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第五話 おいちゃんが、果物あげよう

感想ありがとうございます!

誤字報告も助かります!m(_ _)m


 ●○●



 ――こ、こ、こいつ……俺の言葉が聞こえてるぞ!!?


 俺の言葉を反復したという事は、その可能性は極めて高いはず。

 この推測に確信を得るため、俺は恐る恐るエルフ幼女へ向けて喋るつもりで、思念を紡いでみた。


 ――まさか、俺の言葉が聞こえてるのか……?


 そんなわけないよね、と思う。

 いやしかしもしかしたら、とも期待してしまう。


 自我が芽生えてからこの森の中で独り、誰とも会話することも交流する事もなく一月生きてきた。

 たったの一ヶ月と言えばそれまでだが、やはり孤独を感じることもあった。そりゃ光合成や猛毒林檎でゴブリンたちを狩る生活はそれなりに充実感もあったが、せっかく自我という意識があるのだ。俺のようにはっきりした意識を持つ存在と、会話してみたいと思っていた。


 誰とも何とも交流できないのなら、誰も「俺」という自我を認識しないのなら、いつか俺は自我を持つ必要もなくなって、意識までも失ってしまうのではないか。

 そんな恐怖心もあった。

 だから――、


「――!」


 エルフ幼女がまるで「そうだよ」とでも言うように、にぱーっとした笑みを浮かべて頷いた時、俺はやはり嬉しかったのだと思う。


 ――お、おお……! おお……! マジかー……!!


 意思の疎通が成立した事実に、俺はひどく感動してしまう。

 もし俺が涙を流せる体だったなら、なさけなく泣きじゃくっていたかもしれない。

 そんな俺に、エルフ幼女は、



『ねぇねぇ、あなたはせいれいさん?』



 …………え?


 今のはいったい……?

 突然のことに思考も感情も追いつかない。

 幻聴かな? と己の正気を疑っていると、



『ねぇねぇ、あなたはせいれいさんなの?』



 またもやそんな「声」がした。

 空気を震わす音ではない。幼女の口は動いていなかった。



 ――こ、こいつ……俺の頭に直接……っ!?



 というやつだ。

 頭の中に直接思念で話しかけられたというか、幼女の意思を理解させられたというか、そんな、いわく形容しがたい現象。

 だが、例によって例のごとく「念話」という単語が浮かび上がってくる。

 どうやら前の俺にとっては、既知の現象であったようだ。ゴブリンといいエルフといい念話といい、前の俺は何でも知ってるなー。


 とはいえ、これで目の前の幼女限定ではあるが、双方向で会話ができるという事だ。

 ちなみに、幼女は俺の心の声が聞こえているようではあるが、これまでの経緯から察するに、全ての思考を聞いているわけではなさそうだ。幼女が反応していたのは、僅かでも彼女に向けた思念だけであったから。


 なので、エルフ幼女は今も俺の返答を待っていた。

 さて、何と答えるべきか。

「せいれいさん」とは、「精霊さん」という事であろう。

 もちろん、俺は精霊さんなどではない。雑草である。しかしそう正直に答えた場合、失望されてしまわないだろうか。「いや、ただの雑草だよ」「そうなんだ、ふーん。じゃあいいや」とか言われて立ち去られでもしたら、俺は二度と立ち直れないかもしれない。いや待て。だがこうも考えられないか? もしかしたら俺に自覚がないだけで精霊であるという可能性も――無きにしもあらず。


 ……ふむ。


 俺は幼女に答えた。


 ――そうだよ。精霊さんだよ。


『わぁああ! やっぱり! そうなんだー! くさのせいれいさんには、はじめてあったー!』


 くさのせいれいさん?

 ……草の精霊さん、か。


 なんだか微妙な気分になる字面だが、幼女の反応から察するに珍しい存在のようである。

 純真無垢な幼女を騙しているという罪悪感?

 そんなもの、あるわけがない。なぜならば――俺は今日、たった今から、草の精霊さんだからだ!


 まあ、それはともかく。


 ――ところで、お前はこんな所で何してるんだ? 一人だと危ないぞ?


 せっかく俺と会話ができる貴重な存在だ。

 間違っても魔物どもに襲わせるわけにはいかん。

 なので心配してそう聞けば、


『おまえじゃないよ、セフィだよ』


 ――あ、うん……そっか、ごめん。


 質問の答えではないが、とりあえず謝っておく。

 幼いとはいえ、レディをお前呼ばわりはダメだったか。

 気を取り直して。


 ――で、セフィ。こんなところで何してるんだ? ちゃんと大人と来ないと、この森は危ないぞ?


 保護者といっしょならここまで来れるよね? という言外のニュアンスを含ませておく。

 だって、もう会えないとかなったら……寂しいじゃん?


『おさんぽしてたの。あと、セフィはハイエルフだから、ひとりでおさんぽしててもだいじょうぶなんだよ?』


 との返答。

 エルフじゃなくてハイエルフだったのか。

 それがどう「一人でもだいじょうぶ」に繋がるのかは、俺の知識にもなかった。ハイエルフがエルフの王族とか呼ばれているくらいの知識はあったが、前の俺もさすがにハイエルフの詳しい生態は知らなかったようだ。


 ――そう、なのか? まあ、大丈夫なら良いんだけど……。


 まあ、万が一魔物に襲われたら、猛毒林檎に付けた甘い香りによる誘惑効果を強化した果物を作れば、セフィを逃がすくらいの時間は稼げるだろう。


 ――と、猛毒林檎でふと思い付く。

 俺は果物が作れるのだ。それもとびっきり甘くて美味しいやつをな。

 そんな美味しい果物をセフィにあげたら、どうなると思う?

 きっと、


『くさのせいれいさんすごい! セフィまいにちここにあそびにくる!』


 ――となるに違いない。

 俺は己の名案に自画自賛すると、さっそく実行に移すことにした。

 さも今思いついたように、


 ――そうだ、セフィ、お近づきのしるしに、これ、やるよ。


『なにー?』


 と首を傾げるセフィの前で、俺は『種子生成』を発動し林檎を作る。

 魔力を大盤振る舞いして糖度を高めに高めた、蜜たっぷりのあまぁ~い林檎だ。

 枝の先に実った瑞々しい林檎を、セフィの前に差し出す。


『わぁー! すごい! りんごだぁ!』


 ――食べて良いよ。


『いいの!? ありがとぉ!』


 満面の笑みを浮かべ、セフィが差し出した手に林檎を落とす。

 セフィは受け取った林檎を疑うこともせず口にする。小さな口を大きく開けて一口、シャクリ、と。

 その様子を見届けて、俺は思考が読まれないよう内心でニヤリとした。

 事は俺の思惑通りに推移する。その証拠にセフィは、


『すごぉい! あまぁいっ! おいしぃーっ!!』


 俺の林檎のあまりの美味しさに、目を見開いて叫んだ(とはいっても念話だ。口はいまだにシャクシャクと咀嚼している)。

 おまけに手をぶんぶんと振り回し、全身でもって如何に林檎が美味しいかを表現していた。


 ――だろぉ?


 と返しつつも、俺は笑い声を出さないようにするのに苦労した。

 くっくっくっ、食べたな? ――と。

 もちろん毒などない。だが、こんなに美味しい林檎、他では味わえないだろう。

 つまり、セフィは俺なしではいられない体になったって事だ!


 さあ! 言うが良い!

 毎日ここに遊びに来ると!



『みんなにもたべさせたい! くさのせいれいさん、もっとりんごつくれる!?』



 しかし返答は俺の予想に反してさらに純心だった。

「みんな」というのが誰かは知らないが、セフィには独り占めするという発想はなかったらしい。良い子である。


 ――え? まあ……作れますけど?


 そう俺が肯定すれば、セフィの行動は実に迅速だった。


『じゃあいこう!』


 ――え? 行くってどこに? って、ちょちょちょっ!?


 セフィは左手に食べかけの林檎を持ち、右手に持っていた良い感じの枝をぽいっと捨てると、空いた右手で俺のボディをむんずと掴んだのだ。

 そして、まったく躊躇うことなく力を込めて引っこ抜く!

 ぶちぶちぶちっ! と根が切れて、地面の下に蓄えていた全ての地下茎と切り離された。

 俺は――、



 ――いッ、イデェエエエエエエエエエッッッ!!!



 あまりに乱暴な所業に絶叫を上げる。

 いきなり何てことするんだこの娘は!?

 しかし、当のセフィは俺の絶叫を聞いて、なぜかキョトン顔だ。


『……いたいの?』


 ――痛いに決まってん、


 と、そこまで言ったところで、ふと我に返る。


 ――いー……たくないな。


 そういや俺、草だった。

 べつに痛覚とかなかったんだよね。思えば角ウサギに食われた時も、痛いとかなかったし。

 いやだけど、そういう問題じゃないと思うんだ。


 ――いや痛くはないけどさぁ、もうちょっと優しく扱ってよね! 根っことか切れちゃったし!


『そっかぁー、ごめん』


 素直に謝るセフィに、こちらも毒気を抜かれる。


 ――わかれば、良いんだよ……。今度からは気をつけてよね。


『うん!』


 言ってから気づいたが、今度からもなにも、引っこ抜くのは止めてほしい。


『じゃあいこっ!』


 と、セフィは俺を右手に握ったまま駆け出してしまう。

 広場から森の中へ。

 セフィは目印もない森の中を迷う様子もなく進んでいく。


 ――いやだから、何処に?


 今度の問いには、ちゃんと答えてくれた。

 セフィは駆けながら元気良く言ったのだ。


『セフィのおうち!』


 と。




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[一言] 章タイトルがアウトw 単語だけ取っても 幼女 お持ち帰り って出来るし 狙ってやってますよねww
[良い点] タイトルが犯罪者のそれ
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