第三十五話 なんか吸われたんですけど
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ありがとうございます!(о´∀`о)
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俺自身のみならず、地下で繋がったエルフの里すべての大樹たちが鳴動する。
体の奥底から力が湧き上がって来るような感覚、自らが作り変えられていくような感覚。
けれどそれは、決して不快な感覚ではない。
存在の格が幾段も上昇するようなそれは、むしろ俺に全能感すらもたらし――、
『【固有名称】『――』が干渉しました。
【神性値】を「50」消費して進化および位階上昇します』
――はえ?
もしも俺に両目があったなら「目が点」という状態になっていただろう。
唐突に視界の中央に表示された文章に、感じていた全能感など吹き飛ぶ。
なぜならば、文章に表示され、消費された【神性値】が誰のものか理解してしまったからだ。
俺の中にあった何かが抜けていくような――いや、吸い取られていくような感覚があったのだ。
そしてそれは一度だけではなかった。
『【固有名称】『――』が干渉しました。
【神性値】を「50」消費して進化および位階上昇します』
『【固有名称】『――』が干渉しました。
【神性値】が不足しています。
還元可能な【称号】がありますが、基準値に満たないために還元は却下されました。
【固有名称】『――』の進化は保留されました』
『【固有名称】『――』および【固有名称】『――』の進化、位階上昇を開始します』
――ちょちょッ!? なんだそりゃ!?
次々と文章が流れていき、俺がこれまでに溜め込んだ【神性値】が勝手に消費されていく。
しかも俺から拒否することもできないってどういうことだ!?
正直めちゃくちゃ焦っていたが、もうすでに【神性値】は消費された後だ。
すべては遅く、俺の進化は何事もなかったかのように進行中。
しかも、文章はこの期に及んでまだ続く。
『【固有名称】『――』および【固有名称】『――』は、【固有名称】『ユグ』から【神性値】の譲渡を受けたことにより、【固有名称】『ユグ』の眷属化します。
名称未設定のため、上位者『ユグ』が名称を設定してください』
いや……あの……そういうの、後で良いですかね!?
いま進化の途中なんですけど!?
『【固有名称】『ユグ』の意思を確認しました。
眷属に対する名称設定を一時保留します。
名称設定に際しては、思念入力等は不要です。
各個体に決定した名称を告げてください』
……あ、はい。
なんか予想外に回答が返って来て困惑するぜ。
あなた誰なの? いつもお世話になっておりますが。
いや、ていうか、なんなの?
なんなのー?
俺の困惑をよそに進化は進行していく。
里の全ての大樹がゆっくりと巨大化していき、外周を囲む茨の壁もその高さと厚みを増していく。
俺の本体たるマナトレントだった樹木も太く太く、高く高く成長していき、その大きさは遂に里に存在するどの大樹よりも上になる。枝の先で繁る木の葉の一枚一枚が不思議な光沢を宿していく。
里全体にキラキラとした光の粒子が舞い飛び、至るところに吊るされたマリモたちがいつもより強烈な光を放つ。
――っていやなんでだよ!?
マリモは関係ねぇだろマリモは!
などと、どうでもいい突っ込みを入れている内に進化は完了してしまった。
見た目的にはさほどの変化もない。
ただただ全てが大きくなり、さらに俺の本体が里の中でも最も巨大な大樹へと成長してしまった事――くらいだろうか?
あと何か、これは本体だけなのだが、樹木の全体からキラキラと神々しい光を放っている。
それは強烈な光というわけではないが、淡く神秘的な光だった。
「ユグー! だいじょぶー!?」
本体の根本の方で、セフィが上を見上げながら叫んでいた。
いや別に、里の中なら視点をどこにでも移せるから、上に向かって叫ぶ必要はないのだが、なぜか里の住人たち全員が大樹となった俺を見上げていた。
『ああ、大丈夫だ!』
と、きっぱり答えようとしたところで、先ほど【神性値】を勝手に消費された事を思い出す。
『……たぶんな』
致命的な問題というわけではないはずだから、大丈夫だと思うんだ。
自信なさげに付け足した言葉は、幸いなのか誰も聞いてはいなかった。
俺はさっそくとばかりに、進化した己のステータスを確認してみる。
【固有名称】『ユグ』
【種族】精霊森樹・エレメンタルフォレスト
【レベル】1/80
【生命力】2420/2420
【魔力】3991/3991
【スキル】『光合成』『魔力感知』『エナジードレイン』『地下茎生成』『種子生成』『地脈改善』『変異』『結界』『同化侵食』『精霊化身』『分霊生成』『精霊ノ揺リ籠』『魂無キ狂戦士ノ館』
【属性】地 水 光
【称号】『賢者』『ハイエルフの友』『エルフの里の守護精霊』『人気者』『武器製造の匠』『精霊の友』
【神性値】14
【スキル】『同化侵食』
【解説】自らの一部が触れる。対象が植物である。高度な意識、自我を持たない。以上の条件を満たした場合、その植物を自らの一部とし、同化する事ができる。ただし、無制限に己を広げれば、己を見失う可能性も考慮しなければならない。
【効果】接触した植物と同化することができる。
【スキル】『精霊化身』
【解説】己の【生命力】【魔力】を分け与え、精霊としての姿で化身する事ができる。また、依り代があれば化身を宿すことで支配・操作する事ができる。化身が消滅しても本体に影響はないが、化身の生成に使用された【生命力】【魔力】は失われる。また、『憑依』スキルは『精霊化身』へ統合されている。
【効果】精霊体で化身する。
【スキル】『分霊生成』
【解説】【神性値】「10」を消費することで、自らの記憶、意識を複製した分霊を生み出す事ができる。しかし分霊の維持には自我のない依り代を必要とし、分霊が経験した記憶・情報は分霊を本体に統合しなければ知る事はできない。分霊を本体に統合しても、消費した【神性値】は還元されない。
【効果】【神性値】「10」を消費して分霊を生み出す。
【スキル】『精霊ノ揺リ籠』
【解説】あなた自身の領域において、精霊の発生、および成長が促進される。また、自ら【神性値】を分け与えることによって、位階の上昇を強制し、対象を眷属とすることができる。しかし対象が拒否した場合は無効となる。
【効果】近くに存在する精霊の成長促進、および新たな精霊の発生を促す。【神性値】を消費する事で眷属化する事も可能。
【スキル】『魂無キ狂戦士ノ館』
【解説】あなた自身の領域において、あなた自身が生み出した人形を自在に格納、解放することができる。一度格納されたゴーレムは「戦士」として形を得る。しかし、今はまだ魂を持たない人形にのみ限定されている。戦士たちはあなたに忠実で死をも恐れないが、魂無き故にエインヘリヤルとしての力は発揮できない。真のエインヘリヤルへ至るかどうかは、あなた次第である。
【効果】自身の生み出したゴーレムを自らの領域に格納し、また自由に解放する事ができる。
新たに得たスキルの効果は、こんなところであろうか。
あとは属性に「光」が追加され、地味に【称号】の『エルフの里の守護霊樹』が『エルフの里の守護精霊』へ変わっていたりした。しかし、得られる効果に変化はほぼないようだ。
……うむ。
前回の進化以上に、色々と検証が必要だろう。
【解説】を読んでも、よく分からないスキルがいっぱいである。
ともあれ、新たに得たスキルは五つ。属性も1つ追加されて、検証するべき項目は多い。
これは時間をかけて、どのような能力か探っていくほかないだろう。
しかしまあ、とりあえず発動してみたいスキルがある。
『精霊化身』だ。
どんな姿の化身となるのか、めっちゃ気になるじゃんね。
人間的なのか、そうじゃないのかすら想像できんぞ。
まあ、悩んだところで答えは出ない。百聞は一見に如かずとも言う。
とりあえず発動してみるか――と決断したところで、
「主様、この度は進化、おめでとうございます」
「そして、お初にお目にかかります」
『――え?』
聞いた事もない、声が響いた。
声の主は2名。
見た目は人族の女性というべきか。外見で判断するならば、20歳になるかならないかくらいの見た目で、両者とも鮮やかな緑色の髪と瞳をしていた。肌は透き通るように白く、華奢な体つきをしている。しかし不思議と弱々しい印象は受けない。軽鎧を装備し、長剣を腰に差した姿が何とも様になっていたからだろうか。そんな彼女たちの顔立ちはエルフと見紛うほどに整っていた。
しかし、彼女らが人族や、ましてやエルフでもない事は一目瞭然だった。
いつの間にか俺の「目の前」――当たり前のように空中に浮かんで、こちらに微笑みを向けていたからだ。
「「我ら主様の眷属2名、これより末永くよろしくお願いいたしますね、ウフフ」」
そう言って悪戯気な微笑みを浮かべ、深々と頭を垂れる。
思い当たる節はもちろんあるのだが、以前の印象とはまるで違って、俺は少々混乱していたかもしれない。
いやだってめっちゃ美人だし?
『……え? ……お姉さんたち、誰?』




