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第七十五話 ミミックトレント


 ●○●



 デスマンティスをはじめ、霊峰の麓に生息する何種もの魔物たちをヴォルフは倒していく。

 遭遇する魔物の一部は、昨日ウォルナットたちに同行したヴァラス大樹海の魔物と被っているが、魔物たちはどれも弱くない。むしろ一般的には十分に強敵と呼ぶべき部類だろう。


 その全てをヴォルフは単騎にて下していく。

 戦い振りは危なげない。

 見ているこっちがヒヤリとする場面は多々あるが、かすり傷以上の傷を負うこともなく、ごく短時間で勝負を決める。

 むしろ短時間で勝負を決めねば危ういのかもしれないが、結果的には魔物たちを圧倒しての勝利だ。


 とはいえ、ヴォルフが戦うのは群れていない単独の魔物に限る。

 ウォルナットたちは数の有利を十分に生かせる範囲で、三体程度の群ならば勝負を挑んでいたが、さすがに一人で複数の魔物を同時に相手するのは無理なようだ。


 そんなわけで、狩り自体の効率は悪い。

 太陽の位置も中天をとうに過ぎ、そろそろ里へ戻らなければならない時間が近づいている。

 しかしレベル上げという観点からみれば、集団で狩りをするよりも効率は良いらしい。


 ヴォルフが本日8体目の魔物を斬り伏せた時だった。


「ふむ……精霊様、もしかすると、きたかもしれません」


 何かを感じ取ったのか、ヴォルフが自らのミストルティンにじっと視線を注ぎつつ言ったのだ。


『お? んじゃあ、確認してみるか?』


「お願いできますか?」


 そう提案してみれば、ヴォルフは間髪入れずに頷いた。

 俺はヴォルフのミストルティンに憑依してみる。それから自己鑑定で確認してみれば、



【レベル】40/40



 遂にミストルティンのレベルが上限に達していた。


『おお! おめでとう、ヴォルフ! レベルが上がってるみたいだぞ!』


「遂に来ましたか……! ここまで、長かった……!」


 ヴォルフは万感の想いを込めて呟いた。

 長かったって言っても進化まで1年も経ってないし、かなりハイペースなんだけどね。


「むむー……」


 そしてセフィは複雑な表情を浮かべていた。

 初めて進化を迎えるミストルティンに興味がありつつも、それが自分のではない事に悔しい思いがあるんだろう。

 まあ、セフィの気持ちは分からんでもないが、こればっかりは仕方ない。

 諦めてくれ……などと思っていると、ミストルティンに憑依している俺の視界に、例の通知が表示された。



『レベルが上限に達しました。

 進化条件を満たしました。進化します』



 ――お?


 進化するかどうかを聞かれない……だと?

 俺の時とは違うのはなぜなのだろうか。返答できるほどの明確な意思がないから、とかだろうか?

 疑問に思いながらも、新たな文章が表示されたのでそちらへ集中する。



『形態の異形化を確認しました。

 特殊進化条件を満たしました。

【種族】<マナトレント>は【種族】<ミミックトレント>へ進化します』



 次の瞬間、俺はミストルティンの中から弾き飛ばされていた。


『ぬおッ!?』


 慌てて精霊体を制御し空中に静止すると、ヴォルフの持つミストルティンが淡く光り輝いていた。

 光の中心でミストルティンのシルエットが変わ……いや、変わんねぇな。

 特に形状が変化する事なく、発光は徐々に収まっていく。

 そして現れたのは、今までと特に変わりのないミストルティンであった。


「かわってないかも……」


「なん……ですと……ッ!?」


『いや、よく見ると変わってるぞ。質感とか。っていうか、木目模様消えてない?』


 一見すると何の変化もないと思われたが、よくよく観察してみると微妙に変化している部分がある。

 進化前は黒曜石のような色と質感で木目模様が微かに浮かんでいたが、今は重厚な黒金といった風情で、木目模様も消えていた。それから柄の部分も進化前は同じ材質で作られていたのだが、今は色も質感も剣身とは違っている。

 総じて木剣ではなく、鍛冶師が打った黒金の大剣といった感じだ。

 なんだろう、木剣から金属製の剣にランクアップしたとでも言うのだろうか?

 いやでも、「ミミックトレントに進化します」って書いてあったしな……。


「精霊様、もう一度確認していただいても?」


『あいよ』


 確かな変化ではあるが、不安なのだろう。

 ヴォルフに言われ、俺は再度ミストルティンに憑依してステータスを確認する。



【固有名称】『ミストルティン・ヴォルフレイヴ』

【種族】ミミックトレント

【レベル】1/60

【生命力】510/510

【魔力】1010/1020

【スキル】『光合成』『魔力感知』『エナジードレイン』『種子生成』『地脈改善』『変異』『変質』『擬態』

【属性】水 闇

【称号】なし

【神性値】0



 どうやらきちんと進化しているようだ。


『おお! 安心しろよヴォルフ、ちゃんと進化してるぞ』


「そうですか! それは良かった! それで、どのように変化しているのでしょう?」


『ええっとな……』


 勢い込んで聞いてくるヴォルフに、俺は確認できるステータスを順番に告げていく。

 種族はちゃんと「ミミックトレント」となっているし、レベル限界は前より20増えて「60」になっているようだ。

【生命力】と【魔力】の値はどちらも進化前のだいたい1.5倍くらいだ。レベルアップによる上昇値がどれくらいなのかは分からないが、俺と同様の法則だとすると元値の100分の1だから各「5」「10」くらいになってしまう。

 これだと進化前よりも上昇値は低い。

 ステータスもレベルも位階も低いので、もしかすると100分の1ではない可能性があるな。

 まあ、そこは実際にレベルを上げてみれば分かるだろう。

 あとなぜか、魔力がすでに消費され、今も消費され続けている。


 んで。

 次に【スキル】だが。

 増えているのは二つ。



【スキル】『変質』

【解説】身体構成物質を様々な物に変質させる事ができる。変質には魔力を使用し、変質する物質によって消費される魔力は変動する。魔力の量が十分であれば如何なる物質にも変質する事ができるが、知らない物に変わる事はできない。

【効果】魔力を消費し、身体構成物質を任意に変質させる。



 なるほどな。

 たぶん、今も少しずつ魔力を消費しているのは、このスキルを発動しているからなのだろう。



【スキル】『擬態』

【解説】【生命力】を消費する事によって体表面の色、質感を任意に変化させ、また体の形もある程度変える事ができる。ただし、元の姿からあまりにもかけ離れた形にはなれないし、変形の速さは緩やかである。

【効果】【生命力】を消費し、体の色、質感、形などを任意に変化させる。



 こちらのスキルは発動してはいないようだ。

 しかし、なんで消費するのが【生命力】なんだろうな?

 もしかして魔法的な効果ではなく、生物として備わった機能に由来しているから、とかかもしれない。


 なんにせよ、さすがミミックと名の付く種族だと納得せざるを得ないスキルだ。

 果たして『擬態』を使う事があるのかは謎だが、『変質』の方は色々と出来そうである。


 そして最後の変化である【属性】だ。

 確か闇属性は、そのものずばりな「闇魔法」と「精神魔法」が使えるはず。

 闇魔法は闇とか影とか操ったりできるそうだが、それよりも呪いみたいな魔法が多いと長老が言っていた。いわゆるデバフ系に特化した魔法であるようだ。

 精神魔法の方は、そのまま他者の精神に干渉する魔法である。

 人族のみならず、人類国家ではどこも禁忌扱いで忌み嫌われているらしい。


 闇属性を利用した魔法でミストルティンにキーワードを設定して魔法を使わせる事もできるはずだが、肝心の俺が使えないから、これには難儀しそうである。

 いちいちヴォルフのミストルティンに憑依して闇魔法を練習、習得し、それから魔法を設定する事になるだろう。

 キーワードを設定するには、俺が憑依してその魔法を使えなければならないから。


 まあ、そこら辺はおいおいやっていくとして、進化して変化した部分、新たに増えた能力はこんなところだろうか。


『――というわけなんだが、これで良いか?』


「ありがとうございます、精霊様。良く分かりました」


 ヴォルフは憑依を解除した俺に向かって頭を下げると、ミストルティンを真剣な眼差しで見つめる。


「『変質』……確か、ゴルド老がミスリルや少量のオリハルコンを秘蔵していたはず……。もしかしたらミスリルやオリハルコンにも『変質』できるかもしれませんな……。そうと決まれば長居は無用です。早く帰りましょう」


『あ、うん』


 ミスリルとオリハルコンか……。

 たぶんだけど、魔力の消費がだいぶ多そうだな。

 ってか、ヴォルフの行動が素早い。見た目は落ち着いているが、尻尾がばっさばさ振れているので、進化したミストルティンはどうやらお気に召したらしい。


「むむぅ……! みみっくも、いいかも」


 セフィは嫉妬しつつもヴォルフのミストルティンに心惹かれているようだ。


 ともかく、このあと俺たちはヴォルフに促されてさっさと帰還した。




2021/3/7

計算間違いのため、進化ミストルティンの【生命力】の値を「460」から「510」に変更しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです [気になる点] すみません、自分が使っているアプリでは、<>、この左の記号を使われると、その中の言葉が消えて見えなくなるので、出来れば直してくれると嬉しいです。
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