第六十一話 解析依頼
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さて。
エルフたちの住居を洞窟の中に移し終わり、食料生産のための広大な畑も出来上がった。
畑と結界を維持するために魔物などを定期的に狩る必要はあるが、それはブリュンヒルドやグラムたちに任せれば問題ない事ではある。
霊峰フリズスの周囲は数多の魔物たちが跳梁跋扈していて、獲物を見つけるのに困る事はない。
ドワーフたちに渡す分の酒もすでに生産開始していて、幾つかは熟成中だし、俺たちの生活もだいぶ軌道に乗ってきたというか、落ち着いたものになってきた。
当初は懸念していたエルフとドワーフたちの仲の悪さだが、老害と化すほどに頑固だったウチの長老ズが態度を一変させる事で、現在は目立った問題もなく穏やかに共存する事に成功している。
ドワーフたちも酒と食料の問題が解決した事で、主に女性陣から歓迎の声があがっているし、出会った当初は痩せ細っていた体も、今では皆、本来のムキムキさに戻っていた。
とは言っても、最初だってエルフたちに比べればだいぶ筋骨隆々な事に変わりはなかったのだが。
それでもこうして今の姿と見比べると、やはり食料の問題は結構深刻だったようで、明らかに痩せ細り憔悴していたのだと分かるほどだ。
ともかく。
そんな危機的状況も脱したことで、エルフだけではなくドワーフたちも穏やかに暮らし始めていたある日。
俺はセフィに抱えられながら、ドワーフの里のある場所を目指していた。
そんな俺たちに付き添って、ウォルナットとローレルの二人も共に来ている。
洞窟の中にある里の中だし危険はないと思うが、二人はセフィの護衛役でもある。とはいえ、それ以外にもエルフ側として、これから行く場所で様々な報告をセフィの代わりに聞くのが主な役目なのだが。
俺たちが向かっているのは、里の中にある工房の一つだ。
何のために向かうのかと言えば、解析を頼んでいた「とある物」の報告を聞くためである。
それは、以前エルフの里を襲撃したモブ男が持っていた魔剣、及びマジックバッグの事だ。
より正確に言えば、それらに使われているルーン文字を用いた技術について、ドワーフたちに解析を依頼していたのだ。
一応、俺も前の俺が持っていたらしい「知識」によって、個々のルーン文字がどんな意味を持つのかは理解できる。
しかし、それらをどのように組み合わせるとどのような効果を発揮するのか、あるいはルーン文字をただ刻んだり書いたりしただけで効果が発揮されるのかなど、不明な点は多々ある。
正直、俺やエルフたちだけで何千、何万というルーン文字が刻まれた術式を解析するのは難しい。
そこで白羽の矢が立ったのが、ドワーフたちというわけである。
実のところ、ドワーフたちが教国によって迫害されるきっかけとなったのも、このルーン文字に纏わる事情がある。
近年、教国によって復活したとされるルーン技術だが、実は教国が復活させるより遥かに以前から、一部の技術においてルーン技術を活用している者たちがいた。
話の流れで分かると思うが、それは言うまでもなくドワーフたちの事である。
ドワーフたちはラグナロク以前の遥か昔から、ルーン技術を用いて鍛冶を行っていたのだ。
森の木々を無秩序に伐採した事でエルフと対立した事が原因なのかは、ドワーフたちにとっても遠い昔過ぎて不明だが、ある時から彼らは鉱物魔法とルーン技術を活用して鍛冶をするようになったらしい。
ルーン技術は具体的には金属を溶かすための炉に使用され、燃料を魔石にしてルーン魔術を使う事で植物性の燃料を使わずに高温状態を生み出す事に成功しているらしい。
まあ、現在の教国のようにルーンを刻んだ道具こそ作り出してはいないものの、鍛冶に使用する炉の部分だけはルーン技術を継承し続けていたようなのだ。
ちなみにドワーフたちがルーンを刻んだ道具を作り出していないのは、ラグナロク以降、ルーンの乱用が禁忌とされたために、ほとんどの技術を失伝したためだ。
そういうわけで一部とはいえルーン技術を継承しているドワーフたちを、優れた鍛冶の腕前以上に、ルーン技術を復活させる目的で奴隷にしようとした経緯がある。
教国からしてみればドワーフの鍛冶技術の確保、ルーン技術の復活、どちらも重要な目的であったのだろう。
そういった理由があり、ドワーフたちへの奴隷狩りが活発になった。
当然、これに反発したドワーフたちは、教国によって同胞の数を減らされながらも世界中に散り散りとなり、その一部が現在、この里にて隠れ住んでいる、というわけだ。
幸いなのは教国がルーン技術を手に入れるより前、かつ新神が降臨する以前という事で、教国が今ほど強大ではなかった頃の話であることだ。
ドワーフたちは元々住んでいた場所を追われながらも、アルヴヘイムの民たちとは違い、多くが生き延びたのだとか。
この時、ドワーフたちが断固として教国に屈しなかったが故に、教国のルーン技術復活は数十年単位で遅れてしまったらしい。
とはいえ、今はこうして自力で復活させてしまったのだから、なかなかの執念というか何というか。
ともかく。
そういったわけで俺はドワーフたちに魔剣とマジックバッグの解析を依頼した。
もちろんドワーフたちにも初見のルーン文字などが大量にあったのだが、それらについては都度、俺がどういった意味を持つ文字なのか説明している。
そうして地味に協力しながら解析は進んでいき、ドワーフの里へやって来てから3週間を過ぎた今日、ようやく解析が完了したという報告があったのである。
正直、一月もかからず解析したのは凄いと思う。
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「おじーちゃーん! きたよー!」
ドバァンっ! と勢い良く工房備え付けのドアを開けるなり、セフィが元気良く叫ぶ。
煩くて迷惑かと思うような声量だが、鍛冶仕事をしていたりすると結構な騒音で、大声で叫ばないと気づいてもらえなかったりするのだ。
だから仕方ない。
まあ、それとは関係なくセフィはいつも元気なのだが。
「おう! 聞こえとるよ!」
工房の中に入ると、セフィの声に気づいてゴルド老がこちらへやって来た。
奥の炉がある場所とは壁一つ隔てていて、俺たちが入った部屋では彫金やら研ぎやらと、細かい作業を主に行っている。今も何人かの職人たちが作業中だった。
ちなみに、セフィの大声程度で驚き手元を狂わせるような繊細な神経の持ち主はいないらしく、俺としても一安心だ。
ゴルド老はどうやら、先ほどまで奥にいたらしい。
ドアを開けて室内に入って来ると、意外にもにこやかにセフィに対応する。
「嬢ちゃんに酒精霊様、良く来たな」
自慢じゃないが、俺とセフィはドワーフたちに受けが良い。
ハイエルフの権威が通じないドワーフたちではあるが、セフィはセフィで屈託なくドワーフたちに接するし、そんな態度がドワーフたちには気に入られているようだ。
特に老人連中などに対しては「おじーちゃん」やら「おばーちゃん」やらと呼んで天真爛漫に慕っているし、ゴルド老の様子を見ても分かる通りに、まるで孫バカの爺のような態度を見せる事がある。
セフィは強力な爺婆キラーだ。
対して俺だが。
まあ、ゴルド老の呼び方から大体の事情が分かるよね?
酒精霊――いまや俺は、ドワーフたちからそんな呼び名で親しまれている。
理由は言うまでもなく、俺が酒の原料となる果実や穀物を次々と生み出しているからだ。
果たして酒精霊と呼ばれる存在が実在するのかどうかは知らないが、とりあえず【称号】は増えていたよ。
【称号】『酒精霊』
【解説】あなたは多くの者たちに酒を司る精霊と認められた。酒を造り出す全ての工程において、あなたの力は最高の形で引き出される。あるいはあなたが祝福した酒は、その品質を上昇させるだろう。さらに多くの人々を魅了する酒を生み出した時、あなたはさらに一歩進んだ存在に至れるかもしれない。
【効果】酒製造に関する全ての工程において補正・小。または祝福により品質上昇・微。
冗談みたいな【称号】である。
しかし解説された効果は本物のようで、以前よりも酒に適した味の果実や穀物を生み出せるようになり、あるいは製造した酒に魔力を与えれば品質が僅かに上昇するようになったのだ。
そんなわけで孫的可愛さを遺憾なく発揮するセフィと、偉大なる酒の精霊様として、俺たちはドワーフたちに受け入れられているのだった。
『遂に解析できたんだって?』
「うむ! だいぶ苦労したがの、仕組みはだいたい理解したぞ」
挨拶もそこそこに、俺は用件を口にする。
するとゴルド老は得意気に笑みを浮かべて見せて頷いた。
「ここじゃあゆっくり話もできんわ、上に場所を移すか」
それから工房の二階にある一室に、俺たちは移動する事になった。




