第四十九話 熟練の漁師を思わせる
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茨と蔦が形を変えた。
前へ向かって一本の槍のように突き出していた形から、網目状に展開するように広がっていく。
里の外縁から外へ向かって広がるように、茨と蔦で出来た網が構築される。それは重力に従って垂れるでもなく、地面と水平を保っていた。
その網の上に近接系のゴー君たちが乗り、構える。
要は足場を作った、という事だろう。
しかし――、
『ワイバーンたちは近づいて来ねぇな』
「ちょーけーかいしてる」
すでにワイバーンたちも茨と蔦が危険だという事を学習している。
近づけばまた捕らえられると想像するのは当然だし、誘惑効果付きの林檎も警戒しているのだろう。
これではあまり意味がないように思える。
そもそもワイバーンは空を飛んで、ゴー君たちの頭上を越えてこちらを襲う事も可能だ。
まあそうなったら、俺が対応するだけなのだが。
しかし、足場を作っただけではないらしい。
「ゴーくんたちが、がったいした……!」
『合体ではないだろ』
セフィが感動したように呟いた言葉を、やんわりと否定しておく。
なぜか近接系のゴー君たちに、蔦型ゴー君たちが蔦の一本を巻き付けたのだ。
巻き付いた場所はゴー君の腰部分であり、まるで命綱のよう。
しかし、そこからゴー君たちに動きはなかった。
彼らに空中から指示を出していたブリュンヒルドたちが、遂に動き出したのだ。
二人は外縁の対角線上に位置したかと思うと、一気にワイバーンの群へと突っ込んだ。
手にしているのは、どちらも長大な槍だ。
彼女たちの武器は自由に変形する。空中で戦うにあたって、より間合いの広い剣から槍へと変形させたのだろう。
まるで一条の流星のように高速で飛翔しながら、当たるを幸いに槍を振り回す。
その一振り一振りが、容易くワイバーンたちを両断していく。
おそらく植物魔法に身体能力強化、闘気術も併用し、その上に彼女たち固有のスキル『英霊ヲ狩ル者』の効果も上乗せされているのだろうが――凄まじいばかりの強さだ。
まさに鎧袖一触とは、この事であろうか。
対角線上に位置する二人は、円を描くように飛翔しながらワイバーンたちを追い立てる。
そうして巧みに、僅かずつ円を狭めて行くのを見て、俺も気づいた。
あ、追い込み漁だわコレ。
相手は魚ではなくワイバーンだけど、やってる事は変わらないだろう。漁ではなく猟と言うべきかもしれないが、そんな事はどっちでも良い。
追い込む先には、蔦と茨で組まれた足場に乗ったゴー君たちがいる。
「ふおー! ブリュンヒルドたちつおい! セフィのつぎくらいにつよいかもなー!」
『セフィはちょいちょいそれ言うな』
自分が一番なのは頑なに譲らないよね。
まあ良いけど。
『それにしても、やべぇな』
何がやばいって、ブリュンヒルドたちの戦いぶりである。
飛翔しながら追って来るブリュンヒルドたちから、ワイバーンたちは必死に逃げているのだ。
流石に、仲間が容易く両断される姿は衝撃が大きかったのか。それとも――、
「「うふふふふふッ! アハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」」
単純に追って来るブリュンヒルドたちが恐ろしかったのか。
まるでシンクロしたように彼女たちは高笑いしていた。
その目は興奮したように見開かれており、面に浮かぶ笑みは凄絶だ。
なぜか俺の知識にあるのだが、戦乙女とは本来、戦場に現れては戦士たちの魂を刈り取って行く、「おぞましい死神」のように思われていたらしい。
普段は綺麗なお姉さんたちにしか見えないが、今の彼女たちは、まさにそんな感じだった。
そんな二人の死神たちに追い立てられたワイバーンは、徐々に里の外縁に近づいていき――、
「ゴーくんとんだ」
『ふむ、トランポリン?』
そんな言葉が思わず浮かぶ。
まるでバネを勢い良く踏んで跳躍したかのように、蔦と茨の足場から近接系ゴー君たちが跳躍した。
冗談のように高く高く跳躍したゴー君たちが、近づいて来たワイバーンに向かって大剣――いや、大剣じゃねぇぞ!?
いつの間にか長槍に変化しているミストルティンを振るい、ワイバーンたちを仕留めていくのだ。
もしかしてブリュンヒルドたちを見て学習したのか、あるいは自分たちで考え出したのか、ミストルティンを複数の武器に変形させることが出来るようになっていたらしい。
それは驚きだが、さっきから色々驚きが多すぎて素直に驚けない俺がいる。
驚き疲れるわ。
それはともかく――跳躍したゴー君があらぬ方向へ落ちていかないように、巻き付いた蔦が足場へと引き戻していく。
そしてゴー君は再度跳躍し、ワイバーンへ攻撃を加えていく。
『これ繰り返して、後は地道に倒して行くのか』
と思っていたのだが、違った。
ゴー君に巻き付いた蔦は、どうやらただの命綱ではなかったらしい。
微妙にゴー君の動きを調整し、空中で向きを変えたりしている。それによってゴー君は変則的な動きで、ワイバーンたちを翻弄していた。
おまけに今ではブリュンヒルドたちも、里の外縁を円を描くように飛翔するのではなく、ワイバーンの群をその場――つまりゴー君のいる近く――に留めるように、小刻みな旋回を繰り返していた。
「なるほどなー」
と、セフィが訳知り顔でうんうんと頷いた頃になって、俺も気づいた。
いや、セフィは何となく雰囲気で頷いていた感があるのだが。
いつの間にか、ブリュンヒルドとゴー君たちによって、ワイバーンの群は誘導され、一定の空間に留まり続けているのだ。
そう、まるで誘惑林檎に殺到した時のワイバーンたちのように、密集した形に。
あれだけいたワイバーンたちは今や二つの群に纏められている。
そして、いつの間にか五ヶ所に別れていたはずのゴー君たちも、二ヶ所に集合していたのだ。
こちら側の手数が増えて、明らかにワイバーンたちは追いつめられている。激しい攻勢にさらされて、奴ら自身も気づかない内に、その高度は少しずつ下がっていた――すなわち、ゴー君たちが足場としている蔦と茨の網に。
そして準備が整ったのか、ブリュンヒルドとエイルから魔力が放散された。
おそらくはゴー君たちへの念話による指示。
茨と蔦のゴー君たちが、一斉に動き出す。
足場となっていた網が、高度の下がったワイバーンたちをまるで網の中に入った魚の群を引き上げるように、一頭も逃さず拘束してしまった。
網に捕らわれて塊となったワイバーンたちに、近接系のゴー君たちが一斉にミストルティンを突き込んだ。
同時、ブリュンヒルドたちも自らの持つ槍を勢い良く突き込む。
それらは当然のように変形した。すなわち、誘惑林檎の時の再現である。
無数の棘が内部からワイバーンたちを貫き出て、大量の鮮血が流れ出した。
「うわぁー! すごいねぇ!」
『熟練の漁師の技を見ているようだ』
あれだけいたワイバーンたちは、何と一頭も残さず殲滅されてしまったのである。
セフィはパチパチと手を叩きながら素直な称賛を表し、俺は見事と言う他ないブリュンヒルドたちの指揮と手際に感嘆の唸り声を漏らす。
ブリュンヒルドたち、ゴー君たちの実力には脱帽であった。
――ちょっと優秀過ぎね?




