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第四十七話 森を行く


 ●○●



 セフィの魔法によって森の中に巨大な道が生まれていく。

 その巨大な道を、里を丸々載せて動く巨大な蜘蛛(みたいな外観)となった俺が、ゆっくりと進んでいく。


 ゆっくりとはいえ、今の俺は大抵の生物より遥かに巨大な存在だ。

 蠢く八本の脚が生み出す歩幅は広く、たぶん平地を行く馬車くらいの速度は出ているのではあるまいか。

 それにここ最近、ずっとこの姿で歩き続けているためか、八本の脚を操るのにも慣れてきた。その分、速度も最初の頃より多少上がっていると思う。


 さて。


 俺が進むのはヴァラス大樹海の奥地であり、まっすぐ北ではなく北西へ向かう道ではあるが、霊峰フリズスへ近づいて行くのには変わりない。

 霊峰フリズスは一般的に、魔素が濃いために生息する魔物が強いことで知られている。

 それはヴァラス大樹海の奥地であっても同じことで、進めば進むだけ遭遇する魔物の強さは上がっていくのだ。


 とはいえ、だ。


 今の俺の巨大さといったら、正直生物の範疇に収めて良いものか疑問を覚えるほどに巨大だ。

 周囲に生える巨木よりも遥かに背が高く、横幅はそれ以上に広い生物が歩いているのだ。

 森に住まう魔物と比べたら、その大きさの違いは巨大建造物と人間くらいの違いである。


 そんな圧倒的に巨大な生物を襲うような、馬鹿な魔物がいるはずもない。

 実際、里ごと移動を開始してから一週間、俺を襲うような命知らずは存在しなかった。


 だが、流石は魔境とも称される場所である。


 出発からちょうど一週間を過ぎた辺りであろうか。

 地を行く魔物たちは依然として俺を襲う事はなく、むしろ近づけば逃げていくものばかりだ。

 しかし、空を行く魔物は例外であるらしい。


 大空を悠々と泳ぐように飛翔するそいつは、俺を――いや、正確には俺の上に乗っている里、そこに住まうエルフや狼人族たちを見つけると、良い餌を見つけたとばかりに襲いかかって来たのである。


 その魔物の名前は「ワイバーン」と言った。


 竜としては小柄で細身な体格で、強さも属性竜と呼ばれる存在と比べればまだまだ弱い。

 竜の代名詞とも言える「ドラゴンブレス」を吐く事はできず、攻撃はもっぱら鋭い爪の一撃や噛みつき、長い尻尾の先にある毒針などで行う。

 長老が言うには、属性竜と比べれば可愛らしいものだとか。


 とはいえ弱いとはいっても、それは竜というカテゴリの中では――の話だ。

 飛竜種、または下位竜種と呼ばれるワイバーンの強さは、タイラントベアーすら餌とするほど。

 弱いわけがなかった。


『ワイバーンにはセフィの威光は効かないのか?』


 ワイバーンの襲来をいち早く察知したセフィは、俺の本体たる大樹の枝に登り、むむぅっと険しい表情で接近するワイバーンを睨んでいる。

 今は俺の一部となった里の大樹たちや、セフィの存在は周囲へ「忌避結界」と同様の効果を撒き散らすらしく、以前いた場所では上位の魔物が襲いかかって来ることはなかった。

 ワイバーンも間違いなく上位の魔物なので、「忌避結界」の効果は発揮されると思うのだが。


「うごいてると、あんまりきかない。おなじばしょにずっといると、すごくきくようになる」


 との答えが、セフィから返ってきた。

 どうにも忌避結界の効果は動くと弱まってしまうようだ。逆に同じ場所に留まり続けることで効果は強まっていく――と。

 ふむふむ。

 まあ、万能な結界があるわけもないし、それくらいの欠点は許容範囲である。


『なら、撃退するしかないわけか』


「うん! ……セフィがめっ! ってしようか?」


 セフィが自分が倒そうかと聞いてくる。

 どうやって「めっ!」とするのか興味がないわけではないが、セフィには俺が進む道を作り、通りすぎた後には道を元の森に戻してもらう役割がある。

 これだけでも普通なら相当の負担――というか、森神であるセフィでなくば不可能な御業であろう。

 幼女であるセフィにこれ以上の負担をかけるのは、流石に悪い。なので――、


『いや、一頭だけだし、俺が倒すよ』


 実はいつ戦闘になっても良いように、里の外周に生やしていた樹木を「筒」へと変化させているのだ。

 なので以前のように「ウォーターカッター」を放つのに長時間の準備をする必要もない。

 俺は向かってくるワイバーンに一番近い場所の「筒」を、筒に繋がった根を操ることで動かす。

 筒の先端に開いた穴――つまりは砲口を標的へ向けて照準し、鱗の一枚一枚が鮮明に見えるくらいまで引きつける。

 そして――、


「ギャアァオオオオウウッ!!」


 けたたましく咆哮するワイバーンへ超高圧の水流を放ち、それから両断するような軌道を描いた。


 ――ばづんッ!


 という音と共に、空を舞う巨体があっさりと両断される。

 大量の鮮血を撒き散らしながら落下するワイバーンの骸を、


『おっと』


 里の外周に生える茨を操り、慌てて森へ落下する前に回収した。

 ワイバーンの肉は食えるという話だったし、皮は防具に加工する事ができる――というか、竜種の体は捨てるところがなく、その全てが何らかの形で利用できる貴重品であるらしいのだ。

 なので、森へ放置してしまうのは勿体ない。


 いや、たとえ使い道がなくとも、俺の養分になるので無駄にはならないのだが。


「おお~! ユグ、おみごと!」


『ふっふっふっ! まあね!』


 セフィがパチパチと手を叩いて称賛してくれる。

 ワイバーンを一撃だなんて、我ながらなかなかの強さだと自負している。


 ちなみに回収したワイバーンは肉は食肉へ加工され、皮は鞣して色々な用途へ。牙と爪、毒針は武器の素材。毒腺と毒液、血と内臓の一部は薬の材料に、余った内臓と骨と魔石は俺の肥料になった。


 とまぁ、このように魔物が襲って来るとは言っても、ワイバーンの一頭や二頭ごとき敵ではない。

 なので俺たちは悠々と森の中を進んでいく。

 恐れるものなど何もないのだ。



 それから二日後。



『いやいや、多すぎだから』


「すごぉー、むしみたいにいる」


 北西へ向かって進めば進むほど、霊峰へ近づいて行くのは理解していた。

 だから出現する魔物も、その数も増えるだろうと推測していた。

 しかし、どうやら俺は、まだまだ霊峰フリズスという場所を舐めていたのかもしれない。


 空を見る。

 そこにはまさに、雲霞のごとく大量のワイバーンどもが飛翔していたのだ。

 一頭や二頭どころの話ではない。

 セフィが「虫みたい」と表現したが、まったく適切な表現だと思う。俺を中心にして空中を飛び交うワイバーンどもは、その数の多さから大量のバッタでも飛び交っているのかと錯覚するほどだ。

 実際にはバッタなどより遥かに巨大なワイバーンなのだが。


 恐れるものは何もない?

 誰だ、そんなこと言った奴は。


 とにもかくにも、放っておく事などできはしない。

 奴らは確実に俺――というか、里の住民たちを餌として狙っているのだから。


 こんなにもワイバーンが集まったのは、おそらく確実に、俺の姿が目立つためだろう。

 だからこそ、ここまで異常な数――おそらく100体以上――が集まったのだと思われる。

 とはいえ俺の巨体を隠すことなど出来はしな――くもないのか?


 幻惑結界を使って、俺の姿を一時的に隠すことは可能だろう。

 しかし、ここまでワイバーンどもに集られた状況でそうしても、ほとんど意味はない。奴ら完全にこっちをロックオンしてるしね。

 それに幻惑結界で姿を隠したまま歩くのも難しい。

 たださえ【生命力】【魔力】を消費しながら歩いているのに、加えて幻惑結界の消費は痛いどころではない。


 今のように魔物に襲われた時のために、各種エネルギーがカツカツな状態は避けたいところである。


「ユグ」


『ん?』


「セフィがすごい、めっ! ってしてあげようか?」


『ん~……』


 セフィが可愛らしく小首を傾げ、幼い子供特有の純粋な瞳で提案してくれる。

 魅力的な提案だ。

 なのだが、森神であるセフィの「すごい、めっ!」である。

 きっと可愛らしい感じにはならないのだろうな。


『いや、セフィの力はしばらく温存しておいてくれ。どうしてもダメそうなら、その時は頼む』


「かしこまり!」


 まだドワーフの里に辿り着いてはいないのだ。

 この先も魔物は強くなるのだろうし、今から頼っていては、いざという時にセフィの魔力――ではなく、体力が枯渇している、という事にもなりかねない。

 無尽蔵の魔力を持つセフィではあるが、その体力は普通に幼女並みでしかないのだ。


『とはいえ……』


「ウォーターカッター」を放つために予め用意しておいた「筒」は八本。

 里の外周に等間隔で配置している。

 それらの全てを稼働させつつウォーターカッターを放ち続けているが、ワイバーンどもは怯む様子も逃げ帰る様子もない。

 すでに十数頭は倒しているのだが、何だか減ったような気もしないのはどういう事だろうか。


 ウォーターカッターの牽制のお陰か、まだ里への被害は出ていないが、それも時間の問題だろう。

 というか、俺の魔力の消費が大きすぎるし、ウォーターカッターもずっと撃ち続けられるわけじゃない。


 相手が空を飛んでいなければ、狂戦士たちを全解放すればどうにでも出来るのだが。

 やはり空を飛ぶ敵というのは、厄介さが段違いである。


「主様、私たちにお任せくださいませ」


「こういう時のための、私たち。主様はもっと頼るべき」


 と、空を飛んでブリュンヒルドとエイルの二人がやって来た。

 彼女たちの表情に悲壮感はなく、むしろ自信が溢れているが……。


『いや、でも、二人で大丈夫なのか?』


 対するワイバーンの数が問題だ。

 とても二人でどうにか出来る数ではないと思うのだが。


「流石に二人だけで蹴散らせるとは、考えておりませんわ」


「ゴー君たちにも、協力してもらって良い?」


 現在、狂戦士にならずに残っているゴー君たちは十数体しかいない。

 しかも空を飛べるような能力を持った個体は皆無だ。


『それは構わないけどさ……』


「ありがとうございます。では、主様とセフィちゃんは、こちらで観戦していてくださいな」


「じゃあ、行ってくる」


「ふたりとも、がんばってねーっ!!」


 セフィの言葉に手を振り返した二人は、気負う様子も見せずにワイバーンたちへ向かって飛翔した。

 ブリュンヒルドたちが負けるとは思わないが、数が数である。

 どうするつもりかと、俺とセフィは見守る事にした。


 そして――。


 俺は俺が思っている以上に――いや、異常に成長しているゴー君たちの実力を、目にする事になるのである――。




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― 新着の感想 ―
[一言] 大量の経験値が襲ってきてレベル上げのチャンスだね♪
[一言]  空戦仕様のゴー君はつくらんのですか?
[一言] 本体視点か!
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