第三十四話 進化第二弾
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ついに2度目の進化の時が訪れた。
進化を拒否する理由は何もない。
ゆえに、『はい』を選択するのは確定なのだが、その前に現在の俺のステータスを確認しておこう。
【固有名称】『ユグ』
【種族】霊樹・マナトレント
【レベル】50/50
【生命力】1455/1455
【魔力】1848/1848
【スキル】『光合成』『魔力感知』『エナジードレイン』『地下茎生成』『種子生成』『地脈改善』『変異』『憑依』『結界』
【属性】地 水
【称号】『賢者』『ハイエルフの友』『エルフの里の守護霊樹』『人気者』『武器製造の匠』『精霊の友』
【神性値】214
【称号】『精霊の友』
【解説】あなたは精霊と友好的な知己を得た。真摯に接すれば、他の精霊からも好意を得やすくなるだろう。また、願えばその力を貸してくれる精霊が現れるかもしれない。契約精霊となってくれるかは、あなたの努力次第である。
【効果】精霊からの好感度上昇。
【称号】の『精霊の友』については、里の大樹たちと同化した時に得ていた。
この【称号】による恩恵とは少し違うかもしれないが、微小精霊たちの力は、実は今も貸してもらっている状態だ。
というのも、大樹と同化した時点でステータスの【生命力】【魔力】の値は変わらなかったのだが、実質的には大樹たちからこれらのエネルギーを分けてもらっている状態にある。
大樹たちが光合成などで得たエネルギーを一旦俺を経由することで、地下茎として蓄えることも可能となっているのだ。
元々大量の地下茎を備蓄しておくのは俺の習性みたいなものだから、ステータス上の【生命力】【魔力】よりも、扱えるエネルギーが多いのは今さらではあるのだが。
ともかく、まあ、確認もしたところで、俺は表示された選択肢から『はい』を選択した。
『セフィ! 皆! 今から進化するからちょっと下がってくれ!』
そうして、広場に集まっている者たちにそう指示をする。
里中の住民たちが集合しているから、広場は今、ちょっとしたお祭り騒ぎ状態になっているからだ。
進化して俺がどう変わるのかはまだ分からないが、いきなり巨大化する可能性も否定できない。それに巻き込まれたら危険かもしれないからな。
「ふぉおお~! ユグ! 進化するの!?」
「おやおや、それは、めでたいですのぅ」
「この前進化したばかりなのに、もう進化するんすか。はえー」
セフィ、長老、ウォルのみならず、住民たちは俺の本体を見上げてざわめき出す。
それぞれの言葉を拾ってみると、どうやら「進化」という現象を実際に目の当たりにする機会は少ないらしく、なんだか珍しいものが見れるという事でテンションが上がっているらしい。
注目されるのは嫌いじゃないが、今はそういう時じゃない。
『いやそういうの良いからマジでちょっと早く離れてっ!』
「は~い」
セフィたちがゆるく頷き、ぞろぞろと俺から距離を取る。
それでようやく俺は、視界の中央に表示される画面に意識を集中することができた。
そこにはいつぞやのように、幾つもの文字が流れている。
『進化が選択されました。
【種族】〈霊樹・マナトレント〉は【種族】〈霊樹・フェアリートレント〉へ特殊進化します。
【神性値】の保有を確認しました。
【神性値】「100」を消費することで、特殊進化〈霊樹・フェアリートレント〉の位階上昇が可能です。
【称号】を確認しました。
特殊進化条件を満たしました。
【称号】『賢者』『精霊の友』の保有により〈樹精霊・エレメンタルワイズマン〉へ進化可能です。
【神性値】の保有を確認しました。
【神性値】「100」を消費することで、特殊進化〈樹精霊・エレメンタルワイズマン〉の位階上昇が可能です。
【称号】を確認しました。
特殊進化条件を満たしました。
【称号】『ハイエルフの友』『エルフの里の守護霊樹』の保有により〈森霊・フォレストガーター〉へ進化可能です。
【神性値】の保有を確認しました。
【神性値】「100」を消費することで、特殊進化〈森霊・フォレストガーター〉の位階上昇が可能です』
三つの進化先が提示される。
すでに特殊進化しているからだろうか。
今回は、すべての分岐が特殊進化のようだ。加えて【神性値】を消費して位階上昇可能なのも同様。
そして以前のように、どの進化でどのようになるのか、大まかだが理解できる。これは「前の俺」の知識とは違い、たぶん選択のために与えられた情報なのだろう。
それぞれを俺が何となく理解できる範囲で説明すると――、
「霊樹・フェアリートレント」は、そのままマナトレントの正統進化とでも言うべき性能だ。
本体の樹木はあまり強化されないが、妖精としての化身を生み出し、自由に行動することができる。魔力や魔法も、おそらくは強化されるだろう。
「樹精霊・エレメンタルワイズマン」は、完全に物質としての体を失い、精霊化する。
おまけに属性も地属性に限定され、魔法も「植物魔法」しか使えないが、代わりに威力は凄まじく強化されるだろう。まさに自然の一部を司る精霊といった感じで、幅広い対応力には欠けるが、魔法による攻撃能力は一番高い。
「森霊・フォレストガーター」は、進化したばかりだと強化はほとんどない。
しかし『同化』というスキルを持ち、俺が大樹と同化したように、他の木々と同化して巨大化することができる。それこそ森1つを俺自身にする事も可能だろう。
時間さえあれば、めちゃくちゃ強くなれそう。
だが、俺はこのどれも選択しない。
なぜなら文章はまだ続いているからだ。
『【称号】『ハイエルフの友』『エルフの森の守護霊樹』『精霊の友』を確認しました。
実体の特殊変異を確認しました。
精霊の同化を確認しました。
【神性値】の保有を確認しました。
【神性値】「100」を消費することで、特殊進化〈エレメンタルフォレスト〉への進化、および位階上昇が可能です』
特殊進化の条件が最も難しい進化先が、これだ。
そしてその能力も、条件の困難さに比例するように最も高い。
おまけに「エレメンタルワイズマン」のように実体を失う心配もない。
ならば迷う必要もないだろう。
俺は「エレメンタルフォレスト」を進化先に選ぶ。
すると画面に『【神性値】を消費しますか? はい/いいえ』という問いが表示されたので、もちろん『はい』を選択した。
瞬間――、
『ぅぉおおおおッ!?』
進化が始まり、エルフの里全体が鳴動し始めた。
 




