第三話 美味しいだけじゃない。敵も倒せる果実です。
読んでいただきありがとうございます!
こりゃ頑張るしかねぇ!o(`^´*)!
●○●
スキル『種子生成』を使ってみる。
何となくだが、イメージしたのは林檎だ。
甘い果肉に包まれた種。シャリシャリとした小気味良い食感。
生命力と魔力が消費されてから、そういや草が林檎とか実らせるわけないよな、と気づいたが、スキルは既に発動した後だった。
途端、マイボディの先端のほうからむずむずとした感覚が生じた。
最初は単なる草にしか見えなかった俺のボディだが、レベルが上がった影響か、あるいは単なる成長のおかげか、今では中心部分に立派な茎を備え、そこから何本もの枝葉を伸ばした姿をしている。
それは草というよりも盆栽……までは行かないものの、ミニチュア版の木に見えなくもない姿をしていた。
俺の知識によればヨモギという草も月日を経ると硬い茎を備えて、上へ上へと成長したはずだ。
単なる草と思われた雑草が、いざひと夏成長してみると、いつの間にか小さな木のようになっている。
そこまではまだ成長していないが、今の俺は食用には適さなくなったヨモギくらいには大きく成長した姿なのだ。
……いや、ちょっと分かりにくいかな?
ともかく、体高にして30センチくらいある立派な雑草が俺だ。
そんな俺が伸ばす枝(と言って良いのだろうか?)の先で、みるみる内に蕾が生まれ、花が咲き、種を包む果実が生じて成長していく。
瑞々しくも張りのある赤い果皮に包まれた林檎が生まれた。
俺が実は林檎の木であるという可能性も完全に否定することはできないが、おそらくはそうではなく、イメージ次第で色々な実を生成する事ができるのだろう。何となく、本能的に? そんな感じがするのである。
まだゴブリンの死体からもエネルギーを吸いとれそうだし、色々と実験をしてみるのも良いだろう。
とはいえ――、
お、重い……!!
立派な林檎を実らせるには、マイボディはまだまだ小さいと言えよう。
枝の先に実った林檎の重量につられて、全体がしなるように曲がってしまう。抵抗するように力を入れる事は可能だが、どうやら歩く時よりも多くの生命力を消費している感覚がある。かといって力を抜けば、茎が折れそうな予感もする。
このままでは動くのもままならないので、なんとか林檎を切り離せないか――と考えてみれば、
ぽとり。
と、呆気なく切り離すことができた。
俺は安堵に胸を撫で下ろし――いや胸はないけどね。そういう心境だと言いたいんだ。
ともかく。
『種子生成』が問題なく使える事は確認できた。
あとは別の果実や木の実などを生成できるか、消費する生命力や魔力はどうなるかを調べていこうと思う。
実際に使ってみた手応えとしては、何かイメージ次第で色々できそうな気がするんだよね。
●○●
で。
それから数日。
ゴブリンの死体から『エナジードレイン』で色々吸い上げつつ、色々作ってみた。
甘さの中にほのかな酸っぱさがある蜜柑。
キラキラとルビーのように煌めく大粒の苺。
目にも鮮やかな黄色と完熟した甘い匂いを漂わせるバナナ。
一口噛めば口の端から果汁が溢れ出るだろう、瑞々しい桃。
ねっとりとした食感に濃厚な甘さを持つマンゴー。
同じくねっとりとした食感に上品な甘さの洋梨。
とにかく思い付く限りに作ってみた。
全部作れた。
果物と見せかけて実は野菜である苺も、小ぶりなスイカもメロンも、キュウリも茄子も栗も胡桃もドングリも――それが果物であるとか野菜であるとか木の実であるとかは関係なく、種子の入っているもの、あるいはそのものであれば、俺の知識にある限りのものがすべて作れたのである。
中々に応用範囲の広いスキルであると言えるだろう。
いや、果物とか作っても俺は味わえないからアレだけど、子孫を残すという目的に絞れば、かなり有用なのではないか。
そして――これだけではない。
無数に生み出した果実やら木の実やら野菜やらは、当然、重量が大きいために作った端からリリースしている。
周囲に散乱したそれらは、森の動物たちが拾って食べていたのだが……最近では果実がないのに俺の周辺をうろうろと探し回る角ウサギやらリスもどきやらが多くなってきた。
どうやら、ここに来ればエサにありつけると学習してしまったのかもしれない。
そんな動物たちを見て、俺はふと思った。
知識の中にある既存の果物などは作ることに成功した。
ならば、それらを俺に都合の良いように改良し、新たな果実などを生成できないか――そう考えたのである。
とはいえ、今のところどうしても子孫を残したい、繁栄したい! という思いは希薄だ。
なので種を確実に発芽させられるような改良ではなく、どうにか栄養を得るために使えないだろうか?
具体的には毒だ。
毒性を持つ植物は数多い。
ウサギさんにも食べられるマイボディに強力な毒性があるとは思えないが、スキルによって作ることはできるのではないか。
『種子生成』を意識しながらイメージしてみれば、何だか出来そうな手応えが返ってきた。
だが、生命力よりも魔力を多く消耗しそうな感じである。
毒性を高めれば高めるほど、変化を強めれば強めるほど、より多くの魔力を必要とするようだ。
今の俺のステータスはこうだ。
【固有名称】なし
【種族】ウォーキングウィード
【レベル】11/20
【生命力】33/33
【魔力】22/22
【スキル】『光合成』『魔力知覚』『エナジードレイン』『地下茎生成』『種子生成』
【属性】地
【称号】『考える草』『賢者』
【神性値】0
最初の頃に比べればだいぶ魔力も成長しているし、地下茎に蓄えた分もある。
とはいえ、いざという時に備えて貯蓄を減らしたくないというのは、これもはや生物の本能。
なるべくならば地下茎には手を出したくないのだが、どうにも俺の求める「改良」を施すには、素の魔力だけでは足りそうにない。
なので「とっておき」を使う事にした。
今では干からびてカピカピになり、大地に還る寸前といった風情のゴブリンの死体。
その体内に根を伸ばしていたら、心臓の辺りで見つけたものがあるのだ。
それは見た目、小さな黒い石の塊である。かといって胆石とか結石みたいな物ではない。表面は黒曜石みたいにツルツルしているし、何より『エナジードレイン』をした時に大量の魔力が流れ込んで来たのだ。
前の俺はゴブリンが身近な存在であったようだから、すぐにピンときた。
俺の知識に合致する名称が瞬時に浮かび上がってきたのである。
あ、魔石だわコレ。
もしかしたら何かに使えるかもと、魔石から全ての魔力を引き出さずに残しておいたのだ。
それを今こそ使うとき!
俺は『エナジードレイン』で魔石から魔力を吸い上げつつ、『種子生成』で目的の果実を作る。
周囲に漂うのは芳醇な甘さを思わせる香りであり、嗅げば思わず食べたくなるような匂い。
そして林檎の実自体には、できる限り強力な毒を蓄積させる。
毒と一口に言っても色々ある。具体的にどんな毒が良いのかイメージしなければならない。ならばすぐに効果が確認できるようなものが良いだろう。
速効性があり、神経系を麻痺させ、呼吸困難から死に到らしめるような毒。
伸ばした根の先で、ゴブリンの魔石(仮)が粉々に砕け散る。
俺の持つ全魔力を消費しても、まだ足りない。
地下茎に蓄えた魔力も吸い上げ、じゃがいものような地下茎二つ分を消費したところで、ようやく目的の果実が生成された。
それは林檎だ。
毒林檎である。
白雪姫(どちら様?)も一口でコロリな猛毒林檎である。
当然、重いのですぐにリリース。
落ちた林檎はコロコロと転がり、すぐに止まった。
俺はしばらく様子を見る。
角ウサギさんやリスもどきちゃんを実験台にするのは心苦しいが、この周辺を主な棲み処にしているらしいのが彼らなのだ。
すまぬ。君たちの死は無駄にはしないから――などと思っていると、辺りに漂う香りに誘われたのか、さっそくこの場に近づいて来る気配を感じた。
森の奥から現れたのは――、
「ギャッギャッ!」
――おめぇかよ!
ゴブリンだった。
いやまあ、むしろ好都合だけども。
「ギャ? ギィっ!」
ゴブリンは地面に転がる林檎を見つけたらしい。
喜びの声をあげて駆け寄って来る。それから警戒感などまるで無い様子で林檎を拾い、むしゃり、と大口開けてかぶりついた。
しばし――むしゃむしゃとゴブリンが林檎を咀嚼する音だけが響き、
「ギャっ!? ギィ……!」
突然びくりっと体を震わせたゴブリンは、手にしていた林檎をボトリと落とす。
それから苦悶の表情を浮かべて喉を抑えると、そのまま膝をついて倒れ伏した。
びくんっびくんっと痙攣するゴブリン。
その動きが徐々に弱くなってきて。
――お?
俺は体の奥底から活力が湧き出すような感覚に驚いた。
もしかして、と思いステータスを確認すると、案の定レベルが一つ上がっていたのだ。
おそらくだが、あの毒林檎でゴブリンを倒したことで経験値的な何かを得たのだと思う。光合成や『エナジードレイン』をするだけでなく、やはりモンスター的な存在を倒すことでもレベルは上がるようだった。
いや、むしろレベルの上げ方としてはこちらが王道なのかもしれないが。
ともかく。
少々予想外に魔力を消耗してしまったが、『種子生成』が能動的な栄養摂取に役立つ事も確認できた。
まあ、消費する魔力が多すぎるので、そう頻繁には行えないのだが。
だけど、もう一回くらいはできるかな?
俺は倒れ伏し、息絶えたゴブリンのもとへ移動すると、彼の体に根を這わせた。
『エナジードレイン』を発動する。
――君の死は無駄にはしない!