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第二十三話 ゴー君たちの森


 ●○●



「おや? 姫様に精霊様、今日も外へ行かれるのですか?」


 エルフの里の外縁、茨の壁にある門にて。

 緑色の長髪を頭の後ろで括った青年エルフが、近づいてくる俺たちを見て声をあげた。

 元々線の細いエルフの中でもさらに線が細く、男なのに女性に見える彼の名前はローレル。

 赤毛のウォルナットと共に里の自警団みたいな集団に属している青年で、俺が初めて里にやって来た時に出会ったエルフの片割れでもある。

 ちなみに、エルフの里では出来る者が出来る事をやる――みたいなふんわりとした役割分担がほとんどであり、そのものずばり自警団とか警備隊という名前の組織があるわけではない。


 以前住んでいたという森林都市アルヴヘイムではそうではなかったそうだが、少数の里では明確な役割分担をしないのが常らしい。


「うん! ゴーくんたちのところ!」


「そうですか、それでは今日は、私がお付き合いしましょう」


 元気良く答えるセフィにふんわりと微笑んで、ローレルは言った。

 それから傍らに立っていたウォルナットの方を向いて告げる。


「では、いってきますねウォル」


「おお、いってらっしゃい」


「いつかのように勝手に持ち場を離れないようにお願いしますよ?」


「あれは不可抗力だろ……」


 狼人族が来た時の事を言っているのだろう。

 ウォルナットが辟易とした表情を浮かべる。


「あなたは念話も使えるし風魔法も使えるでしょう。少し考えれば報告くらいはどうとでも出来たはずですよ。精霊様がいたとはいえ、あなた一人だけがついて行って姫様に何かあったらどうするんですか?」


「わ、分かりました……俺が、悪かったです……」


 すでに何度も同じ事を言われているのだろう。

 ウォルナットは勘弁してくれとでも言うような、情けない表情を浮かべながら謝罪した。

 セフィに抱えられた俺は、そんな彼に労いの言葉をかける。


『まあ、元気出せよ』


「精霊様……取り成してくれなかったこと、忘れてませんからね」


 恨みがましい顔で言われるが、それは八つ当たりである。

 ウォルナットの言葉を華麗にスルーしつつ、俺たちは一応護衛役でもあるローレルを先頭に、里の外へ出た。

 まあ、当然のように、茨のアーチを潜り抜けた先にあるのは、森だ。

 どう見ても森である。うん。森。


 そこにあるのは、程よい間隔を空けて立ち並ぶ木々。

 俺がここに来たばかりの頃より、少しだけ背丈が低いようにも感じるが、間違いなく木々である。

 ぐるりと茨の壁沿いに一周してみても、やはり若干背丈が低い木々が立ち並んでいるようにも思えるが、何も問題はない森の光景である。

 木々の梢の間から漏れる柔らかな陽射しが、静かで幻想的な森の光景を作り出している。


「しかし、それにしても流石は精霊様ですね」


 と、そんな幻想的な森の中を歩いていると、なぜかローレルが俺を褒めてきた。


『え? な、何のこと?』


 本当に何のことであろうか。俺には理解できない。


「何って、この森の事ですよ。最近では近くにゴブリンすら寄りつきませんし、来たとしても私たちが気づく前に消えていますからね」


『へ、へぇ……それは、ホラーだな』


「ホラー……? というのは、良くわかりませんが、ともかく守護者様たちのおかげで、子供たちもある程度は森の中を歩けるようになって、色々素材を採って来ることもできるようになりましたし、かつてないくらいに安全になりましたからね」


 そう言うローレルは、本当に感謝しているように見える。

 まあ、感謝してくれているなら良いのだけど。別に問題がないのなら、良いのだけど。

 そんな俺の心の声が聞こえていたわけではあるまい。


「まあ、強いて難点を挙げるなら、弱い魔物がいなくなって子供たちの狩りの相手が不足している事くらいでしょうか」


『うっ! うーん、そうか、それはすまん』


「いえいえ、責めているわけではありませんよ? 精霊様には感謝しているんですから」


 そう?

 それホント?

 ホントはやり過ぎだよてめぇとか、思ってたりしない?


 そんな疑念は尽きないが、実際に聞くことはできない。

 聞いて肯定されたら、俺の繊細な心は深く傷つくだろう。


 何がやり過ぎなのか?

 それはもちろん、この森の事である。


 いまやエルフの里外周に広がる、少しだけ背丈の低い木々の森。

 この森の木々すべて、俺が生み出したマナトレントであり、ウッドゴーレムなのだ。

 普段はただの樹木に擬態させているが、魔物などの外敵が近づいて来た場合には、それを排除するように命令を下している。

 一応ゴーレムなので、人型をとって動くことも可能だ。枝が腕に、根が足に変化して戦う。


 とはいえ、その見た目は初期のゴー君たちに比べたらかなり手抜きであろう。

 質よりも数を重視して作ったらこうなったのだ。

 量産型ゴー君、とでも言うべき存在なのだった。


 なぜこんな量のゴーレムを作ったのかと言われれば、特に明確な理由はない。

 エルフや狼人族たちからの捧げ物や、光合成に『エナジードレイン』をしているだけで、大分エネルギーが余り気味だったのだ。

 地下茎として過剰に死蔵していても勿体ないし、何かを作ってみるかと考えた時、経験値を捧げてくれるゴー君たちのような配下の存在は便利だと思った。

 なので毎日こつこつと作っていたのだが……いつの間にやらこんな量に。


 それで外周に配置している理由は、あまり俺から離れすぎると念話も届かないし、そうなれば野生化してしまうかもしれない。なのでセフィにお願いして元々あった木々を移動してもらい、空いた場所にマナトレントのゴーレムたちを置いたのである。


 ちなみに、セフィは植物魔法を使って簡単に木々を移動させてくれた。

 どデカいウォーキングウィードみたいに木々が歩いて行くのは、なかなかに壮観な光景であった。


「それに」


 と、ローレルが心底感動したような調子で、森を見渡しながら言う。


「これだけのマナトレントの森は、そうそうお目にかかれるものではありませんよ。彼らのおかげで、今の里は規模こそ小さいですが、かつてのアルヴヘイムにも匹敵するほど魔素濃度が高いですから」


 周囲の木々は大体マナトレントなので、当然、スキルには『地脈改善』がある。

 このスキルの効果により、里一帯は地脈を引き寄せ、魔素が豊かな地へと急速に変貌しているらしい。もともとこの辺りは魔素濃度の高い土地ではあるらしいのだが、それでも以前とは比べ物にならないほどだと言う。


 普通なら周辺の魔物が強くなってしまうので歓迎できない現象だが、森の中でハイエルフたるセフィがいるならば、恩恵だけを享受する事ができるらしい。

 やり過ぎたかと戦々恐々としていたが、今のところ苦情の類いは来ていないから、問題はないのだろう、うむ。


 ちなみに、擬態しているゴー君たちには「おうえん」はしない。

 さすがに数が多すぎるからだ。

 なので歩き回って大きなダメージや損傷があるゴー君がいれば、それを治癒するのが目的だ。

 そして初期のゴー君たちは、いまやマナトレントの森の外側を警備巡回するようになっている。時には経験値を稼ぐためにか、少しだけ遠征している個体もいるようなのだ。


 ……俺、そんな命令下してないんだけどね。


 正直、最近のゴー君たちの成長っぷりが頼もしいやら恐ろしいやらである。




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― 新着の感想 ―
[良い点] すごくほっこりしました!楽しみにしてます~
[一言] 続きが読みたいです。更新をよろしくお願い致します。
[一言] ポイント入れました。面白かったです。
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