かって、セフィが大声で応援する。


『麦畑は問題なさそうだな』


「はい。皆さん良く働いてくれていますよ」


 しばらく観察して問題がなさそうだと口にすると、傍らに控えていたメープルが頷いた。

 メープルの役目は基本的にセフィのお世話だ。セフィいるところにメープルの姿あり――というわけで、今日の視察にも同行していた。


『米の方は大丈夫かな?』


 続いて、俺たちは稲を育てている区画に向かう。

 本来、米は湿地に生育する植物で水田で栽培するべきだが、そこは俺のスキルと植物魔法が唸る。大量の魔力と養分、それから水魔法で水を生成して与える事で、無理矢理育てていた。


 ――最初はね。


 力業で解決できるとは言っても、適した生育環境を整えてやった方が魔力その他の消耗は少なくて済む。

 ドワーフたちの食料不足が解決してからは、一応、水田を造ったのだ。

 食料生産には関わらせないつもりだったが、ここだけは例外として、ドワーフたちの土魔法によって田んぼと畦道を形作ってもらい、そこにエルフたちが水魔法で水を注いだ。

 水源から水路を引っ張って来てはいないが、そばには滝も流れ込んでいるし(あまりにも高い場所から流れ落ちているため、水は空中で全て拡散してしまい、川は形成されていないが)、土地としては水気が豊富であったらしく、何とかなっている。

 そんな田んぼの状況は、こちらも問題なく育っているようだ。

 すでに稲穂は実り、田んぼからも水を抜いている状態だった。


『次はトウモロコシだな』


「セフィ、とうもろこし、あまいからすき」


 次にトウモロコシを栽培している区画に移動する。

 ここでは2種類のトウモロコシを育てていた。調理されて食卓に上がるスウィートコーンと、酒に適した品種のトウモロコシだ。


 ところで、お気づきだろうか?

 ここまで三つの作物を見てきたが、すべて、酒の原料となる作物である。

 主食にもなる作物だから、これら三つが畑の半分くらいを占めているのだが、単に食料として消費するだけなら比重としては明らかに過剰な生産量だ。これもすべてドワーフたちがゴネた結果である。


 ちなみに、前の俺の知識には「爆裂種」なるトウモロコシの品種の存在も備わっているのだが、今は作っていない。

 ポップコーンなる菓子(?)を作れるらしいが、またいずれ作れば良いだろう。


 トウモロコシ畑も、見ている限りは問題ないようだ。

 エルフたちが収穫作業をしていて、俺たちの存在に気づいた女性エルフがこちらに歩み寄って来た。


「これは、姫様に精霊様。どうされました?」


「はたけをみまわりちゅう」


『いや、何か問題でもないかと思って見廻りしてたんだ。何か要望とか改善点とかないか?』


「いえ、ここでは特にそういった事はないですね。むしろどんどん作物が実るので、お世話していてとても楽しいですよ」


『そうか。それなら良いんだが』


 楽しく仕事をしてもらえるに越した事はない。


「あ、でも」


『ん? どうした?』


「外縁の、森に近い畑では結構虫の被害が酷いと言ってましたね」


『虫かー。わかった、ちょっと見てみるわ』


「はい。あ、姫様、良かったら採れたてのトウモロコシ、召し上がってみますか?」


「たべる!」


 女性エルフは収穫したトウモロコシを綺麗に剥き、髭を取ってセフィに渡した。

 受け取ったセフィは生のトウモロコシをかじる。もぐもぐと咀嚼して、


「このつぶつぶが……おいしい!」


『まあ、基本的に粒々以外は食べないからな』


「そっかー……ぜいたくなたべものだなー」


 確かに、そう言われてみると可食部位が少ない食べ物だな、トウモロコシ。

 いやでも、主食として選ばれる作物だから生産効率が悪いわけではなさそうだが。

 ちなみに、現在俺たちの里では主食としては食べていない。主食は主に小麦、たまに米だ。トウモロコシは大部分が酒になっている。


「ユグ、このなかのぼうのぶぶん、あげようか?」


 棒の部分って芯じゃねぇか。

 普通捨てるところですけど?


『そうだな……後で、本体の根本にでも、置いておいてくれ』


「わかった」


 まあ、食料を無駄にしないセフィの優しさと判断しておこう。


『んじゃ一応、外縁に行く前に他の畑も確認していこうか』


 セフィがトウモロコシを食い終わったところで、再度出発だ。

 ちなみにトウモロコシの芯は、女性エルフが「私が置いておきますよ」と言ってセフィから回収してくれた。

 ……まさか本当に置きに行くわけじゃないよな?

 俺、信じてるよ?


『ここは……野菜を育ててる場所だな』


「これはきゅうり。はごたえがいいけど、はんこうてきなやつ」


 移動したのは様々な野菜を育てている区画だ。

 何を育てるのかは、里の住人たちの希望による。

 セフィは近くで実っていたキュウリを指差し、独特な感想を述べる。


『反抗的? なんで?』


「このトゲトゲが、たまにささっていたい。こうげきしてくる」


 確かにキュウリには棘があるけども。


「これは、姫様に精霊様。どうされました?」


『あ、うん。何か問題ないかと思って、畑を見廻りしてるんだ』


 なんか既視感。

 畑で草むしりや収穫作業をしていたのだろう。俺たちに気づいた男性エルフが近づいて来たのだ。


「そうなのですか。いえ、特に問題はないですね。むしろ面白いくらい野菜が採れるんで、畑仕事も楽しいですよ」


『そっか、そいつは良かった』


「あ、でも、そういえば外縁の畑で虫の被害があったとか聞きましたね」


『お、おう。このあと見に行くわ』


 さっき聞いたけど。

 しかし虫か。特に報告は来ていないから深刻な被害ではないんだろうけど。


「はい、お願いします。そうだ、姫様。採れたての野菜、何か食べてみますか?」


「たべる!」


『……』


「何を食べたいですか?」


「じゃあ、あのあかいやつ!」


「トマトですね。少し待ってください」


 男性エルフはトマトを収穫すると、水魔法で出した水で軽く洗って、セフィに差し出した。

 セフィは艶やかなトマトにかぶりつく。それからもぐもぐと咀嚼して、


「かむとぶじゅっとなかのどろどろのやつがでてきて、なんかあまくて、おいしい!」


 食レポ下手か。


『あんまり美味しそうな感想じゃないな』


「おいしいよ?」


『それなら良いんだが』


 セフィがトマトを完食したところで、口のまわりの汚れをメープルが拭ってから再度出発だ。

 ちなみに、この野菜区画では色々な作物を育てている。キュウリとトマトしかないわけではない。


『あとは香辛料、サトウキビ畑、果樹園くらいかな』


「はい。あと、芋類を育てている畑もありますね。たしか香辛料になる作物を育てているのが外縁付近だったかと」


『お、そうなのか。んじゃあ、ここからだと畑の外縁の方が近いし、先に虫の被害とやらを確認しに行ってみるか』


「そうですね。その順番でよろしいかと」


 メープルと相談し、害虫による被害を確認するため、畑の外縁に行く事にした。




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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、基本的に粒々以外は食べないからな 普通捨てるところですけど? ___ 何言ってやがるだコイツ(呆れ)、 トウモロコシの芯はコーンポタージュの必須材料だろうが!
[良い点] 順調にセフィの思考年齢が落ちてる。 いいことだ。
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