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第七十三話 新式エルフ流狩猟術

またまた大幅に更新遅れまして、大変申し訳ありません(;>_<;)

言い訳をさせていただくと……花粉です。

毎年そうなのですが、花粉が舞う季節になると、非常に怠くなります。

薬を飲んでも怠いし、飲まなくとも怠いです。目は痒いは鼻水は止まらないわで、割と地獄です。

花粉症のない世界に行きたい……。


 ●○●



 昼でも暗い樹海の中を、エルフたちは迷う事もなく先へ先へと進んでいく。

 先ほどまでは色々と馬鹿な会話もしていたが、今は囁き声一つ交わさない。

 森の中に気配を溶け込ませ、木々の陰から陰へと飛び移るように移動していく。足音どころか衣擦れの音すら立たない身のこなしは、流石は森の民と言うべきだろうか。


 それもある意味当然で、ここにいるエルフたちは誰もが若く見えるが、誰もが短命種の時間感覚からすれば、ありえない程に年季の入った狩人たちなのだ。

 彼らにとって熟練――などという域は、数十年前に通り過ぎた場所なのである。


 しかし懸念もある。

 そんな彼らにセフィが同行していて、果たして大丈夫なのだろうか、という事だ。


 というのも、見事に気配を殺しているエルフの狩人たちだが、狩人の経験がないセフィは気配を消す事などできないはずである。おまけにハイエルフであるが故に、魔物たちはセフィの気配を敏感に察知する。

 狩り、という行為には不向きではないかと今更ながらに心配したのだが……、


『マジか……セフィ、気配消すとか、そんな高等技術ができたのか』


 他のエルフたち同様、木々の陰に身を潜めたセフィからは何の気配も感じられない。ともすれば目を離した隙に見失ってしまいそうになるほど、森という空間に気配が「同化」していたのである。


『ふふーんっ! セフィ、ゆーしゅーなので! いっぱいほめていいよ?』


 ドヤァっと、セフィが満面でドヤる。

 念話で返事をしたのは獲物に音で察知されないようにするためだろう。細部に至るまで文句のつけようのない、堂に入った隠れっぷりである。


 いったいどうした事だろうか?

 ここにきて、セフィの意外な優秀さが露見してくるとは。

 それとも俺がセフィを過小評価していたとでも言うのだろうか?


『うむ、なかなかやるじゃないかね、セフィ君』


『むふーっ!』


 しかし、何でこんな事できるんだろうね、ホント。

 そんな俺の疑問は、そばで同じように潜んでいたローレルからもたらされた。

 ローレルは苦笑を浮かべつつ、やはり念話で答える。


『姫様はハイエルフ様ですから、森の中で気配を隠すくらいの事は簡単にできてしまうのですよ』


『ああ、やっぱそういうやつね』


 だいたい予想してた。

 それにしてもエルフやハイエルフってのは、森の中だと本当に優秀だと実感する。奇襲とかに徹したら最強じゃないのか。


『そういう精霊様も、見事に気配を消されてますよ』


『え、え? そ、そう?』


『はい、姫様とも遜色ないくらいです』


 ローレルにそんなふうに褒められるが……俺、別に気配とか消してないんですけど?

 いやまあ、俺の本体ってば樹木だし、そもそも今の俺は精霊体で呼吸もしなければ臭いもしないし、確かに元々気配なんてものは希薄な存在なのかもしれない。

 そうなのだ。身体的特徴として気配を感じさせる要素が少ないだけで、決して「存在感が薄い」わけではないはずだ。

 そうだよね? そうだと言ってくれローレル!


『あ、そろそろですね。姫様、精霊様、あちらの方から来ますよ』


 言ってくれないのか、ローレル。


『きた……! でっかい……おさるさん?』


『キラーエイプですね』


 俺の内心の疑念はさておいて、鬱蒼と繁る木々の奥より魔物が姿を現す。

 そいつは形だけで言えば人に良く似ていた。しかし全身は硬そうな皮毛に覆われ、前屈した姿勢で四肢を着いて歩いている。両腕は人よりも長く、周囲を静かに警戒しながら見渡す瞳には明らかな知性を感じる。口もとからは鋭い牙が覗き、皮毛の下から隆起する筋肉は圧力すら感じるほど分厚い。腰の後ろには長い尻尾があり、人くらいなら掴んで投げられそうな大きさだ。


 体高は3メートルはあろうか。

 形も大きさもレッドオーガに近いが、両者を並べて見ればはっきりとこちらの方が大きく、強く感じるだろう。全身に纏う筋肉の量が桁違いなのだ。


 キラーエイプ。

 霊峰フリズスに近いヴァラス大樹海を住み処とする、大猿の魔物であった。

 当然、その強さはレッドオーガなどの比ではなく、知性と俊敏かつ立体的な動き、繰り出される剛力と分厚い皮毛による防御力は、おそらくタイラントベアーすらも上回るだろう。

 ウォルナットを始めとする20人以上のエルフたちならば敗北する事はないだろうが、苦戦は免れないだろう強敵だ。


『ふむ……どう戦うんだ?』


 静かに傍らのローレルに問う。

 エルフたちはいまやキラーエイプを囲むように布陣していたが、一斉に飛びかかったところで蹴散らされる未来しか見えない。

 かと言って弓矢で仕留められるほど、容易い相手でもないだろう。


『まあ、見ていてください。私たちも勝てない相手に挑むほど、馬鹿ではありませんので』


『ふむ』


 いや別に、勝てないとまでは思っていないのだが。

 しかし苦戦して大怪我などしたら事だ。少々心配になる俺だったが、エルフたちは木陰に隠れながらハンドサインで何やら意思疏通している。

 そして、十分にキラーエイプが近づいたところで、


『行きます』


 静かにローレルが木陰から飛び出し、キラーエイプへ向かって疾走する。

 瞬間、流石にキラーエイプもローレルの存在に気づいたようだ。素早く振り向き、小さな存在を声もなく見下ろす。その瞳は野生動物なのに冷ややかで、接近するローレルを脅威とも思っていないようだ。


「バインドウィップ!」


 疾走するローレルが右手を振るう。

 叫んだのは魔法の詠唱ではない。右手に握ったグレイプニルに設定されたキーワードだ。

 振るわれた鞭がキラーエイプに襲いかかる。本来、まだ間合いにも入っていないはずの距離。しかし蛇の如くうねる鞭は文字通り「伸び」て、キラーエイプを間合いの内に捉えた。


『ローレルっ!?』


 だが、空気を裂く勢いで襲いかかった鞭が捉えたのは、キラーエイプの片腕だけだった。

 伸びる鞭を見ての事か、咄嗟に振り上げた左腕を盾にしたのだ。これでは大して拘束力はない。


「グァアアアアッ!!」


 怒り狂ったように牙を剥き出しにしたキラーエイプは、逆に左腕に巻き付く鞭を掴むと力任せに振り回した。

 鞭を持つローレルの体が、まるで風に煽られる木の葉のように宙に舞う。

 そのまま大木の幹に叩きつけられるかと思われた寸前、空中でくるりと身を捻ったローレルは幹に足から着地。膝を曲げる事で衝撃を散らす。


「ウィークン!」


 重力がその身を捕らえて落下に移るより早く、ローレルが再びキーワードを叫んだ。

 グレイプニルに設定された生命魔法の弱体化だ。

 しかし、まだ1レベルのグレイプニルでは大した効果は見込めない……、


「「「ウィークン!」」」


 というのは、どうやら折り込み済みであったらしい。

 ローレルに続いて大木の陰から姿を現したエルフたちが、口々にキーワードを叫ぶ。

 それは弓型のミストルティンを構えたエルフたちだ。引き絞った弓から放たれた矢に弱体化の魔法を乗せて、キラーエイプに数本の矢が突き立つ。

 矢は、あまり深く刺さっていない。ダメージとしては非常に軽微だろう。

 しかし、弱体化魔法は接触しているほど効果が高い。剣型のミストルティンが遠間から放つよりも、弱体化の威力は大幅に強化されているはずだった。

 実際、矢が突き立った瞬間に奴は力が抜けたようによろめく。


「バインドウィップ!」


 同時、木の幹から跳躍したローレルが再び鞭を振るう。

 いつの間にかキラーエイプの左腕を解放していたグレイプニルが、今度こそ奴の両腕ごと胴体を締め付けるように巻き付いた。

 すぐさま拘束を引き千切るべく力を込める大猿だが、グレイプニルは拘束に特化しているだけあって、鞭の強度はなかなかのものだ。おまけに今は多重に弱体化を掛けているからか、鞭が引き千切れる様子はない。


「ガアアアアアッ!!」


 雄叫びをあげるキラーエイプに諦める気はないようだ。

 拘束を解けないと知るや、奴は鞭に構わず跳躍した。

 一度距離を取って仕切り直すつもりだろう。

 弱体化しているとはいえ、キラーエイプの跳躍力ならば鞭の先のローレルごと跳び上がるはずだった。

 だが、ローレルも流石である。二度も同じような手を喰らう事はなかった。キラーエイプの拘束はそのままに、鞭の持ち手近くをいつの間にか抜いた解体用ナイフで切断すると、奴の跳躍に引き摺られる事はなくなる。

 しかしキラーエイプは高く跳躍し、自由に動く尻尾を木々の枝に巻き付けると幹へ着地。そこを足場にさらに跳躍を重ねてエルフたちの包囲網を脱してしま――


「「「ウィークン!」」」


 ――う、その直前だ。

 奴が木の幹から二度目の跳躍を果たそうとした瞬間、周囲から弱体化魔法の乗った矢が襲い掛かり、跳躍の勢いが殺される。そこへ、


「バインドウィップ!」


 回避できない空中のキラーエイプに向かって、急速に再生し成長したグレイプニルを再度振るうローレル。

 鞭はキラーエイプの両足を纏めるように巻き付き、拘束した。


「ウィークン!」


 為す術なく地面に落下するキラーエイプへ、駄目押しとばかりにローレルが弱体化を重ねる。

 そこでようやく、ウォルナットたち剣型ミストルティンを持ったエルフたちが動き出した。


「「「スティンガー!」」」


 キーワードを叫ぶとミストルティンの切っ先がビキリっと割れるような音を立てて変形する。

 切っ先は鋭く長く伸びる。その鋭さたるや板金すら貫くエストックを彷彿とさせる形だ。

 変形したミストルティンを腰だめに構えながら、ウォルナットたちは疾走した。

 森の中をキラーエイプへ、その間合いを狼のような速度で瞬く間に走破した彼らは、疾走の勢いを殺すことなく体ごとぶつかるようにミストルティンを大猿の巨体へ突き立てた。


 キラーエイプが叫びをあげる。

 しかしそれは、威圧のための雄叫びではない。苦痛に喘ぐ悲鳴であった。

 ミストルティンを突き立てたエルフたちは、身動ぎするキラーエイプを押さえ込むように力を込めている。そして――、


「「「ソーン!」」」


 一斉に叫んだ。

 瞬間、キラーエイプの全身から無数の棘が「生えて」きた。

 突き立てたミストルティンがさらに変形し、体内から無数の棘を生やしてキラーエイプの肉体をずたずたに引き裂いたのだ。

 分厚い皮毛を突き破って飛び出した棘は、夥しい出血を強いる。

 やがて、天へ向かって声なき声をあげるようにして、キラーエイプの全身から力が抜ける。


『お、おお……!』


 被害を被る事なく、キラーエイプを完封してしまった。

 正直、その事実には驚きを禁じ得ない。

 最後の一撃は、いつぞやワイバーンの群に襲われた時にゴー君たちが行っていた攻撃を再現したものだ。ミストルティンに命令を覚えさせるのは今のところ俺しかできないから、もちろん俺も再現には協力していたのだが、見事に活用するものである。


「お! 姫様、精霊様! どうだったっすか、俺の華麗な活躍は!?」


 戦闘に加わる事がなかったセフィと共に倒れ伏したキラーエイプの方へ近づくと、俺たちに気づいたウォルナットが得意気に言ってくる。


「まあまあだった」


「まあまあ!? いや、完璧な戦いだったでしょ姫様!?」


「そーだけど。ウォルはあんまりかつやくしてなかった。ローレルががんばってて、えらいとおもった」


 どうにもセフィからすると、止めを刺しただけに見えるウォルたちは貢献度が低い扱いらしい。

 一方、今回一番活躍したローレルはどこか誇らしげな顔だ。


「精霊様はどう思います!? 俺、活躍してましたよね!?」


『え? うーん、そうだな……』


 ウォルに聞かれたので、考えつつ答えを出す。

 いや、質問の答えは置いておいて、戦い全体の評価として言いたい事があったのだ。


『ウォルの活躍はさておいて、何て言うか、良い意味でひどい戦いだったな……』


「え!?」


 圧倒的数の暴力を垣間見てしまったぜ。

 俺の言葉に思うところがあったのか、察したローレルが苦笑しつつ、


「あはは、まあ、流石にキラーエイプくらいになると、集団で戦わないとどうにもなりませんから」


 などと言いながら、消耗したグレイプニルに魔力を流して回復させていた。

 ミストルティンやグレイプニルは自前の魔力を使って魔法などを使用するが、所有者が魔力を流してやれば、その魔力を『エナジードレイン』で吸収して回復する事もできるのだ。

 要は魔力が二つあるみたいなもので、継戦能力の上昇にも一役買っている。


『何はともあれ、この調子ならこの辺での狩りも問題なさそうだな』


 元いた場所よりも強い魔物相手にウォルたちだけで狩りができるか心配だったが、この分では心配は杞憂であったようだ。


『んじゃあ、キラーエイプの魔石だけ回収したら、次に行こうか』


「おー! つぎからはセフィもたたかう!」


 エルフたちが頷き、セフィがミストルティンを掲げて気炎をあげる。

 俺たちはこの後も狩りを続け、一日で50個近くの質の良い魔石と、大量の魔物素材を手に入れる事ができた。

 エルフたちの戦い振りは最後まで危なげなく、軽傷こそ負った者はいたものの、大怪我を負う者はいなかった。

 集団で相対する限りにおいて、周辺の魔物を圧倒する事ができたのだ。

 これならば万が一に備えて傍に付いていなくとも問題はないだろう。


 ちなみにこの日、セフィのミストルティンが活躍する事はなかった……。




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― 新着の感想 ―
[一言] >>花粉症のない世界に行きたい それだと花粉症の無い世界でただ一人の花粉症にならない? (ツヨクイキロ)
[良い点] ステロイド注射とかもあるのよ
[一言] 森を裸足で歩くと・・・
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