第四話 幼女あらわる
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猛毒林檎でコロリしたゴブリンの死体と魔石を元手に、さらに猛毒を持つ果物を生成した。
だが、それを食べたのはゴブリンではなく角ウサギさんだったため、ゴブリンを毒林檎で仕留め、その死体を栄養に毒林檎を作り、さらにゴブリンを仕留め、その死体で毒林檎を作る――という夢溢れるループは呆気なく終わってしまった。
なぜなら角ウサギさんでは猛毒林檎を作れるだけの魔力を得られなかったからだ。
一応、角ウサギさんにも魔石はあったのだが、体の大きさがゴブリンと比べて小さいためか、魔石の大きさもそれに比例して小さく、得られる魔力も少なかったのである。
とはいえ、地面からの『エナジードレイン』と『光合成』を行える俺は、時間さえかければ無尽蔵のエネルギーを得られるに等しい。
せっせと光合成に励み、生命力や魔力を地下茎として蓄え、余裕ができれば猛毒林檎を生成して森の住民たちを仕留める生活が続いた。
もうすでに数えるのが面倒になってきたが、俺が自我を自覚してから30日ほどは経っただろうか。
レベルはすでに16レベルまで上昇し、マイボディの背丈は40センチ近い。
だが、さすがにレベルが高くなるほど上がりづらくなるのか、今ではゴブリン1体を仕留めただけではレベルが上がらず、『エナジードレイン』や『光合成』でも同様になっていた。
しかし、焦ることもないだろう。
これまた時間をかければ、自然とレベルが上昇する事は間違いないのだから。
なので、今日も今日とて『光合成』に励んでいた――時だった。
「~~! ~~!」
音。
鳴き声?
いや違う。
ソプラノというのだろうか。
高く澄んだ綺麗な「声」が、ひどく陽気なメロディを紡いでいる。
「言葉」ではなさそうだ。
意味のない音の連なり。
それは鼻唄とでもいうべきだろう。
誰の?
ゴブリンがこんな綺麗な声を発するはずがない。
ならばゴブリンではない。
俺にとっては、おそらく完全に未知の存在であるはずで、そいつが俺を害する可能性を否定できない。だから警戒心を抱くべきだと分かっているのに、警戒心の欠片もない、思わず脱力するようなメロディと声を聞いていると、警戒しようとも思えない。
敵じゃない。
根拠もなく本能でそう思った。
そして、その陽気なメロディの主はどんどんこちらへ近づいて来るようだ。
普段は視覚や聴覚を補完している『魔力感知』を、本来の役割に沿って働かせてみる。
すなわち、メロディの主の魔力を感じるように。
それは存外簡単に成功した。
メロディの主の魔力を触れるように観測する。
大きい。
俺自身やゴブリンなどよりも、余程大きく膨大な魔力を感じた。
だが、不思議と恐怖は覚えない。
温かい。
むしろ親しみを感じるような温かさを感じる。
声の主が薄暗い森の奥から、この小さな広場へやって来た。
柔らかな陽光に照らされて、その姿が露になる。
メロディの主は、まだ小さな子供だった。
陽の光を紡いだような細く艶やかな金色の髪。
透き通るように白いが、不思議と不健康さを感じない肌目細やかな肌。
翡翠色の瞳には無邪気で楽しげな感情が浮かんでいる。
幼くも整った顔立ちは、誰であっても無条件に心を許しそうなほどの愛らしさで。
独特な紋様が刺繍された若草色のワンピースに、厚手のズボンを履いている。
明らかに幼い少女だが、その年齢を俺は推測することができなかった。
前の俺は、たぶん人間だった。
そして少女――いやさ、幼女は、たぶん人間ではない。
彼女の金髪の下から伸びる、先の尖った長い耳。それを見た途端、今まで何度かあったように、とある単語が浮かび上がる。
あ、エルフだわコレ。
おそらく、前の俺はエルフとも身近な関係だったのだろう。
名称だけでなく、エルフが森の民と呼ばれることや、整った外見の者が多いこと、そして何より人間よりも寿命が長いという情報が、知識として浮かび上がってきた。
だからこそ、目の前のエルフ幼女が何歳なのか判別できない。俺の知識も完全ではなく、エルフの寿命は人間の2倍とする説から10倍とする説まで混在していて、どれが正しいのか俺自身にもわからないのだ。
だが、エルフ幼女の外見を人間として当てはめるなら、おおよそ5歳くらいの幼さであった。
そんな幼い少女が、なぜか右手に良い感じの長さの棒(木の枝だ)を持ちながら、こんな森の中を歩いている。
『魔力感知』で周囲を探ってみたが、同行者らしき存在は感じ取れない。
つまり、エルフ幼女は一人だった。
それを見て、俺は思わず――、
――危ねぇなぁ。親は何やってんだ。
そんな心配をしてしまう。
この森は角ウサギやゴブリン、それから鋭い角で何でも切り裂くイカれた鹿や巨大過ぎる熊まで生息する危険地帯なのである。
こんな幼子一人で歩くには、あまりにも危険すぎる場所なのだった。
だが、俺の心配などもちろんエルフ幼女に伝わるわけもない。
なのでハラハラしながら見守っていたのだが……。
――ん? 何か探してんのか?
突然、キョロキョロと周囲を見渡し始めた幼女に疑問を覚える。
幼女は何かを探しているようであった。
落とし物か、もしくは森の素材(薬草とか)を採りに来たのであろうか?
小さな広場をうろうろと歩き出す。しばらく探しても諦める様子はない。まるで探し物がここにあると確信しているかのようだ。
地面に視線を落とす幼女は敵ではなさそうだが、子供というのは何をするか分からないからな。いきなり意味もなく葉っぱとか千切られるかもしれない。
なので俺としては、早く探し物を終えて立ち去ってもらいたいのだが。
それに何より、今この時も森の魔物がやって来てもおかしくないのだ。目の前でエルフ幼女が悲惨な目に遭う光景を見たくはなかった。
――ここは危ないぞ、早く帰れよ。
無警戒にこちらへ背を向けているエルフ幼女に、そんな言葉を放つ。
とはいえ、ただの思考であり思念だ。空気を震わす声でもないから、聞こえるわけがなかった。
――ほっ?
――なのだが。
まるで俺の「声」が聞こえていたかのような絶妙なタイミングで、エルフ幼女がこちらへ振り向いた。
その翡翠色の瞳は、真っ直ぐにこちらを捉えていた。
――偶然?
まあ、単なる偶然だろうと結論を下す間にも、幼女はトコトコとこちらに近づいて来る。
そうして手を伸ばせばすぐに触れられる距離まで近づいて、幼女はその場にしゃがみこんだ。俺の背丈と同じ高さになった視線が、じぃ~っと動くこともなく向けられている。
幼女は徐々に徐々に、顔を近づけて俺を覗きこんで来る。
――ちょちょちょっ! 近い近い近い!
角ウサギに食われた時のトラウマがよみがえる。
この幼女も俺のことを食うのではないか。そういえばエルフは草食で肉は食わないと知識にあった。だからといって生えている草をそのまま食うほど野性味に溢れているとは思わなかったが、現実は俺の知識より奇なりである。
――俺は食っても美味くない! 腹を下すぞ!?
言葉が通じないとは無力である。
だがそうだ。俺には地下茎がある。いくら葉っぱや茎を食い荒らされようとも、死ぬわけではないのだ。
観念して力を抜いた俺(比喩的表現)は、けれど脱力した瞬間を狙ったように放たれた幼女の叫び(?)によって、思考に空白が生まれた。つまりびっくりしたってこと。
「わぁああっ!! ~~!? ~~!!?」
最初の叫びだけは聞き取れたが、あとに続く言葉らしきものは聞き取れない。
というか、俺の知識にはない言語のようだ。
推定エルフ語で捲し立てる幼女は、そのニュアンスからおそらくは何かを問うているようであった。それもたぶん、俺に、だ。
――いやいやいや、言葉わからねぇし。日本語でオケ?
とか何とか思ってみれば、
「にほ、ご? おけ?」
と、エルフ幼女は首を傾げる。
同時に幼女の発した言葉に、俺はしばし硬直してしまった。
その意味を理解してようやく、
――ぅおえええええええッッ!!?
俺の意識は硬直から立ち直った。
そして驚愕する。そりゃもうどえらい驚愕する。
こ、こ、こいつ……俺の言葉が聞こえてるぞ!!?