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第二話 小さいおっさん、死す

評価までいただけてしまった……!(@ ̄□ ̄@;)!!

ありがとうございます!m(_ _)m


 ●○●



 この森の中に、植物以外の生き物がいないわけがない。

 虫は元より、リスのような小動物やウサギのような動物、あるいは鹿や熊のような大型の動物までも見たことがある。

 その全てに「~のような」と付くのは、単に俺の知識と合致しない特徴があるために断言することができないからだ。


 俺の知るウサギは角が生えてはいなかったし、刃のように鋭い角で猪みたいな動物を切り殺す鹿もいなかった。ましてや立てば5メートル近くの体高を有する種類の熊など知らない。

 そんな危険そうな動物たちが跳梁跋扈する魔窟のような森の中だが、俺からしてみれば意外と危険は少ないことに気づいた。


 そもそも肉食の生物ならば、俺になど見向きもしないし、ウサギみたいな草食の動物であっても、この広大な森の中で幾らでも生えている雑草の中から、俺を選んで食べる確率など稀だ。


 それでも一度だけ、角の生えたウサギ(以下、角ウサギと呼ぶ)に食べられた事があったが、たとえ地上部分が全滅したところで(実際には葉っぱしか食べれてはいないが)、地下茎に栄養その他を蓄えている俺ならば、再生するのは容易だったのである。


 たまに小さい虫が俺の葉を蝕んだりすることもあるが、その被害とて軽微。

 今のところ、俺の命を脅かす天敵の存在は確認できなかった。


 だがしかし、やはりここは野生の世界である。

 弱肉強食の理は、厳然として在るらしい。

 いつものように暖かい日差しを浴びて光合成に勤しんでいる俺の前に、森の奥から「キュイキュイっ!」と緊迫感のある鳴き声をあげて、一匹の角ウサギが飛び出して来たのだ。


 だが、現れたのは角ウサギだけではない。

 その後ろから角ウサギを追うように「ギャッ、ギャッ!」と良くわからない声をあげながら、身長1メートルくらいの二足歩行のおっさんが現れたのだ。


 二足歩行のおっさんとは自分でも何を言っているのかわからないが、事実そんな感じの外見をしていた。

 緑色の肌にちょっと尖った耳、禿げ散らかしたように頭髪の薄い頭部に、手足は細いのに中年太りしたかのように腹が出ている。猫背でがに股で、服らしきものは腰に巻いた毛皮だけ。右手にはこん棒のつもりなのか、ちょっと太めの木の枝が握られていた。


 緑色のちっちゃいおっさん、とでも言うべき風体。

 だが、奴を初めて見た時、俺の脳裏に(いや脳とか無いというツッコミは、もう……ね?)とある名称が浮かび上がったのである。


 あ、ゴブリンだコレ。


 ステータスの時と同じく、ゴブリンも前の俺にとっては身近な存在だったのだろうか?

 ちょっと臭そうだし嫌である。


 ともかくこのゴブリン、どうやら角ウサギを狙っているようだ。

 対する角ウサギは追って来たゴブリンを確認し、その反対方向へ逃げようとして――、


「ゲッゲッ!」


「キュキュっ!?」


 2体目のゴブリンが角ウサギの退路を絶つように現れた。

 どうやら悪知恵が働くのか、ゴブリンたちは2体で角ウサギを挟み込むように動いていたらしい。

 とはいえ頭はそれほど良くないのか、追い込むにしても地形とかもう少し考慮した方が良いのではないか。角ウサギからしてみれば前後を挟まれたところで、右にも左にも逃げるのは容易い――そんな風に考えていた俺だが、そこから予想外の展開になった。


「キュキューイっ!!」


 やってやらぁっ! 的に勇ましく叫んだかと思うと、角ウサギは前方のゴブリンに向かって素早く突進。

 その気迫にゴブリンが怯んだ隙に跳躍!

 なんと額に生える鋭い角を、ゴブリンの腹部へ斜め下から突き刺してしまったのである!


「ギャっ、ギィ……!」


 と苦しそうに膝を着くゴブリン。


 えー。

 ウッソだろおい。

 ゴブリン弱すぎね?

 それとも角ウサギが意外と強いのか。


 唖然として俺が見つめる前で、角ウサギはゴブリンに角を刺したままジタバタしている。

 傷をさらに抉り内臓を掻き回してやるわ! 的な動きかと思ったが、うん? なんだかちょっと違うようである。


 アレだわ。

 たぶんこれ、アレだわ。

 角、自分では抜けなくなってるわ。


 身動き取れない角ウサギのもとへ、残る1体のゴブリンが迫る。

 奴は仲間に角が突き刺さったままだというのに躊躇う様子も見せず、


「ギャッ! ギャッ!」


 鬼の首でもとったかのような笑みを浮かべて、手にしたこん棒を何度も何度も角ウサギへ向けて振り下ろす。

 角ウサギは息絶え、ついでに角が刺さっていた方のゴブリンも、内臓か血管が致命的に傷ついたのか、大量の出血と共に死んでしまった。


「ギィ~」


 ゴブリンは何事もなかったかのように角ウサギを持ち上げると、仲間の死を気にする様子もなく満足げな笑みを浮かべて森の奥へ歩いて行ってしまった。


 えー……。


 狩りをするにしても角ウサギ1匹を狩るのに仲間が1体死んでいたら割に合わないどころではないと思うし、そもそも仲間意識とか皆無なのだろうか。

 色々とツッコミどころ満載な事件だったよ。


 後に残されたのは、ゴブリンの死体が一つ。


 ふと。

 時間が経って衝撃から我に返ると、俺は気になった。


 あのゴブリンの死体に『エナジードレイン』をしたらどうなるのかと。

 虫を捕食する植物もいるくらいだ。虫よりも遥かに大きいゴブリンならば、得られる栄養は比べ物にならないのではないか。


 なので実際に試してみた。


 わっさわっさと体を揺らしながら、苦悶の表情を浮かべるゴブリンの死体へと歩み寄る。

 それから死因となった腹部の傷へと根っこを伸ばし、そこから体内へ軽く根を張り『エナジードレイン』を発動する。

 すると――、



 お?

 ……おお?

 おっ、おおぅ……!!



 素晴らしいほどに体に活力が満ち溢れてくる。

 地面に根を張って『エナジードレイン』をするのとは、まるで比べ物にならないほどだった。

 光合成をしていても、これほどに満たされる感覚はない。

 運動したことで(といっても、少し歩いただけだが)失われた生命力もすぐに回復してしまった。

 それどころか、体の奥底から力が湧き出すような感覚が何度もある。レベルアップが次々に訪れているらしい。

 だというのに、ゴブリンの死体からはまだまだ吸いとれそうであった。


 俺は根の一部をゴブリンの死体に広げたまま、他の部分で地面へ根を張る。

 そうして地面へ張った根の一部を『地下茎生成』で変化させ、得たエネルギーを次々に蓄えていく。

 じゃがいものような地下茎を十数個作っても、まだまだエネルギーは有り余っていた。


 さらに貯蓄しても良いのだが、こんな機会が早々に巡って来るとも限らない。

 俺は今まで一度も試した事のないスキルを使ってみる事にした。

 それはもちろん、『種子生成』だ。




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