第一話 やっぱ光合成だよね
さっそくのブックマークありがとうございます!
めっちゃ嬉しい( ≧∀≦)ノ
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深い深い森の中にて何日も経った。
日が沈んでまた昇るのを16回は繰り返しただろうか。
基本的には何も起こらない、平凡と呼ぶにも退屈過ぎる日々だったが、せっかくこうして思考する事ができるのだ。俺とて何もしなかったわけではないし、何も起こらなかったわけではない。
まず最初に俺がしたのは、動く事だ。
というのも、場所を移動するのが目的なのだった。
何しろこの森、木々は密集していて鬱蒼とした梢によって昼でも薄暗い。
俺の背丈は周囲の木々よりずっと低いのだから、当然、太陽の光をまともに浴びる事も出来やしない。
時おり太陽の角度によっては、梢の間から漏れる陽光を運良く浴びれるくらいのもので、それだって短時間の出来事でしかない。
もちろん、太陽の光を直接浴びなくとも昼間であればそこそこは明るいわけで、一応、光合成は行える。だが、その効率は非常に悪いと言わざるを得ないのだ。
まあ、光合成に頼らずとも根を張った地面から『エナジードレイン』で魔力やら生命力やらを吸収し、あとは普通に水分と養分を吸収しておけば、とりあえず死ぬ――もしくは枯れる――事はなさそうであったが、日当たりの悪い場所にある植物が、果たして大きく成長できるだろうか?
いや、できまい。
生物の本能として、俺にも多くのエネルギーを求める衝動はある。
いや単純に、今の俺にとって太陽の光を浴びる事が快感だという事もあるのだが。
そんなわけで、俺は【生命力】の値を大きく減らさないようにしながら、少しずつ少しずつ、木々の梢が支配していない空間を探して移動を開始したのだった。
それは地味で地道で根気のいる作業だった。
一歩進むだけで【生命力】の値が減る。だから一歩進んでは休息し、回復しては一歩進むの繰り返しだ。
幸いにして回復するまでの時間は1時間(たぶん、体感でだが)にも満たない程度なのだが、遅々として進まない現状にもどかしい気持ちになる。
そこで、俺は初めて【地下茎生成】のスキルを使ってみた。
地下茎を生成し、そこに生命力を蓄え、移動する時に使用することで一気に数歩進むことができるようになったのだ。
しかし、幾らでも蓄えられる、というわけでもない。
いやいや、感覚的には時間さえあれば幾らでも蓄えられそうではあるのだが、多く蓄えればそれだけ地下茎の大きさも大きくなってしまう。
にんにく程度の大きさであれば、まだ動くことはできたが、じゃがいもみたいな地下茎が幾つも連なっていると、俺のボディでは動こうにも動けなくなってしまうのだ。歩くのに邪魔になるし、何より重すぎる。
そんなわけで、俺は歩くのに支障ない程度の大きさで地下茎を生成し、そこに限界まで生命力を蓄えては数歩進む――という事を繰り返した。
その内、【レベル】が上がって【生命力】の値が増えたので、一日に進める距離も徐々に増えていった。
どうやらレベルというのは、魔物とかモンスターを倒さなくとも上がるようだ。
なぜかレベルを上げるにはモンスターを倒して経験値を稼がねばならない――というような知識があったので驚いたのだが、モンスターを倒さなくても良いのなら、俺にとっては好都合だ。
この軟弱極まりない雑草ボディで、いったい何を倒せと言うのか。
虫……?
まあ、倒せるとしてもそれくらいであろうし、実際虫を捕食できないかと(そういう植物がいると知識にあった)頑張ってみたのだが、あえなく逃げられてしまうこと多数。
今は見逃してやるよ……と虫たちに慈悲をかけつつ、地道に移動することを優先する。
そんな日々が続いて8日後、俺はついに森の中に俺だけの楽園を見つける事ができたのだ。
分厚い梢に閉ざされた薄暗い森の中、偶然にも木が生えておらず、木一本分くらいの空間が開けている。
柔らかな陽光が惜しみ無く降り注ぐその場所では、若草色の雑草ども(俺のように動く草ではないようだ)が伸び伸びと葉っぱを繁らせていた。
俺は地下茎に蓄えた生命力を使いきり(俺の主観としては)急いで小さな広場の中心へ移動した。
当然のようにそこにも雑草が生えていたのだが、『エナジードレイン』を使いながら触れるとみるみる内に枯れていく。
同じ雑草ではあるのだが、生きるためには他の命を奪うことも時には必要だ。
まあ、植物である俺ならば奪わなくとも生きることが可能なのだが、今の俺ってば動けるし、これはもう動物とも言えるのではないか? と自己解釈して気にしない事にする。
とにもかくにも、名も知らぬ同胞よ、許せ。
とかなんとか念じながら、雑草が枯れた場所に根を張ることに成功した。
ほわぁぁああ……!!
太陽の暖かな光が心地好い。
今までになく『光合成』が活発に働いているのがわかる。
太陽の光が五臓六腑(無いけど)に染み渡るぜ……!
などとやっていると、ボディの奥底から力が湧いて来るような感覚。
今までにも何度か経験した、レベルアップ特有の感覚だ。
やはり植物がレベルアップするのには、植物らしいことをするのが良いのだろうか?
そんな事はどうだってよろしい。
俺はここでまったり光合成しながら生きる事に決めた。
そうして数日、さらに時が流れ――俺が俺という自我を自覚してから16日目。
ステータスはこんな感じになっていた。
【固有名称】なし
【種族】ウォーキングウィード
【レベル】7/20
【生命力】21/21
【魔力】14/14
【スキル】『光合成』『魔力知覚』『エナジードレイン』『地下茎生成』『種子生成』
【属性】地
【称号】『考える草』『賢者』
【神性値】0
今のところ魔力の使い道は地下茎を作る時にしかないが、生命力は大分増えたので移動可能な距離も長くなった。
いや、しばらく移動しようとは思わないけどね。
何もなくて暇だけど、植物になったからなのかどうか、別に苦痛を感じるほどの退屈ではない。精神は肉体の影響を受けるってやつ?
ともかく光合成できれば満足な俺だったのだが、この次の日、奴等はやって来たのだ。