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第三十六話 眷属のお姉さん


 ●○●



「あ!」


 と声をあげたのはセフィだ。

 セフィは空中に浮かぶ二人の女性の内、片方を指差して、


「セフィのおうちのせいれいさんだ!」


 と言ったのだ。

 それに俺は、やはり、と内心で頷いた。

 予想はしていたから驚きはな――いや無いわけないんだけどね。

 いきなり成長し過ぎだろ。


「まあ!」


「セフィちゃんだ」


 彼女たちは眼下にセフィを見つけると、柔らかく微笑みながらスーッと音もなく下へ降りていく。

 そうしてセフィの目の前、地面の上にトンッと足音軽く着地した。


「こうしてお話するのは初めてですわね、セフィちゃん」


「いつも私たちに力を分け与えてくれて、ありがとう」


 力を分け与えて――というのは、おそらくセフィの「おうえん」の事であろうか。

 別に魔力以外に、セフィの何かが減るわけでもないのだが。

 確かに「おうえん」された方からしてみれば、力を分け与えられているという認識にもなるかもしれない。


「ふふーん!」


 セフィは胸を張ってドヤ顔を浮かべた。


「どういたしまして!」


「これからもよろしくお願いしますわね」


「私たちも、これからはセフィちゃんに恩返しできるよ」


「おきになさらず! セフィのおしごとなので!」


 手のひらを向けてびしっと言うセフィ。

 たぶん、どこかで覚えた言葉を言ってみたかっただけだと思うが、二人の女性は額面通りに受け取ったらしい。「そんなわけにはいきませんわ」とふるふると首を横に振ってみせた。


「私たちも主様のおかげで、樹精霊の戦乙女ドライアド・ヴァルキリーに進化することができました。これからはセフィちゃんや皆さんのお力になれると思いますわ」


「こう見えて私たち、なかなか強いと思うよ? 実戦はまだだけど」


「おー、たしかになー。つよそー」


 と、セフィが頷く。

 外見からして凛々しい美女なので、弱くは見えないのは確かであろう。おまけに空を飛ぶ事もできるっぽいし。


 しかし「樹精霊の戦乙女」か。

 ヴァルキリー……確かに、俺の「知識」の中にあるヴァルキリーっぽい外見だ。

 そんな種族もあるんだな。精霊という割には、今の二人は実体があるように見える。彼女たちがどんな存在で、どんな能力を持っているのかも、追々確かめていかねばならないのだろうな。


 まあ、それはともかく。

 二人の強そうな感じに納得したセフィは、きりりっと顔を引き締めて告げたのだ。


「じゃあ、ふたりを、さとのぼーえーたいちょーににんめーします!」


『両方とも防衛隊長になってるぞ、セフィ』


 指揮系統が乱れそうな任命である。


「いいの! たいちょーがふたりなら、にばいつよいでしょ!」


『その理屈はおかしいが、まあ……良いか』


 部下ができるわけでもないし、厳格な組織があるわけでもないしな。

 二人もその事はわかっているのか、特に何を突っ込むでもない。

 柔らかい微笑みを浮かべたまま、恭しくセフィに一礼する。


「うふふ、その任、よろこんで拝命いたしますわ」


「里の防衛隊長として、頑張るよ」


「うん! よろしくね!」


 と、話が綺麗に纏まったところで、俺は本題に入る。


『いや、っていうか……君ら、里の大樹に宿ってた微小精霊だよね?』


 一応、念のために確認する。


「ええ、元々はそうですわ」


「今は進化して成長したよ」


 二人は頷く。

 ここまでは予想通りだ。

 さらに問う。


『もしかして、俺の眷属になった感じ?』


「ええ、もちろんですわ」


「主様に忠誠を」


 うむ。

 進化の時に画面で告げられた眷属は、これも予想通りに彼女たちで間違いないようだ。

 色々と言いたい事がないわけではないのだが、今さら言っても詮ない事だろう。ならば前向きに事実を受け止めて、彼女たちの力を有効に活用したい。

 となれば、まず最初にするべきなのは……、


『そういえば、まだ名前ないんだよな?』


 名付けしろと言われている事だし、名前がないと不便でもある。

 ここは俺が名前をつけてやるべきだ――、


「なまえないの? じゃあ、セフィがつけてあげるね!」


 ――と思ったところで、セフィが当然のように言った。

 なんでだよ!? と言いたいところだが、セフィのネーミングセンスは意外と悪くない。

 ここは目をキラキラさせているセフィに任せてみるか。まあ、変なやつだったら却下すれば良いだけの話だしね。


『うむ、じゃあ、セフィ君』


「あいあいさー!」


『彼女らに良い感じの名前、考えてみてくれる?』


「かしこまり!」


 びしりっと敬礼したセフィに、ヴァルキリー二人も拒否する様子はない。むしろ何かを期待するような楽しげな表情を浮かべて、セフィが考えるのを待っていた。


「うーんと、じゃあねぇ……こっちのせいれいさんが、ブリュンヒルドでー」


 と、二人の内、髪が長く大人っぽい外見のヴァルキリーを指差す。


「こっちのせいれいさんは、エイル!」


 髪が短めの、どことなくボーイッシュな印象を受ける方にそう告げる。

 二人の表情からすると、悪くはなさそうだ。

 どういう理由で付けた名前なのかは分からないが、俺も良いと思う。

 少なくとも、俺が考えていた「ヴァル子」と「ヴァル美」よりは100倍マシかもしれない。特に理由はなく、本当に何となくだが、俺の案は黙っておこうかな……。


『ふむ……二人とも、どうだ?』


 と聞いて見れば、


「ええ、セフィちゃんにいただいた名前、とても気に入りましたわ」


 と、ブリュンヒルドが微笑み、


「主様が良ければ、この名前をもらいたいと思う」


 と、エイルが頷いた。

 俺にも異論はないので、二人の名前はセフィの案を採用する事にする。


『じゃあ改めて、ブリュンヒルド、エイル、これからよろしくな』


「よろしくねー!」


「はい、よろしくお願いいたします」


「頑張る」


 にこやかに頷くブリュンヒルドと、意気込むエイル。

 新たに二人の仲間が加わって、里も賑やかになりそうだった。

 そして傍らで話の成り行きを見守っていた長老が、集まった皆に聞こえるように告げる。


「ふむ……話も纏まったところで、疲れている者も多いことですし、今日はもう休みますかな」


『そうだな。さすがにもう、今日のところは襲撃者も来ないだろうし』


「きてもセフィがおしえてあげるよ?」


『俺も一応、里の周囲をちょこちょこ確認しておくし、問題ないだろ』


 そうして、ようやく今日という一日が終わる。

 たった一人の人族に予想外の苦戦を強いられて、なかなかにヒヤヒヤする一日だったが、無事に終わって良かった。

 皆もどこかほっとした様子で解散しようとして――、


『――って、ちょっと待てい!』


 俺は慌てて皆を呼び止めた。

 そういえば、まだ俺の新たなる姿をお披露目していないじゃないか、と。


「どしたのー?」


「どうされましたかの?」


「何かあったっすか、精霊様?」


『ふっふっふっ! まあ、ちょっと待ってくれ』


 不思議そうに振り返るセフィたちに不敵に笑い、俺は進化して得た、新たなる力を行使する。

 無論、『精霊化身』のスキルである。


『今まではまんま雑草とか木の姿しかなかったが、新しい姿を手に入れたんだぜ?』


「あたらしい、すがた……」


 考え込んだセフィは、思い当たる事があるのか、すぐにハッとして顔を上げた。


「まさか、へんしん!? ユグ、へんしんするの!?」


『いや変身はしねぇけど』


「なんだー……」


 残念そうに呟くセフィ。

 だが、これを見ても同じ事を言えるかな?

 俺はスキルを発動させ、精霊としての姿を化身させる――!


『これが俺の、新しい姿だ――!!』


 そして俺の本体たる大樹が、一際眩く輝いた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 申請が3体分だったからゴー君達が進化したのかと… 小精霊達は言葉の分け方的に4体あると思ってた
[一言] 9話で本人(本草?)が >「くさ」とか「わらわらわら」とか適当過ぎる名前を付けられたら末代までの恥である。 とか思ってるのに、自分以外への名付けには「ヴァル子」とか「ヴァル美」とか適当すぎる…
[良い点] >ヴァルキリー……確かに、俺の「知識」の中にあるヴァルキリーっぽい外見だ。 むしろユグの「知識」に引っ張られてその外見になったのでは?
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