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第二十四話 公正で公平な世界のために

三人称視点です。

少し続きます。三話だけお付き合いくださいm(_ _)m


 ●○●



 真に公正で公平な世界にするために、必要なことは何だろうか。

 イコー教においては明確な答えが示されている。


 それは多数決の原理だ。


 少数の存在の意見より、多数を占める意見を優先させる事こそが、真に公正で公平なものの決め方である。

 より多くの人々が望んだ選択こそが、この世でもっとも尊ぶべき選択である。

 その選択こそが、より多くの人々の共感と肯定を得ることは、疑いようもない。


 で、あるならば。


 世界に存在する人類の中でも最も数の多い人族こそが、世界を主導するべきなのは自明の理だ。

 断じてエルフやドワーフ、獣人などの亜人種が優遇され、奴等の意見が優先される事などあってはならないのだ。

 だが残念なことに、この世界には亜人種どもを優遇する邪悪な存在がある。


 ――自然神。


 ラグナロクにて滅んだ旧き神々よりも、さらに古い、忌まわしき異教の神々だ。

 無論、イコー教において自然神は神などではなく、滅ぼすべき悪魔に過ぎないのだが。


 その悪魔どもは、自らを自然の一部などと騙り、常に決まった亜人種から生まれ、何度も代替わりを経て存在を継承する極めて危険な存在だ。

 自らが生まれる種族の者たちを優遇し、自らを信仰しない他種族を排するという思考の持ち主なのである。


 それが真に公正で公平な神であるならば、少数の種族だけを優遇するような真似をするはずもない。

 ゆえに、それが神ではなく悪魔であるという完璧な証拠になる。

 そして、それが敬虔な人々に害なす悪魔ならば、滅ぼすのが葬炎騎士カイ・ビッカースの使命であった。


 だがここ数年、頭を悩ます問題がある。

 一度は滅ぼした悪魔の1柱、ハイエルフが代替わりを経て復活してしまった可能性がある、という事。

 そのハイエルフ率いるエルフの集団の行方が、数年を経ても未だ知れないという事。


 しかし、そんな歯痒い現実に、一筋の光明がもたらされた。


「北部開拓で狼人族どもと戦闘になったのは知っているな?」


「ハッ、もちろんです」


 それを聞いたのは任務もなく、待機中であった騎士団詰所での事だった。


 北部大司教区、聖都シンカ。

 周辺諸国でも首都に匹敵するような人口を抱え、白亜の建築物を基調とした美しい街並みが広がる都市の外縁付近に、葬炎騎士団の詰所はあった。


 基本的に聖都からは動かない聖炎騎士団とは違い、異端者や異教徒を裁き滅する「浄化」の役目を負う葬炎騎士団は実力主義であり、それゆえに質実剛健な気質がある。

 それを体現するかのように質素な団長執務室にて、カイ・ビッカースは団長その人と相対していた。


 執務机を挟んで向こう側に腰かける団長ディラン・ウォルターは年齢不詳な男だ。

 後ろへ撫でつけた金髪と氷のような冷たさを宿す青い瞳。顔立ちは整っているが表情というものが窺えず、まるで人形のようにも見える。実年齢は30代前半のはずだが、美しく表情のない顔立ちのせいで20代前半のようにも、あるいは30代後半のようにも見えた。

 外見からして何処か人間離れした我らが団長。


 対してカイ・ビッカースは見た目は平凡な男だ。

 茶色の髪に茶色の瞳。そばかすの散った平凡な顔立ちは、けれど愛嬌という点では団長よりも優れているだろうか。彼の人格を知らなければ、どこか人懐っこそうな印象を抱く外見だった。

 年齢は25歳。

 町中ですれ違っても印象には残らない平凡な男である。

 だが、その中身は平凡とは程遠い性質をしている。


(やっぱり平和なのは退屈だなぁ……)


 ここ最近、そう思うことが多い。

 特に重要性の高い任務もなく、やる事と言ったら訓練や都市の巡回警備、たまに要人の護衛くらいのものだ。


 聖都シンカでの都市警備も確かに重要な任務ではあったが、聖都の守護は本来、聖炎騎士団の領分である。

 やはり葬炎騎士団たる自分は、異端者や異教徒を浄化し救済を与えてやることが使命であり、生き甲斐であったのだ。都市警備など葬炎騎士の仕事ではない。


 もちろん、高潔な騎士である自分が不満など漏らすわけがないが、それでも都市でのぬるま湯のような生活に厭きてきた頃、直属の上司である葬炎騎士団団長に呼び出された。

 団長の執務室に呼ばれたところで、話は北部開拓の事から始まった。


「無論、教国が絶対的に優勢であるのは言うまでもないが、少しばかり迷惑な存在が狼人族に加勢に来たらしい」


「はあ、迷惑な存在、でありますか?」


「ガーランドだ」


「ガーランド!? 大罪人ガーランドですか!?」


 尊敬する団長の言葉であったが、悦び――もとい、驚きを隠せない。

 6神が投入されたアルヴヘイムでの大戦において、多数のエルフを庇い、逃がすという罪を犯した大罪人であり、周辺諸国でも名の知られた狼人族の戦士――ガーランド。


 アルブヘイム攻略を境に行方が知れなくなっていた人物のはずだが、同胞の危機とあってか、ついに表舞台に再び現れたらしい。


 久々に救済しがいのある罪人が現れたとあって、カイの期待は高まる。


「それでは、大罪人討伐に動くのですね!?」


「いや、すでにガーランドの行方は不明だ。アルヴヘイムでのように、今度は同族の逃走を助ける目的で現れたようだな。こちらの追撃に対する遅滞と同胞の逃走補助に徹し、奴率いる傭兵団との正面衝突はほとんどないらしい」


「なんと……正々堂々と戦わず逃げるとは、卑怯な……!」


 残念がるカイに、団長は続ける。


「だが、なかなか面白い報告がある。生き残りの狼人族どもが次々と森の奥へ消えているという話だ。受け入れてもらえるかは別として、隣国へ難民として逃げるならまだしも、どうも全てが北へ向かっているようだ」


 それは確かに、奇妙な報告だった。

 カイは己の脳裡に地図を思い浮かべながら言う。


「北へ……北上したところで、霊峰フリズスしかありませんが」


「そこまで向かうのかどうかは分からんが、住めるような場所がないのは確かだ。それでも大人数で北へ向かうという事は、何かある」


 樹海の奥は豊富な魔素の影響で魔物も強く、とても人が住めるような環境ではない。

 なのに大勢の狼人族が、そこを目指しているという。

 何かがあるのは明らかであった。しかもガーランドが現れたという情報を加味するならば、一つの推測が現実味を帯びる。


 逃げたエルフたち。

 代替わりしたハイエルフ。

 ハイエルフの持つ忌々しい力。

 それは、そこが森であるならば、どんな魔境であっても都市を築くことを可能とする。


 エルフどもの居場所をガーランドが知っている可能性は極めて高かった。何しろ奴がエルフたちへの追撃を邪魔し、逃がしたのだから。


「新しいアルヴヘイムを目指している、と?」


「その可能性は高いだろう」


 カイの推測を団長も肯定した。


「それで、狼人族の集落を、わざと一つ残したままにしてある。好戦的な氏族を選んだから、まだ何処ぞへ避難してはいないようだが、ガーランドがその氏族に接触した事は確認している」


「なるほど……それは、素晴らしいですね」


 まだ教国に勝てると思っている頭の悪い犬っころたち。

 果たして為す術もなく蹂躙された時、奴等はいったい何処へ逃げるだろうか。

 少なくともガーランドに避難場所は教えられている事だろう。


(面白くなってきた)


 カイは胸の高鳴りを抑えられない。

 愚か者を手のひらの上で踊らせ、最後に絶望した顔を見るのは大好きだ。

 対して、団長は感情を感じさせない冷徹な視線で、カイへ命じるのだ。


「葬炎騎士カイ・ビッカース」


「ハッ」


「君に一つ、任務を言い渡す」


「ハッ、何なりとお命じ下さい!」


 真面目な表情の裏でにんまりと笑いながら、背筋を正して団長の言葉を待つ。

 あるいはガーランドなどより、ずっと重要な悪魔と異教徒どもがいるかもしれない。

 にわかに湧き立つ闘争の気配に、カイ・ビッカースは興奮した。




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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなく民主主義を広めようとして失敗しちゃったみたいな宗教に見える
[一言] ゴブリンがいるならヒト型では一番多いだろうからその宗教国家はゴブリンに従うの? 一番数が多いだろう魔獣や魔物が一番偉くて逆らわずに喰われろって教えになると思うんだけどそれは認めないんだろう…
[一言] >>自らが生まれる種族の者たちを優遇し、自らを信仰しない他種族を排するという思考の持ち主なのである。 まさに自分らが推し進めてることこそがそれなのに、そんな簡単なことに気づけないほど新神教は…
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