第二十七話 新たな狼人族とゴー君の内なる成長
前話は急いで書いただけあって、誤字脱字やらが多かったようで……ご迷惑おかけしました(^^;
誤字脱字報告とても助かりました。
報告していただいた方々、ありがとうございましたm(_ _)m
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狼人族の一団、ヴォルフたちガル氏族がエルフの里へやって来てから一月余り。
平穏な日々を送っていた俺たちだが、少しばかり厄介な事態になっていた。
ある日――、
「ガーみたいなひとたち、またきたっ!」
ハイエルフの高性能感知か、あるいはセフィが維持しているという結界に触れたからなのか、この里に近づいて来る一団をセフィが察知したのだ。
「なんかすごくよわってる! たすけないと!」
しかも健康状態まで把握できるらしい。
きりりっと真剣な様子で動き出し、鉢植えに植わっている状態の俺をずぼりっと引き抜くと、家を急いで出て行こうとする。
狼人族を助けることに異論はないが、当然のように単身で(いや、俺の事は連れて行こうとするのだが)里の外へ出ようとするのは如何なものか。
ハイエルフとしての責任感や使命感がそうさせるのだろうか。
危険だと言って止まるセフィでもない。
なので俺は、セフィが家を飛び出す前にメープルへ伝える。
今は夕食時だったので、食事の世話をしに来ていたのだ。
『メープル、たぶん狼人族がやって来た事を長老に伝えてくれ!』
「わかりました。しかし、姫様に護衛を」
『言っても止まらないだろ。だから護衛は途中でつかまえる』
「守護者様たちですね。それならば安心ですが、どうかお気をつけて」
『ああ、ありがとな』
里の周囲にはうっかりと増やし過ぎたゴー君たちがいる。
俺が念話で命じれば、すぐに集まって来るだろう。戦力的には十分だ。だが、ヴォルフたちの時みたいな事もある。セフィがいれば大丈夫だとは思うが、ゴー君たちを見て恐がる可能性もあるからな。一応、ウォルナット辺りを呼んでおくか。
今は流石に家にいるだろうが、なぁに、アイツの家の場所は把握している。
最近では魔力操作の腕も上達してきて、ウォーキングウィードの体でも里の中程度ならば好きな場所に「声」を届ける事も可能だ。「大声」で呼べば一発だよ。
とはいえ無駄に魔力を消費する事もない。
ウォルナットの家に近づいたら念話を飛ばせば良いか。
俺がそんな事を考えている間にも、セフィは大樹の枝から垂れ下がる蔦に飛びつき、地面の下へ降りていく。当然俺はセフィの腕に掴まっているぞ。
それからセフィは迷う様子も躊躇う様子も見せず、一直線に茨の門の方向へ向かって走り出す。
その途中、里の中心にある広場を突っ切ろうとした時だった。
『――え?』
セフィは何ら気にせず、むしろ目にも入っていない様子で通り過ぎようとしたが、そこには目を疑う光景があった。
いや、こんなにも驚くのは、この里では俺だけかもしれないが。
何しろエルフたちの「彼ら」に対する信頼感は、いまや半端ないものがあるからな。
そこにあったのは二つの人影。
カンカンと響く音は、相対する二者が木剣を打ち鳴らす音。
もうすぐ日が沈む時分だというのに、真剣な様子で鍛練に励んでいる。いやはや熱心な事だ――と、感心している場合じゃないんだよ、色々と。
片方は呼ぼうと思っていたウォルナットだ。
いつもの様子からは考えられないほど真剣な表情で木剣(俺が作ってやったミストルティンだ)を振るっている。
それはまあ良い。
呼ぶ手間が省けたというものだ。
問題はウォルナットの相手である。
レッドオーガほどの高い身長に、それに負けないほどの厚みある体格。
だが、その厚みを形作るのは筋肉ではなかった。全身が頑丈そうな樹で出来た人型。手に持つのは黒く硬質な光を反射する木剣――って、ゴー君1号じゃねぇかッ!?
なんでこんなところにいるんだよ!? 何してんだよ!?
色々突っ込みどころがあり過ぎるが、このままではどんどん離れていくばかりだ。
俺はとりあえず色々な疑問を封じ込めて両者を呼んだ。
『ウォル! ゴー君! 新しい狼人族が来たらしい! 出迎えるから俺たちについて来い!』
「――え? 精霊様? 姫様? え、何ですかいきなり?」
『はやぁーくっ!』
「わ、わかりましたって! 今行きます!」
慌てた様子でウォルナットが追ってくる。
ゴー君? ゴー君が俺の命令を無視するわけがない。言った瞬間にこっちに来てるよ。
走るセフィに両者が追いついたところで、俺は気になった事を聞いた。
『ところでウォル、ゴー君と何してたの?』
「何って、剣の鍛練ですけど?」
見れば分かるでしょ? とでも言うような顔でこちらを見るウォルナット。
うん。それは見れば分かる。二人が鍛練をしていたのは予想していたけど、一応、確認しておきたかったのだ。
『ゴー君に、鍛練の相手してくれって、お願いでもしたのか?』
「いえ、俺からお願いしたんじゃないですよ。守護者様からお願いされたんです」
どういうことだってばよ。
『ご、ゴー君からお願い……? 会話、したの……?』
いつか喋り出すんじゃないかとは常々思っていたが、ついにその時が来てしまったのか――と、戦々恐々とする俺に、ウォルナットは「いやいや」と首を横に振って否定する。
俺は安心した。
ゴー君を蔑ろにした事はない(と思うよ……?)けど、喋れるようになって反抗されたらと思うと恐ろしい。
「そこはほら、身振り手振りで意思疏通したんすよ」
『マジかよ』
俺はちらりとゴー君を見やる。
その表情は読めない。というか頭部はあっても判別可能な顔らしきものは存在しないから当然だが。
最近ではレベル上げのために自分から強い魔物に会いに行ったり、身振り手振りで意思疏通したり、剣の鍛練を自主的にしたり……って、確実に自我に目覚めてるよね!?
もういつ喋り出してもおかしくないぞ。
「いや~、実力では守護者様の方が上ですけど、純粋な剣術の腕ならまだまだ負けないですからね。これでも俺、剣術120年やってますから」
ゴー君に教えを乞われたことが嬉しいのか、鼻高々に聞いてもいない事を語り出すウォルナット。
ウォルナットは130歳くらいという話だったから、物心ついた頃から剣の鍛練を始めたのだろう。事実、剣の腕前だけならウォルナットはエルフの里でも1、2を争うだろう。まあ、普通のエルフは剣をあまり使わないという落ちがあるのだが。
寿命の長いエルフだけあって、120年の修行とかタイムスケールが半端ない。
『へぇ、そうなんだ』
でもウォルナットの自慢とかどうでも良いからね。
問題なのはゴー君だよ。後々反抗されないように、ちょっと優しくしてみるべき? あ、そうだ。後でミストルティンとか贈ったらどうだろうか?
俺がそんな事を考えている間にも、セフィは目的地へ向かって駆け続けている。
茨の門を通り抜けて外へ。
普通の木々のように立ち並ぶゴー君たちの間を抜けて、さらに森の奥へ。
そして程なく――、
「いた!」
セフィが声を上げて前方を指差した。
梢の間から夕日が射し込んではいるが、とても微かで森の中は薄暗い。
それでも『魔力感知』の精度を意識的に上げてみれば、実際に光を見ているわけではない俺ならば、暗闇を見通すことも簡単だ。
確かにいた。
狼の耳と尻尾を持つ狼人族だ。
だが、ヴォルフたちのように30人にもなる大所帯ではない。
せいぜいが数人――1、2、3……6人だ。
少数で森を歩いて来たからなのか、全員がかなり憔悴した顔をしている。頬は痩け、目の下には濃い隈がある。魔物の縄張りによっては、ろくに夜営もできず不眠不休で歩く他ないとヴォルフも言っていたから、彼らの様子も無理ない話なのだろう。
「おーい!」
と、セフィが声を張り上げて手を振った。
それで向こうもようやく、俺たちの存在に気づいたらしい。
「あ、……え、森、神さま……?」
エルフたちのように狼人族はハイエルフを判別できるらしい。
セフィを見た狼人族の壮年の男は、どこか安堵したような表情を浮かべ――、
「おーい、大丈夫っすかー!」
声をかけてきたウォルナットを見やり、それから視線はセフィの握る雑草(つまり俺)には見向きもせずに、最後尾に立つゴー君1号に止まった。
「――――」
「ええ!? ちょっと!?」
「だいじょぶー?」
そしてなぜか壮年の男は気を失って地面に激突するように倒れ伏した。
地面が柔らかい腐葉土で助かったな――とか思いつつ、俺は背後のゴー君をそっと見やる。
――うん。
身長が3メートル以上あるゴー君は、暗がりで見ると一層恐ろしい化け物に見えた。
でもゴー君が良い奴だって事、俺、知ってるからさ……。




